羊毛刈りフェスティバル!
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
──侯爵領・山奥、泥石鹸工房の隅にて。
ヴィクトールの側近であるマルクスは、目の前の「泥こね修行」を眺めながら、かつてないほどの焦燥感を抱えていました。
「閣下……、かなりヤバいです」
マルクスは震える手で報告書をヴィクトールへと差し出します。
そこには配合員予定者たちが絶望し、失敗作を量産しては涙する惨状が、克明に記されていたのです。
「配合工程と理屈はわかっても、肝心の『完成の基準』――そのカタチが全く不透明なブラックボックスなのです」
報告書を読みながら、ヴィクトールは思います。
これはブラックボックスというより、もはや混沌ではないか、と……。
やればやるほど迷宮入りし、徒労感だけが積み上がっていく。
どこから手をつければ、レオンの感覚を身に着けられるのか。
───まったくわからないのです。
そんな大人たちの悲痛な試行錯誤など何処吹く風で、レオンはアルベルトを伴い、工房の外をトコトコと散策していました。
「にぃちゃ! 今度はあっちいくの!」
クンクンと鼻をヒクつかせ、指を差すレオンに、アルベルトの嫌な予感がビンビンに反応します。
今までレオンが指差した先は、泥濘の深い沼地や棘の多い茂み、硫黄臭い地獄のような景色ばかりでした。
おかげでアルベルトは、レオンの好奇心という火種を打ち消そうと、敢えて遠回りしながら安全な道へと誘導する『回避スキル』を身につけます。
そんな兄の秘めたる努力を知らないレオンは、今日も今日とて目的のものを探すため、アルベルトに抱え上げられながら『源泉』探しに精を出すのでした。
──次の日。
ちょうど領内では『羊毛刈りフェスティバル』が開催されており、街道沿いは活気に満ちていました。
先頭の馬車内には、ヴィクトールが相変わらず書類を眺めていて、アルベルトの隣にいるレオンは、窓の外を楽しそうに眺めています。
「にぃちゃ、もふもふがいっぱい!」
「ああ、今年は例年以上に毛並みが良さそうだな」
アルベルトが微笑ましそうにレオンの頭を撫でる一方、ヴィクトールはふと馬車の窓越しから、後ろを走る荷馬車へと視線をやりました。
後方の荷馬車には配合員予定者の中から――ガウリ、テオ、ジャック、他3名が、目の下に隈を作り、落ち込んだ様子で荷台に揺られています。
「……マルクス」
御者台で馬を操る側近に、ヴィクトールが声をかけます。
「はい、閣下」
「後ろの彼らは落ち込んでいるな?少しでも気晴らしになればいいが ……」
するとマルクスの隣にいるニコが、困ったように少しだけ肩をすくめました。
お祭りが初めてのレオンは、嬉しそうにアルベルトに話します。
「にぃちゃ、早くいこ! お祭り、たんけんするの♪」
「……レオン、今日だけは頼む。祭りの会場で、たんけんは禁止だ」
アルベルトの切実な願いをよそに、レオンは目をキラキラに輝やかせ元気いっぱいです。
会場は多くの人々の熱気に包まれ、活気にあふれていました。
ヴィクトールとマルクスは商談と領務の報告書確認のため、なかなか馬車から離れることができません。
配合員の残り3名が荷馬車で待機する中、レオン、アルベルト、ニコ、そして泥石鹸の特訓でボロボロのテオ、ジャック、ガウリで、会場へと足を踏み入れました。
「わあぁ……! にぃちゃ、もふもふのお山!」
レオンが指差す先では、荷馬車にうず高く積み上げられた羊毛が、ゆらゆらと揺れながら街道を進んでいます。
風に吹かれて毛先がふわふわと舞い上がるたび、レオンは自分の髪を触るように嬉しそうに笑いました。
「にぃちゃ、お山、どこにいくの? もふもふのおうちかな?」
レオンにとってフェスティバル会場は、「動くもふもふ山」が次々にお引越しをする、不思議で楽しい場所のようです。
一角では行商人たちが珍しい品々を並べて客の目を引き、屋台からは食欲をそそるいい香りが漂ってきました。
