回想 12
数週間後、司令部からのグリフォンが新たな命令を運んできた。
どうやら我が軍はちゃんと相手国と協議をしたらしい。俺たちが第一防衛ラインとした辺りまでが我が国の実効支配下にあると宣言したようだ。
もちろん敵としてはそんなのは認めることはあり得ない。国境線は以前のまま一ミリたりとも動いてはいないと主張。
つまり状況は以前とあまり変わらないという事だ。
俺に与えられた新たな命令は「鹵獲した魔獣をそのまま使役し、畑の拡張を続けよ」というもの。あれだけギャーギャー言ってたが処分も処罰も減給もなし。上官への態度に問題はあるが、功績も大きいうえに、適した後任も育っていないという事だろう。
「妥当ですわね」
「そうかね。敵さんは魔獣の返還を求めなかったのかな?」
「戦闘よりも農耕や狩猟を重んじるようになってしまった魔獣を返還されても扱いに困るでしょうから」
「そうか、、、そうかな?」
「想像してご覧なさい。戦車を鹵獲されてブルドーザーに改造されて返されるようなものです」
「便利じゃないか」
「それに命令を聞かない可能性があります」
「そうだな、それは怖いか」
「耐え難いでしょう」
俺たちは第一防衛ラインまで出向くことにした。この辺りは敵の猛攻を受ける可能性が高いからである。
そしてゴブリンたちに説明する。
敵国との交渉が決裂したこと。この地が攻撃に晒される可能性が高いこと。ここを撤退しても掩体壕西側にはまだ手付かずの土地があり、そちらは安全であることを話す。
皆で協議して敵が攻めて来る前に引っ越しをするよう促したのだが、意外なことに断られた。
彼らはこの地を死守するのだそうだ。
長老格のゴブリンが言うには敵というのは土地を奪おうとする者のことだそうで、生まれ育った土を手放すことは『親が子と引き剥がされるような悲劇的なこと』なのだそうである。
彼らは何度も、土地ではなく『土』が大事なのだと言った。俺には理解できない価値観だが、違う生物なのだからそういう事もあるだろう。俺は彼らの意見を尊重することにした。
「危なくなったいつでも逃げてきて良いんだからね?」
そう言う俺を笑って長老はこう言ったそうだ。
「あなたは我々がどれだけ勇猛果敢かご存知ないようだ」
と。なるほど彼らは兵士というか元々兵器だもんな。確かに俺は本当の前線で彼らがどのように戦うのか見たことがない。
「ご健闘を。無事を祈ります」
「そういう時は『死ぬ気でぶっ殺せ。喉元に噛み付いて離すな』と発破をかけるものですよ」
そんなやりとりがあって俺たちは第一防衛ラインを辞した。
ゴブリン、思ったよりも凶暴でちょっと引くな。俺が種苗から育てた奴らも本性としてはこうなのかしら?
いや、あそこら辺のゴブリンは敵国で育ったから気性が荒いのかも知れない。
そういえば、育て始めた最初の頃はゴブリン同士で争ってなんなら共喰いとかしてたもんな。やっぱ戦う種族なのだな。
ひとまず、最前線の対策としてコウモリやハーピィによる監視の目は絶やさないようにしよう。実際に衝突が始まったら戦況報告も必要になるな。
これからが本番だ。身を引き締めねばならない。
「カイザキ様、第一防衛線は今後どうなさいます?」
「第一防衛ライン周辺での監視体制の運用を開始する。あとは戦況報告の仕組みを構築しないとな」
「そうですわね、まずは監視役のコウモリとハーピィからの報告とゴブリンへの聞き取りで試してみましょう。より精緻な情報が必要ならグリフォンや黒龍の派遣を考えましょう」
「よし、任せた」
「ぼく見たいなあ、戦争」
「フェルニゲシュは我慢できずに参戦してしまいそうですわね」
「ねえ主人、いつか僕も戦線に飛び込める?」
「どうだろうな。羽に穴でも開けられたら一大事だからな」
「そうですわよ。カイザキ様の身の安全を最優先に考えねば貴方なんてすぐお払い箱になってしまいますわよ」
「お払い箱? 箱に閉じ込められるの? それは嫌だなあ、、、」
こうして第一防衛線付近での小競り合いが常態化しあの辺りの畑は徐々に後退していった。とはいえ後方ではその豊かな実りを支えに、新たな戦士を産み出す繁殖が盛んに行われた。
数年後にはベヒモスである「砲台様」が突然目を覚まし、何事かと身構えると敵国もベヒモスを投入してきて散発的に砲撃を受ける事となった。
こちらは黒龍を観測者とし、ハーピィを伝達役とすることで精密爆撃を可能にした。
その結果、未成熟な敵のベヒモスを各個撃破してさらなる戦果を上げていた。
そして時は過ぎて現在に至る。
ヴォイロームイス少尉が最前線へ赴き、新たな灯台守として掩体壕を建設するという。
俺に対しての新たな命令は今のところ特にない。新たな前線の支援を頼むとあっただけである。
まったく、心配ごとが尽きない人生だ。。。
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