初めてのポンポン
いつも応援ありがとうございます!
プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
領民たちの善意は止まるところを知りません。
「そうだ、そうだ! 領主様の屋敷に運ぶか!」
「そうだな! 屋敷なら全部まとめて片付くぞ!」
会場に響き渡るその合唱に、テオたちは死の淵を覗くような思いで立ち上がりました。
「やめろ……頼むからやめてくれ……!」
「ほどほどです……、ほどほどなんですよ!」
「てめぇら、いいかげん限度考えろッ!!」
何気なく口にした言葉がとんでもない事態を招いてしまい、三人は顔を引きつらせて叫びますが、その声は祭りの喧騒にかき消されてしまいます。
その時、レオンが不思議そうに首を傾げました。
「ねぇ、なんでみんな、そんなにトウモロコシをいっぱい持っているの?」
その声にピタッと鎮まり、領民たちや大きな子供たちは顔を見合わせ、トトたち同世代の子供は、ただキョトンとしています。
そんなレオンたちの疑問に、アルベルトが穏やかな声で語りかけました。
「このヴァリエール領は、険しい山々に囲まれているからね。冬になれば軍馬以外はなかなか通行が厳しくなるんだ。それにここは、国の軍事供給地点であり、食料保管庫としての役割を担っている。それとな、海を隔てた諸外国を睨む砦でもあるんだよ」
アルベルトはレオンの前に膝をつくと、「レオン、いいところに気づいたな。スゴいぞ!」と、その小さな頭をわしゃわしゃと撫で、屈託のない笑顔を見せました。
周囲の領民たちからも「まだ三歳だぞ……」「レオン様、スゴい!」と感嘆の声が上がります。
彼らは領主の血を引く兄弟に、自分たちの未来が守られるであろう、確かな信頼を抱きました。
その傍らでは、トトたちが冬の食生活について話しています。
「冬になったらさ、とうもろこしの粒外しが日課だろ。芯は湯掻いてスープにして、最後は牛や馬の餌になるんだ」
「大人たちはビールやワインで贅沢するのに、俺たち子供は毎日これだぞ。ずりぃよな」
トトを筆頭に男の子たちがブチブチ文句を言うと、リリが肩をすくめて呆れてました。
「……粒はどうするの?」
「あぁ、粒は石臼で挽いて粉にするんだ。それを湯で練って食べる。飽きるよな」
「……似たり寄ったりだよね」
「あんた達! 食べられるだけマシと思いなさい!!」
背後から飛んできた母親の怒声に、「ゲェッ?! かあちゃんだ! 逃げろ!!」と男の子たちは蜘蛛の子を散らすように走り去ります。
「……本当に男の子って、馬鹿ばっかりだわ」
呆れたように言う女の子に、レオンはキョトンとした顔を向けました。
「私、リリって言うの。レオン様、あんな風になっちゃダメよ。分かった?」
「う? うん……」
レオンは戸惑ったように返事をしながら、先ほどアルベルトが説明してくれた「冬の備蓄」と、今自分が見ている「硬くて飽きるトウモロコシ」のことを、幼い頭で懸命に整理しているのでした。
すると……なんとなく、小さな頭の中に答えが浮かび上がります。
「……うっ?……ポンポン?」
レオンが虚空をながめ、眉間にシワを寄せてつぶやきます。
「「「「「……はい?」」」」」
周囲の全員が目を丸くして問い返すと、レオンの表情はだんだんと明るくなって──。
「……!!ポンポンしゅるの!」
カッと両目を開いたレオンの顔は、にんまりと両端を上げて微笑みました。
その子悪魔のような微笑みの裏側で、三人の男たちは同時に崩れ落ちます。
「……なぜ、助かったと思えないのでしょうか」
テオが唇を震わせて呟けば、ジャックが追い討ちをかけるように言葉を吐き出しました。
「そりゃ、更なる地獄が待ってるからだろ」
「……俺はもう、何も聞きたくない」
ガウリはそんな二人から、物理的に離れようとします。
三人が現実逃避を始めようとしたその時、背後からアルベルトとニコが、逃がすまいとばかりに力強く肩を掴みました。
「「逃げるなよ!!」」
いつも軽薄で抜けているアルベルトと、のほほんとした穏やかなニコ 。
二人の有無を言わせぬ気迫に、三人は敗北を悟ります。
レオンはそんな大人たちの事情など知る由もなく、小さな手でトウモロコシを指さして声を弾ませました。
「ポンポン、しゅるの! たくさん、ポンポン!」
レオンの愉しげなキャハハな笑い声は、『ポンポン祭』の合図となり、会場にこだましたのです。
── 会場の外ににわか設置された即席の竈かまど。
ニコは会場から借りた大きな寸胴鍋を設置します。
その近くでガウと戯れるレオンがいます。
「レオン坊っちゃま、これならたっぷりと作れますね!」
ニコは料理人としての勘で、鍋の三割ほどまで乾燥したトウモロコシの粒を流し込みました。
「なぁ、せっかくの祭りだから、少し足さないか?」
アルベルトは笑いながら、追い討ちをかけるように追いトウモロコシを投入します。
結果、鍋に対して六割という、ポップコーンを作るには「殺人的」な量が投入されたのでした。
(((……おい、なんだその量は。煮物するにも、多すぎだろ!)))