行き交う人たちの明るく楽しい笑い声に、特訓続きで疲弊していたテオ、ガウリ、ジャックも、強ばっていた肩の力が自然と抜けていきます。
「……見てください、あっちの商人さん。すごい量の毛ですね」
ニコが感嘆の声をあげると……。
「ああ、質のいい毛だな。……ん、どうした?」
アルベルトが声をかけた時、レオンは地面に視線を落として立ち止まっていました。
そこには、風に運ばれてきた羊の毛の塊が、コロコロと転がっています。
「んしょ……。……んー?」
レオンは不思議そうに小首を傾げると、落ちている毛を一つ、また一つと丁寧に拾い集め始めるのです。
「レオン様、どうするのですか?」
テオが不思議そうに尋ねると、レオンは嬉しそうに笑い、毛の塊を掲げました。
その時、突風が吹いて会場に散らばっていた落ち毛が渦を巻くと、レオンの足元にポンと当たって止まります。
「あ! おっきくなったの!」
テオが近くの行商人から麻袋をもらって広げてあげると、レオンは楽しげにそれを詰め込みました。
泥石鹸の配合で「あーでもない、こーでもない」と煮詰まっていたガウリたちは、レオンの無邪気な作業を眺めながら、複雑な気持ちで心和ませます。
「……おい、テオ。ガキはなんでも拾い集めたがるよな。今の毛の塊、見ろよ。坊ちゃまが拾ったのは、市場価格なら跳ね上がるような『超長毛』じゃねぇか!」
「ああ……なんでだろうな。一番質と価値のいい毛が、レオン様目指してやって来るとは……」
「……さらに黒だぜ。なんでレア中のレアがやって来るかな?……落ち毛だけど」
レオンは「お宝ゲット!」とばかりに満面の笑みを浮かべますが、その引きの強さにガウリ、テオ、ジャックたちは思わず遠い目になりました。
世の中は理不尽で出来てやがる──……。
そんなレオンの様子を見て、アルベルトは苦笑しつつ、「よし、それなら」と、羊たちが待つメインエリアへ向かうことにしました。
「さあレオン、本物のもふもふに会いに行こうか」
「いく! もふもふ、もふもふなの!」
両手をグーパーグーパーしながら飛び跳ねるレオン──。
そのふわふわの髪には、拾い集めた際についたのか、白くて柔らかな羊毛がちょこんと付いています。
メインエリアへ近づくにつれ、会場の喧騒は一変しました。
「メェェェーーッ!!」
「メェェェーーッ!!!」
──響き渡る無数の羊たちの力強い鳴き声。
その中心には数頭の羊が、集団で円形陣形を組み、顔を外側に向けて隙のない防御態勢を敷いています。
まるで『さあ、どっからでもかかってこいやぁ』と言わんばかりの威圧感です。
「わあぁ……! もふもふお山の、おだんごだぁ!」
レオンは目を丸くして立ち止まりました。
羊の前では毛刈り職人が苦笑いしながら羊たちを包囲し、一進一退の睨み合いを続けています。
この鉄壁の陣形を崩すのは、並の追い込みでは不可能のようです。
「……まじかよ。あの陣形、連携が完璧すぎるだろ……」
泥石鹸の特訓で理屈ばかりをこねていたテオたちが、思わず呆然と呟きました。
これでは、お目当ての「もふもふとの触れ合い」も難しそうです。
そんな中、一角では手際よく毛を刈り取る職人たちが、羊たちの体からふかふかのコートを剥ぎ取っていきます。
「メェェェッ!」
「こら、逃げるな! 毛刈りの順番だぞ!」
羊たちは毛を刈られた直後、身体をくねらせて瞬時に立ち上がると、裸んぼになった開放感からか、あるいは怒りからか、威嚇するように鳴いて走り去っていきました。
「ひつじさん、裸んぼ。……さむい?」
レオンは心配そうに首を傾げます。
しかし目の前で繰り広げられる羊たちのあまりの躍動感に、思わず笑い声が漏れます。
「アハハ、ひつじさん、とっても元気なの!」
刈りたてのスッキリした羊たち、追いかける人々、そして次々と運び込まれる羊毛の荷車。
会場は混沌とした活気に満ちあふれていました。
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