陽だまりの裏にある影
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
王都にある「木漏れ日商会」本店──。
夜になると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返ります。
しかし、その地下深くに位置する調合室だけは、今も仄暗いオイルランプの灯りが妖しく揺れていました。
「寂しいですね……。レオン様がいらっしゃらないと、……そう思いませんか?」
ゼロンは気配もなく、部屋の隅に佇んでいるブルーノへ向き直ります。
引退しているとはいえ、未だ凄腕の隠密である彼が、ここに来た理由があるはずです。
レオン様の話ならいつでも大歓迎ですが、たぶん確実に違うのでしょう。
ブルーノは作業台の上に置かれた壺へ視線を落とすと、無言でゼロンへ目配せをしました。
「……先日お話した新作のバームですよ。レオン様のバームに少々アレンジを加えたものです」
ゼロンは指先でそのペーストを弄り、薬師としての鋭い目で観察していると、、隣へ移動したブルーノも同じように指先ですくい、じっくりとその質感を確認します。
「レオン様のものはピタッと張りつく、ねっとりもっちりとした質感ですが、こちらは違います。ラードの比率を上げて滑らかにし、雲母パウダーで余分な油分を吸着させたのです。肌に塗った瞬間、しっとりサラサラになるよう開発しました。名付けて『陽だまりバーム』──キラキラと輝いているでしょう」
ブルーノは指先でなじませたバームをじっと観察し、片眉を上げました。
「……さすがだな、ゼロン」
「フフ、レオン様あっての商品ですよ。あの方の『うたた寝バーム』は、今日も大盛況でした。あっちこっちから注文が舞い込み、嬉しい悲鳴を上げています。そろそろ注文体制を見直さねばなりませんね」
それを聞いたブルーノは、仮面のような無表情から穏やかな笑みを浮かべました。
コンコン……。
小気味よいノックの音が響き、前髪の長い青年シクが静かに部屋に入ってきます。
その手には商業ギルドに提出するための、「新商品登録」の書類と、小さなメモが握られていました。
ゼロンがそれを受け取り内容を確認すると、シクは興味なさげな様子で、足音もなく退出していきました。
「……タイミングは完璧ですね。明日、この『陽だまりバーム』をギルドへ公式登録いたします。……ですが、やはり浅ましいネズミが動き出しましたよ」
ゼロンがメモ紙をヒラつかせ、侮蔑の色を混じえた冷ややかな微笑みを浮かべます。
ブルーノは目を細め、作業台に寄りかかりながら、気怠げに足を組みました。
「……ギルドの副長が、隣国のスパイに買収された。明日の夜、保管庫に納品される『陽だまりバーム』のサンプルと、成分の申請書類を盗み出すつもりらしい」
自動粉砕機を試験的に動かした時に出来た雲母パウダーを使い、数個しか出回っていない『陽だまりバーム』を、何故か隣国は察知したようです。
しかし『うたた寝バーム』と『調味料バーム』は、『木漏れ日商会』が大々的に売り出すまで、隣国の動きはありませんでした。
あんなにも多くの騎士たちが『うたた寝ミントバーム』や『うたた寝ローズマリーバーム』を愛用し、周囲に聞こえるほどの声で絶賛していたというのに……。
それは教会関係者も同じで、商人たちに『木漏れ日商会』を紹介したという話を何度か伺っています。 ※ちなみに騎士や教会関係者が使ったものは、カスタマイズタイプではなく、ドクダミやヨモギと一緒に抽出して作ったバームです。
二人は俗物な隣国の思惑を推測します。
「……、利権の問題でしょうか?あれだけあちこちで声を上げて絶賛されれば、いくら面の皮が厚い隣国でも、今さら『あれは我が国の商品である』と主張するのは恥ずかしいと見えます。……彼らに『恥』という概念が存在していたことには驚きましたが……」
「調味料バームの方は開店からあっという間に人気商品となったが、見栄っぱりな連中だからな。触手が伸びなかったのだろう」
選り好みする隣国にゼロンが呆れ気味に肩をすくめれば、ブルーノも皮肉まじりに笑います。
しかしどちらにしろ迷惑な話には違いありません。
ゼロンはそんな隣国に対し、酷薄な笑みを浮かべました。
「上等です。ならばその選り好みするネズミどもには、『特別なサンプル』を贈って差し上げましょう」
ゼロンは上品なラベンダーの香りがする、美しいクリームの壺を取り出します。
──見た目は本物と瓜二つです。
「ゼロン、それに何か仕込んだな?」
ブルーノの問いにゼロンは眼鏡を外し、剥き出しの瞳には、ねっとりとした妖しい光を湛えてました。
