レオンはトラップ・プリンス
いつも応援ありがとうございます!
プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
工房の凍てつく静寂の中、ヴィクトールが静かに問います。
「アルベルト……一体、何があった。レオンがこれほど泣き叫ぶとは、尋常ではないぞ」
アルベルトは苦しげに拳を握り締め、息を整えてから説明を始めました。
「……初めレオンを抱え、工房の周辺をあちこちと探索していたんだ。だけど数日するうちに、ある一定の場所へ差しかかると、指を差して行きたいと言い出して……」
彼は苦渋に満ちた表情で続けます。
「最初は少しだけ様子を見せる程度にして、すぐに迂回しようとしてたんだ。特有の、鼻につく独特な匂いがあるから……普通なら怖がって引き返すだろうと期待してね。でもレオンは違った。恐怖するどころか、逆に『まだ奥へ行く』と駄々をこねて……。あまりにも危険だから、それ以来外れるようにしたんだ。だけど、必ずそこへ行こうとする。だからその溜まり溜まったものが、あのような癇癪に繋がったんだと思うよ」
マルクスが眉間に皺を寄せ、すかさず尋ねました。
「アルベルト様。レオン様がそこまでして行きたがった場所とは、一体どこなのですか?」
アルベルトは溜息をついて、低く答えます。
「……鬱蒼な森の奥地にある、ボコボコと吹き出している灼熱の沼地さ。誰も入らないから、足元なんか草木で茫々だ。どこに沼があるかも分かりにくいから、俺だって近寄りたくないよ」
その場所を聞いた瞬間、ヴィクトールとマルクスは同時に顔色を変えました。
「あそこはいかん! あそこは危険すぎる!」
「そうです、閣下! あの沼の底はマグマですよ。近づけば、足元から地獄行きです。……あれこそ本物の、森が作った最悪の自然トラップじゃないですか!」
その言葉を耳にしたテオ、ジャック、ガウリ、そして他の訓練生たちの顔色が一瞬で青ざめます。
(……まさか、あの時の……?)
彼らの脳裏に、かつてレオンに足元をすくわれ、ベタベタの泥沼へ沈められた屈辱的な記憶が鮮明に蘇りました。
((((あれの地獄版ってことかよ。……マジか!))))
『最強』としての誇りを潰された、あの忌まわしき『罠』、トラウマの再来です。
先程までの怒りは、一瞬で「恐怖」へと塗り替えられました。
ある意味、彼がとった行動は兄として正当なもので、元暗殺者たちもまた、その苦渋の選択を理解できた。
(兄のココロ、弟知らずですか……)
溜息をついたテオは、兄として余りにもせつな過ぎる結果に注意しました。
「……アルベルト様、あなたが弟君を想う気持ちは理解します。ただ、あなたが危険と頭ごなしに否定せず、きちんと理由を説明すればよかったのです。まあ、なぜその地を気にするのかは別として、会話は大切ですよ」
アルベルトは「……確かにな。言えばよかった」と髪をガシガシとかき回し、力なく座ります。
そんなアルベルトの様子に、マルクスが苦笑を浮かべ断言します。
「……アルベルト様、あの沼はどんな生き物でも即死です。ええ、断言します。私も絶対に行きたくありません。……本当にいろいろと大変でしたね」
ヴィクトールもまた、こめかみを押さえながら苦悩混じりに呟きました。
「……なぜだ。なぜレオンは、よりにもよってそんな危険な場所を……。ただの泥遊びではいけないのか……」
そんな主従のやり取りを聞きながら、テオたち元暗殺者たちの間には、ある疑念と妙な納得感が広がっていきます。
(……待てよ。その場所へこだわるのは、罠の精度を上げるための『現地調査』じゃ?)
