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開戦

 俺たちはフェルニゲシユの背に乗り高高度から敵の様子を監視していた。


「敵さんやっぱりピリピリしてるね。ヴォイロームイスさんの存在はバッチリ認識してるみたい」

「さて、どう出るかな?」

「ひとまずこちらも存在はアピールしましたわ。わたくしたちが撤退した訳ではないと知れば浅慮な猛攻は避けると思います」

「だと良いな」


 あの場所は一応チョークポイントではあるのだが全体的に地形が湾曲していて見通しが良くない。隠れて近寄られて急襲されると対応が遅れる。もう少し下がって要衝を築けば良いのに。そしてどうせならもう少し先の見通しの良い場所に簡易的な監視ポイントを作る方が良い。

 見ているとハラハラする。心臓に悪い。

 ヴォイロームイスは飛行魔獣の監視能力を過信しているのかも知れない。


「カイザキ様、助言をお与えになりませんの?」

「彼には彼の戦略があるかも知れぬだろう?」

「あれは何かの偽装工作だと?」

「えー、ありえなーい。ほら見てよ。ゴブリンたちも救出用のトンネルをもう掘り始めてるよ。あ、揉めてる。黒龍も通訳ができないみたいよ」


 俺は頭を抱えた。

 何もかもが悪手に見える。これは流石に助言すべきだろうか。


「あ、右手の森でコウモリが異常反応。ハーピィも確認に向かってるよ」


 やはり敵は早期排除に動き出したか!


「少尉を救出する! 少尉とその黒龍を北の森へ誘導してやれ!」

「アイサー!」


 フェルニゲシユが俺の可聴外音域で指示を出す。南の森へ確認に向かっていたハーピィが進路を変えてヴォイロームイスのキャンプへと向かう。逆にコウモリたちは敵から離れるように南の奥へと避難を開始し始めた。

 俺の背後の畑に来ていた渡り鳥たちも一斉に飛び立った。大きなうねりを作りながら西へと避難していく。


 そうだ、さあ逃げろ!

 しかし指示を聞き取ったヴォイロームイスの黒龍が主人に激しくアピールしても、ヴォイロームイスは聞く耳を持たない。ただ騒がしくなった森をじっと見つめるだけだ。

 ようやく黒龍に跨っても、嫌がる黒龍を中途半端な高度でホバリングさせている。そしてあろうことか群がって来たハーピィたちに腹を立てたのか退いて視界を開けろと手を振っている。


 いかん、そんな位置にじっとしては格好の的だぞ! 俺は腰の拳銃を引き抜きヴォイロームイスを狙う。


「少尉の黒龍に避けろと伝えろ!」


 そして全弾発砲した。この距離で拳銃の弾が届くわけもない。しかし自分に向けられた銃声というのはなんとなく感じ取れるものなのだ。


 指示を聞き取ったヴォイロームイスの黒龍がヒラリと急降下し、その慣性を滑空へと回す。

 その刹那、敵ベヒモスからのプラズマ弾がヴォイロームイスたちを掠めた。数羽のハーピィが巻き込まれて焼き落とされてしまった。

 クソッ、やはり少尉は使えん奴だったか!

 

 少尉の黒龍は低空で地面を掠めて飛び、寄り集まってきたハーピィが少尉の腕を掴んで地面に叩き落とした。でかした!

 地面に落とされた少尉はゴブリン達によって回収され、彼らの巣穴に引き摺り込まれた。これで少尉の安全は確保された。

 そして少尉の黒龍は低空飛行のままハーピィと共に北の森の木立の中へと姿を消した。

 よしよし、人間なぞよりも魔獣の方がよっぽど優秀だ。


「第二防衛線の要衝に向かうぞ」

「アイサー!」


 攻撃目標を見失った以上、敵は侵入に対して二の足を踏むだろう。ここより先に踏み込めばゴブリンたちのゲリラ戦術に呑み込まれてしまう。



 第二防衛線の要衝はお社のようなこんもりとした林を目隠しに作られている簡易的な詰所である。ここで敵を待ち構えれば真横から打撃を与える事ができるハイドポジションだ。

 要衝にたどり着いた俺たちは焼き落とされたハーピィを弔い、生き残ったハーピィを労っていた。すると遠くにゴブリンたちに連行されて少尉が向かって来ているのがみえた。


 少尉は俺を見るなり魔獣に襲われたなどと文句を言い出したが無視して連行してきたゴブリンたちを労う。


「少尉の救出ご苦労だった。ハーピィとの連携も見事なものだった。黒龍を誘導したのは君か。よくやった。敵は撤退中だ。酒でも飲んで作戦成功を喜び、身体を休めてくれ。下がってよし!」


 少尉は唖然として俺を見ている。


「救出作戦?」

「そうだ。君があまりに無防備な位置にキャンプを張っていたのでこうなる事は予見できた」

「ならば何故すぐに警告を出さなかったのですか!」

「君の受けている命令は私の知る由ではない。君の命の保護に関してもこちらは要請を受けていない。これは私の善意による独断行動だ。不満があるなら言ってくれて構わない」

「……」


 俺は少尉にコーヒーを勧める。


「不満は特にないか。では老婆心から君の行動の何が問題だったか解説して差し上げたいのだが、聞く気はあるかね?」

「お、お願いします。ところであの、私の黒龍は?」

「あの黒龍は疲労が蓄積している。とてもじゃないが人を乗せて飛べる状態ではない。彼女は現在私の掩体壕近くの農場で羽を休ませている。移動にはこの子を使ってくれ」


 フェルニゲシユの彼女を少尉に貸与する。


「くれぐれも乱暴に扱うなよ。この子はデリケートなんだ」

「デリ……、はい、了解しました!」

「よし、行こう」


 俺たちは編隊を組んで掩体壕へと帰還した。

 やれやれ、ちゃんと聞いてくれると良いんだけどな。


お読みいただきありがとうございます!

先日、注目度ランキング一位をいただきました。

お読みいただいた皆様のおかげです。ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
もしかしてではあるが、国内で戦争経験のある兵士って主人公ひとりだけか? 他にもたくさん前線はあると思うが、人間が戦場に立たなくなって幾年というし、魔獣士という字名を贈られる=他に該当者なし、だし。 と…
敵から見えない前線拠点なら、自分も敵の行動が見えない訳で……一人しか居ないのに監視はどうする気だったんだろうね? 平和ボケは寿命を縮めるぞと。
BFシリーズでよく見るやーつ
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