みなぎる三歳児の警戒モード
いつも応援ありがとうございます!
プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
翌朝、せっかく大きな広い本邸に来たのだからと、ニコから『お屋敷探検』に誘われました。
確かに勿体ないと思ったレオンは、今ワクワクしています。
(ニコが来たら、いっしょに『たんけん』するんだ♪)
そう思って待っていると、やって来たのはアルベルトでした。(傍にはバルトが控えています)
「……レオン。おはよう」
アルベルトがバツの悪そうに、気まずい表情でそこに佇んでいます。
工房でのテオの忠告を経て、彼は猛省していました。
頭ごなしに「危険だ」と否定するのではなく、兄としてちゃんと理由を説明し、昨日のことをレオンに謝ろうと決意したのです。
しかし──、目の前の小さな弟は、あからさまにトトッ…と後ろに下がります。
「…………じとーーーーー」
短い腕を胸の前でむぎゅっと組み、こぼれ落ちそうな丸い目でアルベルトを睨むレオン。
(にぃちゃだ……。またボクを『ダメ!』ってして、お部屋にポイッてする気でしょ。ボクはだまされないぞ……!)
小さな体からこれでもかと放たれる「めちゃくちゃ警戒してます」というオーラに、アルベルトは思わず冷や汗を流します。
「れ、レオン? そんなに警戒しないでくれ。俺は別に、お前を怒りに来たわけじゃないんだ。昨日のことを、ちゃんと……」
アルベルトが弁解しようと一歩近づくと、レオンはすかさずバルトの燕尾服の陰へトテテッと隠れ、そこから顔を半分だけ出して、さらに「じとーーー」を継続中……。
アルベルトは焦ります。
(うわあ、ものすごく嫌われてる……! 違うんだレオン、俺はただお前を危険な場所から離したかっただけなんだ!)
レオン様も心の中で応戦します。
(にぃちゃのバカ。今度は『しゅー』のじゃまをするつもりだね。ボク、ちゃんと考えてるもん!)
見かねたバルトが間に入ります。
「アルベルト様、レオン坊ちゃま。探検の前に『お屋敷の安全マップ』をお作りしましょう。坊ちゃま、アルベルト様は昨日、坊ちゃまの安全を守るために行かなかったのです。『あっち』は地元民も避ける場所……。無理を言えば、今度はアルベルト様が大怪我をします。どうなさいますか? 本日はお兄様と一緒に、防衛の手伝いをしていただきましょう」
バルトの言葉にレオンは眉を下げます。
「……にぃちゃ、お部屋にポイッてしない?」
「するわけないだろう! 俺もお前の『たんけん』を一緒に手伝いたくて、ここにいるんだぞ」
アルベルトは髪を優しく撫で、「ごめんな」と謝ります。ようやくレオンは「じゃあ、ちょっとだけ……」と頷くのです。
その様子を柱の陰から覗く三人──心配そうに眉を寄せるヴィクトール、キラキラした目のカトリーヌ、祈るように手を握るニコ……。
「……よかった。アルベルト様、許していただけたようですね」とニコが安堵する横で、カトリーヌだけは鋭く目を細めていました。
「……ねえ、ニコ。あなた、レオンが何のために『たんけん』すると言ったのか、本当に分かっているのかしら?」
「え? 秘密基地探したりという可愛い探検ですよね……?」
小首を傾げるニコに、額に手をやりカトリーヌは溜息をつきました。
「レオンの初日の様子……、あの裏山の火薬臭いを嗅いで、『おんせん!』って言っていたわよ? 何を意味するのかは分からないけれど……レオンたら、バルトに何を教えてもらっているのかしら。すごく気になるわね」
目を細めて言うカトリーヌに釣られ、三人で聞き耳を立てると、廊下の先からレオンの無邪気な声が聞こえてきました。
「バルト、お家のまわり、何あるの? あの『シュー……!』ボク、気になるの。周りにホカホカ、おみずさん、ある? モクモク、湯気いーぱい、でるとこは? あとね……」