(いや、間違いねえ。レオン様、あのゼロンと仲良しだ。類は友を呼ぶっていうし、根っからの『トラップ好き』なんだよ……)
テオやジャックたちが顔を見合わせ、先ほどまでアルベルトに向けていた冷ややかな圧は、急速に「深い同情」へと変わっていきました。
(可哀想にな、アルベルト様。兄というだけで、 こんな危険な実験につき合わされて……。あのトラップのせいで沈められた俺たちと同じか、それ以上の苦労をしているんだな……)
ガウリなどは、まるで「地獄を共にくぐり抜けた戦友」を見るような慈愛の目でアルベルトを見つめています。
アルベルトは、自分に向けられる視線の質が、怒りから「同志への哀れみ」に変わったことに気づき、困惑しながらもようやく肩の力を抜くことができました。
「……そろそろレオンも落ち着いた頃だろう。今日はいろいろと騒がせて済まなかった」
ヴィクトールとマルクス、そしてアルベルトが頭を下げると、元、暗殺者たちは焦ったような声を出します。
「……こちらはレオン様の感覚を、ニコのフィルターで起こした報告書です。試しに今日やってみたのですが、なかなか難解でした」
そう言ってマルクスが渡すと、ちょうど近くにいたジャックが受け取りました。
「少しでも役に立てばいいのだが……明日はたぶん、あんな調子だから、時間を空けてまた来よう」
ヴィクトールも申し訳なさそうな表情で、アルベルトはもう一度深々と頭を下げて工房を後にしました。
工房に残されたテオ、ガウリ、訓練生たちは、ジャックの手元に集まります。
すると扉が再び開き、ニコに抱かれた、泣き腫らした顔のレオンが現れました。
「……レオン様、どうされましたか?」
テオが穏やかに問いかけると、レオンは涙に濡れた顔でエヘヘ……と恥ずかしそうに笑います。
「……ありがとう。ボク、泣いちゃったの」
そう言って手を振り「またね」と告げると、ニコも会釈をして工房を去りました。
外から聞こえる馬車の音も遠ざかり、静寂が戻ります。
「……本当に我らが主は、可愛いですね」
「まったくだ。守りがいがある」
「……で、そんな主のお言葉はなんて書いてあるんだ?」
訓練生たちにとって、ここからが本当の『仕事』がです。
そこには、レオンの無邪気なオノマトペを、ニコが緻密な物理学・化学的記述へと翻訳した内容が記されていました。
「あ~、しかし恥ずかしいな。『おひさまの きらきら こんだけ』……これが飽和限界点か。俺たちが感覚で探っていたのは、この細かな溶媒バランスだったみたいだな……」
頬を赤くしながら律儀に読み上げるジャック。
その横でテオは、食い入るように文字を追います。
彼らにとって、これは暗号解読以上の難易度と、それ以上の価値を持つ『地図』でした。
「『パチンが完結した唯一の合図』……そうか、気泡の破裂音は、攪拌の完了だけじゃなくて、成分の結晶化のサインだったんだ!」
これまで「なぜ失敗したか分からない」という恐怖の中にいた彼らに、「成功するための明確な地図」が手渡されたのです。
(バチャバチャ……サァァァ……カチャ……グチャッ、グチャッ……)
「……恐ろしい」
……テオが完成しかけている泥石鹸の塊を手に取り、ポツリと漏らします。
「私たちはこれまで、人を殺すために感覚を研ぎ澄ましてきましたが、レオン様はその感覚を、『一番美しいものを取り出す』ことに使われてたようです」
ジャックが静かに頷き言います。
「ああ。レオン様の言った通りにやれば、失敗するはずがねえ。……俺たちが死に物狂いで掴もうとしていた『神の領域』を、レオン様はヤギミルクを飲みながら通り過ぎていたんだ。これほどの天才を、一体どこの誰が殺そうなんて考えたんだ?」
その言葉に、「鼻を折られた奴らがいたな!」と笑いが起こり、工房が爆笑に包まれます。
テオは何も答えませんでしたが、その瞳には「レオンを害そうとする奴は、この手で地獄に送ってやる」という冷徹な意思が宿っていました。
──自分たちの「身体感覚」と、報告書の「論理」
この二つをすり合わせ、気まぐれな泥という素材を完全に制御下に置く――その「再現性の構築」こそが、今の彼らにとっての真の戦いであり、愉悦なのです。
「……4割。この報告書があれば、ここまで持っていけるようです」
成功した石鹸の弾力を確かめながら、テオが低く呟きます。
今まで成功率を1%上げることに全てを賭けてきた彼らにとって、4割という数字は確信そのものでした。
「……フフ、どうやら夢物語から、脱却できましたね」
テオが泥団子を持ち上げて呟くと、元暗殺者たちはニヤリと不敵に笑います。
「……今日は特別、美味い酒が飲めそうですよ」
微かな勝利に酔いしれて、工房の夜はふけていきました。
──本邸にて。
「……マルクス」
「ハイ……」
「……工房の奴らの給金を、三割増しにしてやれ」
「承知いたしました。それとは別に、一番いい酒を差し入れしておきます」
ヴィクトールは、いろいろありすぎた今日を振り返り、レオンの叡智は知略や武力で御せるほど生易しいものではないと痛感していました。
「我々は、ただ彼らが修行に専念できるようバックアップするだけだな……」
「……ですね。すでに難しそうですけどね」
ヴィクトールとマルクスはしみじみと思い呟きました。
また一つ、頭の痛い問題が増えた、と。
── まだまだ問題は山積みです。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)
たくさんのブクマやポイント嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)
とても励みになり、がんばろうと思いです。
メールもとても嬉しくネタになることも♪
誤字脱字報告ありがとうございます。(о´∀`о)




