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回想 7

 敵襲の知らせが入ったのは数週間後だった。

 ピリピリと殺気立ちながら敵を待つのに疲れて、飽きて、慣れてしまった時だった。


 想定通り敵のハーピイによる航空部隊が東の空を埋め尽くした。

 こちらも迎撃にハーピイ部隊を出す。

 そして数で押されて怯えて逃げるように左右に別れ、山の森へ誘導。森にはオークとオーガが控えている。オーク部隊が弓で応戦。敵のハーピイが攻撃に降りてきたらオーガ部隊が地上戦で応じる。

 ハーピイは体重が軽く攻撃力が高くないのでオーガ相手では爪も牙も通る筈もない。向こうの想定では森の中に敵が居たとしてもそれはゴブリンであった筈だ。それならハーピイで充分なのだが、オーガでは分が悪い。

 地上に降りた敵ハーピイは羽を射られ、突かれ、飛べなくなって敗走を始めた。

 空に控えていた敵ハーピイも、逃げ出す味方を見て逡巡し、狼狽した。

 想定と余りに違う現実に、不安になって空中で集まったハーピイの群れを一発の光の球が襲った。ベヒモスの放つプラズマ弾である。

 羽を焼かれたハーピイが浮力を保てず落下していく。ここに居ては狙われる、そう悟った残りのハーピイたちは散り散りに逃げ出した。


「敵航空部隊、退却を始めました!」

「控えは?」

「なさそうです。少なくとも見えません!」

「よし、ベヒモスはもう下げよう。各部隊、損耗確認。負傷者は治療だ。伝達急げ!」

「アイサー!」


 俺たちは黒竜の背に乗って第二防衛線の上空に居た。いつものフェルニゲシュと別の個体だ。フェルニゲシュには伝達役をやってもらう。作戦の細かなニュアンスを部隊に伝えるには高い知能が必要なのだ。


「ありがとう。掩体壕トーチカまで戻ってくれ」


 俺は乗っていた黒竜の首を叩いて指示を出した。黒竜はゆっくりと反転し、高度を下げ始める。


「今後だが、ネレイデスはどう思う?」


 俺のマントにすっぽりと収まっているネレイデスは顔だけこちらに向けた。


「まずは、初陣でのご勝利おめでとうございます」

「まあ見てただけ、というか見えてもいなかったんだけどな」

「大将とはそういうものですわ」

「うむ。で、今後の敵の出方だが、、、」

「今のは完全にハーピイだけの部隊でした。斥候ですらありませんでした。甘く見られてますわね」

「舐められたか」

「相手の指揮官が無能なのでしょう。今頃逃げ帰った魔獣に怒鳴り散らし、慌てて参謀と作戦を立てている筈ですわ」


 なるほど。ということは、これから斥候なり偵察部隊が編成されて、地図を作り、作戦を練るってことか。


「え、じゃあ何でこんなに時間が掛かったんだ?」

「魔獣を他所からかき集めていたのでしょう。なにしろこの地に居た魔獣は全てこちらに寝返ってしまったのですから。先に数が揃ったハーピイからひとまず突入させた。そんなところでしょう」

「既に斥候が入り込み、作戦を固めている可能性は?」

「まともな調査が行われていたのでしたら森にオークとオーガが待機していたことは知られていた筈です。あんな何の策もない突入なんてする筈がありませんわ」

「ふむ」


 黒竜はゆっくりゆっくりと高度を落とし、掩体壕の近くに降り立った。


「ネレイデスを気遣ってくれたのか。ありがとうな」


 首のつけ根を掻いてやると黒竜は喉を鳴らした。両の頬に白い模様の入るこの子はかなり臆病な性格をしていたと思ったのだけど成長して随分落ち着いた気がする。

 ネレイデスも尻尾を緩め、つるりと黒竜から降り立った。


「わたくしからも、ありがとう。フェルニゲシュを宜しく頼みますわよ」


 黒竜は照れてカカカとチャタリングをした。フェルニゲシュの彼女ってこの子だったのか! あの野郎め隅におけんな。こんな綺麗な子を射止めるなんて。

 一瞬、喜ばしい気持ちになったが俺は頭を振ってその気持ちを振り解いた。

 こいつらの未来のためにも早く戦争を終わらさねばならない。


「敵の死体もどうにかしないとな」

「どうにかと申しますと?」

「敵とはいえ、そこいらじゅうに死体が腐乱してたらみんなの士気に関わるだろう?」

「では、墓地でも作りますか?」

「普通、どうしておるのだろうな」

「人の死体でしたら保管しておいて返還に応じたりするというのは本で読みましたが、、、」

「いつの話だ?」

「そうとうな古典かと」


 天井にぶら下がるコウモリたちが一斉に飛び立ち部屋をぐるぐると飛び回った。何事だ?

 ネレイデスがドアを開けるとコウモリたちは外へと出て行った。


「何か伝達があるようですわ」


 ネレイデスはドアを開けたまま空を見上げている。コウモリたちはすぐに帰ってきた。


「ふむふむ、要望は承知しましたわ。確認します」

「何事だ?」

「ベヒモスの護衛に当たっているネレイデス種からの要望で、敵ハーピイの死体は砲台様に与えたいと」

「砲台様?」

「ベヒモスのことですわ」


 渾名のようなものだろうか、それとも符牒?


「わたくし達にとってベヒモスは神なのです。ええと、戦う神?」

「戦神か。タケミカヅチだな」

「誰です?」

「古い古い、小さな島国の神話の話さ」

「神話の戦神ならアレスかマルスかと」

「タケミカヅチは好戦的ではないんだ。国を護れ、と他の神に迫る最強の交渉人だ。雷を使う」

「我々のベヒモスにぴったりですわね」

「そうだな」

「して、死体は?」

「砲台様に御献上賜ってくれ」

「かしこまりましたわ」


 ネレイデスはコウモリ達と俺には聞こえない音波帯で話をしてまたドアを開け放ち、コウモリたちは飛び去った。


「落ちた敵ハーピイも全て回収してネレイデス種に渡すように伝達を頼みましたわ」

「うむ。無理なく行うように伝えたかったな。治療と回復を最優先にしたい」

「大丈夫ですわ。損耗はごく軽微です。ゴブリンに至っては全くの無傷ですから彼らが率先してやってくれますわ」

「そうか」


 前哨戦はほぼ無傷で乗り越えたが本番はこれからだ。斥候がこれからなら対処のやりようがある筈だ。


お読みいただきありがとうございます!

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