「ええ。このバーム最大の特徴は、ラードと雲母による『驚異的な皮膚への浸透力』です。そこに……かつて私が暗殺用に開発した、特殊な遅効性の毒をほんの少し混ぜました。空気や人間の皮脂、油分と反応し、数時間で完全に『揮発・分解』して消える幻の毒です」
ゼロンは壺を愛おしげに指を滑らせて、薬師の顔で淡々と言葉を続けます。
「スパイどもは、盗み出したバームの性能を確かめるため、必ず自分たちの肌に塗って試すでしょう。ラベンダーの強い香りが、毒の僅かな臭気を完璧に隠蔽する。裏返せば、塗った瞬間――毒は雲母とラードの超浸透力によって、一瞬で血管へと吸い込まれていくのです」
「なるほど」ブルーノが納得したように頷きました。
「隣国のスパイがベッドの中で静かに息を引き取った頃には……」
「その通りです、ブルーノさん」
ゼロンは残虐な顔で愉しげに笑います。
「奴らの手元に残された壺の中身は、空気と反応して毒素が完全に消滅している。どれだけ調べようとも、そこにあるのは【毒の反応が1ミリも出ない、ただの最高級スキンケアクリーム】です。暗殺の証拠など、この世に一切残りませんし、なにより、ギルド内で盗まれたモノです」
「ふっ、相変わらず容赦のない男だ」
ブルーノも肩を揺らして嗤いました。
「すべては、我が小さな主のためです。レオン様の安寧を脅かす者は、骨の髄まで滅するのみ……」
ゼロンはそう言うと、毒の入っていない「本物」の陽だまりバームの壺を、優しく木箱に収めました。
「表の歴史では、この『陽だまりバーム』は王妃様をはじめとする社交界を虜にし、我が商会に莫大な富をもたらす光の商品となる。――そして裏の歴史では、レオン様のレシピに泥を塗ろうとする不届き者を、証拠も残さず闇に葬る最強の処刑薬となる。実に素晴らしい商品ではありませんか」
「全くだ。明日ギルドの役人どもに、合法的に権利書へサインをさせるとしよう」
ブルーノが愉しげに書類を収めました。
遠く離れた領地で、何も知らずにすやすやと眠っているであろう小さな主君。
その純粋な「陽だまり」のような癒やしの裏で、王都の大人たちは今夜も静かに、完璧な血の罠を仕掛けていくのです。
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【商業ギルド】
ポン……。ポン……。
商業ギルド長は、目の前の書類の処理を必死に急がせていました。
というのも、この『木漏れ日商会』という存在が、あまりに曰く満載だからに他なりません。
* 泥石鹸: 各国の孤児院へ配合担当職員を派遣する、慈善と管理の神業。
* 各種バーム: 医療特化から美食特化まで、他国の追随を許さぬ専売特許の山。
* レナシリーズ: もふもふリュックと防犯「おやつ笛チャーム」による、愛らしい支配。
* 国依頼開発チーム: 王宮直結の、底知れぬ技術力の象徴。
どちらにしろこの商会には手も足も出ません。
それに万が一にも機嫌を損ねて、「泥石鹸の納入停止」などという事態になれば、ギルド
長の首など即座に飛びかねないのです。
「一刻も早く、100点満点の対応で認可を出さねば!」
血眼で書類をチェックし、細かな規定を確認している、まさにその瞬間でした。
王家と教会から、それぞれ特急便の手紙がガツンと叩きつけられるように届きます。
中身を確認した瞬間、ギルド長は天を仰ぎました。
「やっぱりな!!! 知ってた!!! 知ってたけど、王家と教会まで直々に脅迫(至急状)を寄こしてくるなんて、この商会、どんだけ世界の中心なんだよ!!!」
答え合わせをされたような絶望と、うんざりするほどの納得感……。
ギルド長は悲鳴を押し殺し、ハンコをダッ! ダッ! ダッ! と、さっきとは別人のような勢いで叩きつけます。
「ひぃ、今すぐハンコ押します!!! 免税!! 最高ランクのゴールド資格!! 欲しいものすべて差し上げますぅ──…!」
次々と舞い込む新製品の登録書類を、半泣きになりながら必死に捌くギルド長の悲鳴が、ギルド内に悲痛にこだまし響き渡りました。
数日後──。
保管庫で変わり果てた副長の死体を発見し、恐れおののいたギルド長が盛大に腰を抜かしたことは言うまでもありません。
もちろん、そこに保管されていたはずの『陽だまりバーム』のサンプルと成分申請書は跡形もなく消え失せており、すべては闇の中……。
そして再びギルド長の悲痛な悲鳴が建物内に響き渡ったことも……言うまでもありませんでした。
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