回想 11
「どういう事か説明してもらおう!」
本国の司令部はまた随分高圧的な態度でこちらを責め立ててきた。
「新しい命令がありませんでしたので最善と思われる行動を選択致しました」
「貴様がやったことは軍だけでなく政府への越権行為だぞ!」
「それは失礼致しました」
「どう責任を取るつもりなのだ!」
「自分は一介の兵士です。軍の判断にお任せ致します」
「ならばここで自決せよ!」
「それは命令ですか?」
「命令だ!」
「お断りします。兵士による自国民への暴力、制裁は条約で禁止されています。警察と裁判所への越権行為となります。この場合、自分自身も自国民と解釈することが可能かと思われます」
「ぐぬ、、、」
ちなみにここは掩体壕の外だ。コイツらを俺の城に入れてやりたくはない。
気付けば空にはハーピィとコウモリが集まって旋回し始めている。既にゴブリンたちは巣穴から出てきてここを包囲している筈だ。
奴らの何人かが周囲の異変に気づいて慌てふためき始めた。司令官に耳打ちをして司令官も驚いたようだ。
「貴様、何を考えている! 上官に武器を向けるか!」
「先ほども言った通り、兵士による自国民への暴力、制裁は禁止されています。それとは別の話ですが、私は部下である彼ら、、、魔獣たちの生活を守る義務もあると考えています」
「魔獣が部下だと! 笑わせるな!」
俺の背後の掩体壕のドアが開き、ネレイデスがするりと姿を現す。
「残念なこと。司令部は我々魔獣を部下とも国民とも認めてくださらないのですね」
「へ、蛇? 何者だ!」
「魔獣に名などございませんわ」
ネレイデスはぐいと背を伸ばし、司令官と視線を合わせた。
「我が主人、カイザキさまは軍規で縛られて自由な発言が制限されているようですから、兵士でも国民でもないわたくしから説明させていただきますわね?」
下っ端の数名は逃げ出せるように黒龍を引き寄せようとしたが、そこにはもう自分たちの黒龍は居ない。フェルニゲシュたちは奴らの背後から近寄り、奴らの乗ってきた黒龍を説得して離れてもらっていたのだ。
「カイザキさまに言い渡されていた命令は『この掩体壕を死守し、前線を維持すること』で間違いございませんね?」
「お前に発言を許した覚えはないぞ!」
ネレイデスは司令官を無視して続ける。
「先日、こちらから司令部宛に何度も手紙を送付させて頂きましたの。現状を訴え、こちらの準備状況も伝え、新たな命令と軍の対処を嘆願しました。三度も」
司令官は振り返り部下に確認をする。部下は頷き返した。間違いないのだ。
「ですのに毎度、書箱は空。仮に『現状を維持し、待機せよ』の一言でもいただければ我々は従いましたわ。なのに司令部は沈黙。ですので我々はこの地が放棄されたのだと考えました。甘んじて敵の侵入を受け入れろと? 我々は絶望しました」
俺たちの背後にはオークやオーガたちがやってきて並び腕を組んだ。
「とはいえ、わたくしたちだって身を守る権利がございましょう? ですから停戦の提案を捕虜に持たせて帰らせましたの」
「そ、、、それが越権行為だと言っているのだ!」
ネレイデスは微笑んだ。
「いいえ、違います。こちらは名乗らず、提案する相手どころか国名すら記入しておりません。もちろん本国司令部の認証印も入っておりません。公式な外交の文書の体裁を満たさないものです。つまりただの落書きです。これをどのような法律で処罰なさるおつもりなのかしら? 怪文書を受け取った敵国がそれを信じた、ただそれだけ。ただ敵が愚かなだけですわ!」
ネレイデスは司令官に近寄った。
「司令部だって当然、そう敵国を突き放したのでしょう? 違いますの? え、どう反応なさりましたの? まさか何も言い返さずにここにいらしたんですの?」
「貴様、我々をどうするつもりだ!」
ネレイデスは髪をかき上げた。
「どうするもこうするも、アポイントメントもなしにこんな黒龍の大群が飛んでくれば警戒くらいしますわ。だってここは戦地、そして今は戦時ですもの」
「即刻、我々を開放しろ!」
「どうぞ! 兵でも国民でもない野生生物であるわたくしたちにそこを退けと命令すれば良いだけです!」
司令官は相手がネレイデスでは不利だと気付いたのか俺を睨みつけてきた。
「中尉! 君には相応の処罰を受けてもうことになるからな!」
「何の罪でありますか?」
「、、、私戦予備陰謀罪だ!」
「捕虜を開放しただけで、ですか?」
「そ、それに命令不服従だ!」
「命令がないのにですか?」
「黙れ! すぐに我々を開放せんなら反逆の意思ありと判断し、貴様らを殲滅することになるぞ!」
ネレイデスは声を上げて笑った。
「そういう気の利いた台詞は敵さんに言っておやりなさいな。相手を間違っておいでですよ。それとーーー」
ネレイデスは司令官を睨みつけた。
「今、敵さんがやる気を出しているのは本国の新聞が『戦場魔獣師大活躍!』などと能天気に囃し立てた結果ですわ! それを許可したのが司令部なのか広報部なのか知りませんけどね、、、」
司令官は怒りで拳を震わせている。
そしてネレイデスは後ろに控える下っ端に向かって笑顔を向けた。
「皆さん、火の粉が自分に向かう前に自分の上官の能力を疑ったほうが賢明ですわよ? 不服申し立てや審査請求の書類は処分省庁に提出するものですから上官に握り潰される可能性は低いんですのよ。是非、ご活用なさって!」
司令官は可能な限り威厳を保ったまま立ち去ろうとしたが、あまり上手くはいってはいなかった。
部下たちも自分らの黒龍を慌てて集めようとしたが、彼らの黒龍たちは振舞われたうちの羊の味に舌鼓を打っていた。
「あと、ご存知でしょうけど、この前線ほど費用対効果の高い前線はございませんわ。塩とコーヒーと香辛料だけの補給でもう何年も維持してますのよ。魔獣の種苗もひと世代ぶんしかいただいてませんわ。是非お調べになってみてくださいませ!」
「あと下着な」
「軍の予算の使われ方にご興味が湧いたかしら?」
「おい、もうよせ」
「だってもうお会いする事もないでしょうから名残惜しくて、、、」
あとは俺たちみんなで手を振って司令部をお見送りしたよ。
やり過ぎたかも知れんな。やれやれ。
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