乳しぼりと混迷!
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
ヴィクトーとマルクスは馬車の中で、報告書に書かれているレオンの言葉を反芻しながら悶絶していました。
「……レオン様の仰る『う? ちょっと多い。う〜ん……?、もっとネリネリ……』と、私も一緒に聞きましたが、その『う?』が何を指し、どんな『ネリネリ』で、止めるべきタイミングが何時なのか、基準がまったく見当たりません」
その話を聞いたヴィクトールの眉間の皺は深まります。
「一方で、料理人見習いのニコです。なぜ彼に分かるのか。レオン様が『あとちょっと』と仰ると、ニコは迷いなく必要な泥を掴んで、本当に『あとちょっと』ので、混ぜるとピタッと出来上がる。……まさに奇跡のような精度で、あの独特な粘りが出るのです。見るとやるとでは違い過ぎて、毒の扱いに長けた熟練の暗殺者たちも、三歳児レオンの感覚は掴めません」
ヴィクトールは遠目に、アルベルトと共に拾った羊毛を麻袋へと詰め込んでいるレオンの姿を見つけました。その後ろでは、特訓で疲弊した配合員予定者たちが時折ニコと何やら話し込んでおり、一行はそのまま羊毛刈りのメイン会場へ向かうようです。
マルクスも窓越しにその様子を確認し、ヴィクトールは沈痛な面持ちで話し合いを続けました。
「マルクス、たぶんあれは『料理』なのかもしれん」
「料理……でございますか?」
「ああ。分量ではなく、香り、手触り、練りの質感、ツヤ……。ニコは料理人見習いとして、食材が『変わる瞬間』を五感で捉える訓練を日頃からしている。加えてニコは産まれた頃からレオンと接している。言葉足らずな擬音を解読し、調理の経験で補助しているのだろう。……対して、暗殺者たちはどうだ? 奴らが今まで指先で感じていたのは標的の脈動や息遣いであり、毒の基準もそこから割り出したモノじゃないのか?」
ヴィクトールの瞳に深い懸念が宿り、その表情には隠しようのない困惑が浮かびます。
「レオンの『叡智』を無理に言語化しようとするな。それはカトリーヌに任せればいい。今夜にでもレオンへの聞き取りを頼もう。旅疲れも癒えた頃だろうし、ニコが同席すれば、なんとか割り出せるかもしれん。その『叡智』的な感覚をどうにか解明し、数値化して各国へ派遣する配合員を育てなければ……これまで積み上げてきた努力が、すべておじゃんになるぞ」
ヴィクトールとマルクスは、最悪のシナリオを静かに胸の中で覚悟するのでした。
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賑やかな乳搾り会場へ足を踏み入れると、地元の子供たちが一斉に歓声を上げました。
「おーい、こっちだぜ!」
牧場主の子、トトに先導され、レオンは会場の真ん中へと駆け出します。
その背後には、まるで影のように牧羊犬のガウが寄り添っていました。
子供たちが好奇心いっぱいにレオンの周りに集まり始めますが、ガウはその都度スッと間に割って入り、子供たちが勢い余ってレオンにぶつからないように、「壁」となって立ち回ります。
「ガウ、ありがとう!」
レオンがガウの耳の横を撫でて笑うと、ガウは信頼の証に短く「ワフッ」と応えました。
どうやらこの牧羊犬、飼い主の子であるトトよりも、今は小さなレオンの守護を最優先しているようです。
「それじゃあレオン、ヤギさんのここをこうやって……」
子供たちは日常的に乳搾りを手伝っている手練れ揃いです。
彼らはコツを教えながらも、優勝を目指して目の色を変え、ミルクを桶に飛ばします。
ついでに優勝すれば、牧場特製のチーズや高級バターがもらえるようです。
「ボクも、やる!」
レオンは小さなお手を一生懸命に動かし、ヤギの乳搾りに挑戦します。
初めての体験に真剣な表情で挑むレオンに、周りの子供たちも「お、いい筋してるぞ!」と応援を送りました。
「あ、そうだ! 参加するだけで『ヤギミルクの団子』も貰えるんだぜ!」
トトがそう教えてくれると、レオンは「だんご……!」と目を輝かせました。
ヤギのミルクを練り込んで作られたお団子は、牧場の名物で、驚くほど柔らかく、濃厚で優しい甘さが特徴です。
その光景を少し離れた場所からアルベルトとニコが時おり見守ります。
「ニコ、レオンの様子はどうだ?」
「あ、ハイ……、今地元の子らと楽しそうに乳しぼりをしているようで、……ガウが完璧な立ち回りでレオン坊っちゃまを守っています」
ニコは安堵の息を吐きつつも、領民への対応を続けます。
一方で、ようやく「トウモロコシの重圧」から解放されたテオ、ガウリ、ジャックの三人は、会場の隅に麻袋を積み上げ、力なく地面に座り込んでいました。
「……マジ、疲れた……」
「これ、本当にただのトウモロコシか? 呪いでも入ってるんじゃないか……」
「……団子の呪いだな。間違いねぇ……」
三人はまるで抜け殻のように倒れ伏し、遠くで聞こえる子供たちの楽しげな笑い声を、かすかな羨望とともに耳にするのでした。
勝負が終わると、トトが「お疲れさん!」とレオンに参加賞を手渡します。
地元では、お祭りの日の特別なご褒美です。
「んんっ……! 甘くて、くるみさんがカリカリするの……!」
おもちのように柔らかく、もっちりとした食感♪
口の中にふわりと広がるミルクのコクと、くるみの香ばしい風味が絶妙で、レオンが幸せそうに目を細めると、ガウも安心したようにその場に伏せて、レオンの足元に顎を乗せました。
その頃、三人が遠い目をして疲れ果てていると、通りかかった領民が不思議そうに声をかけます。
「おや、そこの兄ちゃんたち。その重そうな袋の中身は何だい?」
「……トウモロコシだよ」
ジャックが力なく答えると、領民は「へぇ、トウモロコシねぇ」と納得して、手に持っていたヤギミルクを三人に差し出しました。
「何するんだ?」
「知らねぇ……。領主の次男レオン様がもらったんだ」
ガウリが溜息をついて言う傍ら、ジャックは「ヤギミルク、懐かしいな」と呟き、テオは領民に礼を言います。
しかし、その会話を耳にした周囲の領民たちが、顔を見合わせざわつきました。
「トウモロコシか? そういえば、俺ん家にも余ってるなぁ」
「あぁ、俺もだよ。倉庫で場所を取って困ってたんだよ」
「俺のところも! 処分に困ってたんだよ!」
あぁ、俺も。俺も。――領民たちの「俺も!」合唱が会場の一角で響きます。
彼らは親切心から、「領主様の屋敷に届けてやるか? 必要らしいしな!」と話がまとまり始めました。
領民たちの顔には、善意からトウモロコシを集めて、領主様の所へ届けようとしています。
その気配を感じたテオたちは、背中に冷や汗が流れるのを感じました。
領民たちは、青ざめるテオたちの様子など気付かぬまま、善意でどんどん数を増やしていきます。
その後の光景を想像し、三人の顔からは完全に血の気が引いていきました。
(((……こ、殺される。屋敷の敷地をトウモロコシの山で埋め尽くした罪で、俺たち処刑される……)))
「……おい、テオ。俺たちの人生って、結局なんなんだろうな?」
「……最悪だ」
「……嫌だ、もう少しまともな理由で死にたい」
レオン様が楽しそうに「ヤギミルクの団子」を食べている傍らで、三人の顔には深い深い死相が浮かび上がったのです。
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