ニコは普通に王都近くの田舎から来た若者のため、レオンが言っている事がわかりません。
しかしヴィクトールとカトリーヌは違います。
場所が違うだけで、『何か』を諦めた訳ではないようです。
「……お父様」
ヴィクトールとカトリーヌの間で、急速に不穏な心配が膨れ上がっていきます。
「……しかしここで強く止めれば、また昨日の二の舞に……うぐぐ!」
柱の陰で、ヴィクトールは髪をかきむしって狼狽し始めました。
そしてニコは、隣の主君たちの青ざめた顔を見て、ようやく事態のヤバさを察し「あれ? またレオン坊ちゃま、何かヤバい準備をしてますか?」と愕然とした表情になったのです。
そんな時、王都から来客がありました。
領主邸の広間は、どこか張り詰めた空気が混じり合っていました。
重厚な扉が開き、現れたのは二人の男……。
『木漏れ日商会』のガツは、いつものように重厚な余裕を纏い、シクは影のように静かにその背後に従っています。
「旦那、大丈夫か? シオンが心労で大変だろうと判断して飛んできたぞ。トウモロコシに関しては、全部、木漏れ日商会で引き取ってやるそうだ」
ガツの言葉に、ヴィクトールは心底救われたような表情で息を吐き出しました。
一方シクは、窓から視線を巡らせ、山から立ち上る白い湯気と、時折聞こえる「シュー……」という音に、脅威と物珍しさを覚え、眉を寄せます。
「……不気味。意味不明……火薬臭い」
ヴィクトールは椅子へ力なく座り込み、「ありがとう、助かった……」と繰り返しました。
(領民の善意が、まさか領主をここまで追い詰めるとは。……面白すぎるだろ)
ガツは必死に労りの表情を作りながら、込み上げる笑いを、これまた必死に我慢します。
その時、静かに現れたセバスが、手際よく二人の前に飲み物を差し出しました。
ガツの前には、領内から汲み上げた湧水で、丁寧に淹れたコーヒーを……。
シクの前には同じ湧水に、庭園で摘んだミントを浮かべた一杯です。
ガツはカップを手に取り、立ち昇る湯気を一度鼻先で楽しんでから、小さく一口含みました。
湧水特有の角の取れたまろやかな喉越しは、濁った酒ばかりを飲んできた彼にとって、あまりにも「清らか」な味わいでした。
張り詰めていた身体がふっと緩み、ガツの表情がどこか幼い頃の柔らかさを取り戻します。
「……ふっ。美味いな。やっぱり、いい水で作るものは違う……」
一方シクもまた、冷えたミント水を口にしました。
喉を滑り落ちる清涼感が、夏の暑さを鎮めていきます。
「……冷たい。喉に通る感覚が、心地いい……」
普段は感情を殺しているシクが、わずかに目を細めて安らぎを見せる……。
ヴィクトールはそんな二人の様子を見ながら、ようやく自分の心にも余裕が戻ってくるのを感じました。
「二人とも、来てくれて助かった。……トウモロコシもいいが、実は他にも困っていてな……」
広間にはコーヒーの芳醇な香りと、ミントの爽やかな風──。
外からレオンが帰ってきた形跡がないならば、依然として散策は続いているということです。
ヴィクトールは胃に再び鈍痛を覚えましたが、一旦それを忘れることにしました。
今は、とても穏やかな時間が流れているからです。
ガツはコーヒーカップをソーサーに置き、ふと柔らかな笑みを浮かべます。
「……こちらはシオンから預かった書類だ。トウモロコシの特許はもう、王家と教会側のゴリ押しで完了している。物流ルートも確保した。安心していいそうだ」
その横でシクはミント水を一口すすり、冷たさの余韻に浸りながら、静かに鋭い眼差しで「あの山」を見据えていました。
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