テオたちはポップコーンの知識は皆無です。
ただ、直感的に「なぜか物理法則的にヤバい」という感覚がビシバシ感じて、顔面蒼白になっています。
「……あの、レオン様」
テオは冷や汗を流しながら、確認することにしました。
「先ほど仰った『ポンポン』というのは……。その、もしや何らかの……音的な表現でしょうか……?」
テオの言葉をレオンは不思議そうに首を傾げて、鍋を指さし両手を大きく広げます。
「ポンポン! いっぱい、いっぱいなの! ぶわーっとして、すっごいの!」
「……『いっぱい、いっぱい広がる』」
テオが青ざめて繰り返し、ガウリは顔を歪めて、先日の頭突きで折られた鼻筋をさすりました。
――パチッ。
それは鍋の底の方から聞こえてくる、微かな、しかし確かに何かが弾ける音でした。
しかし上から押し潰すようなトウモロコシの重圧と、鍋全体の熱がまだ均一でないせいか、音は中途半端にこもっています。
「おっ、いいですね。音がし始めていますよ」
「テオ、やめろ……。俺の鼻が、もうダメだと言ってやがる。この予感は外れねぇ。俺の鼻を折った時の、嫌な予感とそっくりだ……」
ニコは呑気な笑顔を浮かべると、大鍋の柄を握り、ぐるり、ぐるりと優雅に円を描くように揺すり始めます。
(……やめろ、お願いだからもう揺らすな!)
テオは冷や汗を流しながら、鍋の底が動くたびに「ドクン」と跳ね上がる心臓を抑えていました。
ニコは一度鍋を置き、また温度を確認するように静かに揺する――。
その繰り返しのたびに、パチ、パチ、と不穏な音が鍋の中から響きます。
「……ニコさん、なんだか鍋の中が騒がしい気がするのですが……」
ガウリが引きつった顔で指摘しますが、ニコは「これからが本番ですから」と意に介しません。
ジャックは地面を蹴る準備を整え、盾代わりに平たい鍋を手に持っていました。
「……ジャック、おまえいつの間に、ひとりだけずりぃな」
火力がじわじわと上げられ、鍋の中はもはや「調理」の段階を超えていました。
「アルベルト様、ニコさん、危険ですから、離れて下さい!」
しかし、平和ボケした保護者二人には、その悲痛な叫びは届きません。
「ハハハ、テオ。子供の空想に付き合ってやるのも大人の務めだぞ」
「そうですよ、テオ君。トウモロコで何が起きるというのですか」
ニコは笑いながら薪をくべ、火力を上げました。
弾けようとする粒と、それを押し潰す粒。
加熱されて逃げ場を失った内圧が、限界点ギリギリで鍋の中で渦を巻いています。
(((……音が、繋がってきたぞ)))
三人は冷や汗を流し、警戒態勢を取り始めます。
パチ、パチ、パチパチパチパチパチ……ッ!!
最初はバラバラだった音が、急激な温度上昇によって一斉に連鎖を始めました。
ニコが最後に「さあ、仕上がりです!」と言わんばかりに、鍋を大きく揺らした瞬間、ジャックは絶叫します。
「――伏せろォォッ!!」
──ドォォォォォォォォォンッ!!
鍋の中の圧力が、一気に臨界を超えました。
物理法則を無視したかのように、真っ白なポップコーンの奔流が、噴火のように空へと突き抜けたのです。
ニコは驚きで目を丸くし硬直した後、そのまま気絶しました。-
「メェェェェェ!!」
「ヒヒィィィィンッ!!」
音に驚いたヤギや馬たちがパニックを起こし、空を飛んでいた鳥までもが驚いて落下しました。
そして牧羊犬ガウでさえ、股にしっぽを挟み伏せていたのです。
黄金色の粒が雨のように降り注ぎ、何度も噴火が続いてなかなか収まりません。
会場は放心状態で立ち尽くす者、泣き叫び騒ぐ者、面白がり楽しむ者と、反応はバラバラです。
──しかし更なるカオスが起ったのです。
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