レオン本日の名セリフ「がんばれーなの♪」
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
アルベルトの背中からぴょんと降ろしてもらったレオンは、トコトコと工房の作業台へ進みました。
「マルクス、すごいの! ここで泥だんご?」
「ハハッ、その通りでございます、レオン坊ちゃま。さあ、こちらへ」
マルクスが笑みを浮かべて案内した大きな木製の作業台には、湧水で満たされた木桶と、麻布に包まれた『泥』が置かれていました。
それは近くの湧水群から採掘した滑らかな泥を、配合員予定者(元犯罪者)たちが、丁寧に精製し乾燥させた特製品です。
ヴィクトールとアルベルトが見守る中、微かに緊張するニコはレオンの近くに立ち、レオンはタライの前にちょこんと座って、麻布から泥を取り出してタライに入れました。
「ニコ、グラグラ、ポイッなの!」
「了解しました!」
ニコが鍋からシュウシュウと湯気立つサボンソウとローズマリーの抽出液をトトト……と泥へ注ぎ込みます。
その瞬間、工房の中に爽やかで気品のあるローズマリーの香りがふわぁっと弾けるように広がりました。
「うんしょ、うんしょ……」
熱湯が泥をカチコチにする前に、レオンは柄杓で冷たい湧水をすくい、タライの中へバシャッと何度となく継ぎ足します。
熱湯と冷水がタライの中で混ざり合い、最高の香りを閉じ込めた心地よい「泥ペースト」へと変化しました。
レオンはマルクスが差し出した木ベラを両手でしっかりと握りしめて──。
「よいしょ、よいしょ……。まぜまぜ、まぜまぜ……」
レオンは一生懸命、身体全体を使い木ベラを動かします。
外から見れば幼子が楽しそうに、ヘラを回して遊んでいるようにしか見えません。
──だからでしょうか。
後ろで見ていたヴィクトールは、「フム……、これなら分量さえ掴めば量産は容易いだな」と、脳内でマニュアル化を試みます。
しかしレオンの脳内では『叡智』が、ヘラを握る手のひらを起点に、「ヌルッと重くなる瞬間」を正確に見抜いていました。
「……う? ニコ、ヘラがドスンした。お水、あとちょっと!」
「はい、これくらいですね。……あ、レオン坊っちゃま、今度は泥がヘラにくっつき始めました」
「ホントだぁ! じゃあ、泥をパラパラね」
ヘラに伝わる手応えだけで、まるで泥と会話するように調整を繰り広げる二人……。
レオンが最後の調整で、ヘラを二、三回大きくまぜまぜをした、その瞬間――。
ドロドロ沼のような泥水が、艶やかな弾力を持ち始め、気づけば完璧な質感の「泥団子の素」へと変化します。
「「…………!?」」
後ろで見ていたヴィクトールとマルクスの目が、同時に点になりました。
理屈はわかるのです。
つまり──、水分量と鉱物比率、そして温度のバランスをいい感じに整えていくのです。
しかし今のやり取りには、一切の「数値」が見当たりませんでした。
「「「「「…………」」」」」
「できたぁ! あとは、ローズマリーが『お空にとどくまで』ねんね(乾燥)なの!」
レオンが嬉しそうに泥を丸めると、そこにはいびつな形の「泥石鹸の団子(乾燥待ち)」が出来ています。
「おい、嘘だろ……。まったく、理解出来なかった……!」
アルベルトが驚愕して声を裏返します。
ヴィクトールとマルクス、そして配合員予定たちは、顔を引き攣らせたまま、愕然と立ち尽くしました。
ニコはそんな彼らたちを前に、いつもの調子でレオン様の『あとちょっと』は、スープの温度や、お肉の塩加減の『あとちょっと』と同じ感覚ですから」と、事もなげに笑顔で言うのです。
「あい、どーぞ。おいちゃんたち、つくるの?がんばれーなの♪」
「……御意にございます、レオン坊ちゃま」
マルクスは引き攣った笑みのまま頭を下げ、近くにいた配合員予定者たちと「……おい、お前ら今の理解できたか?」「いえ、滅相もない、あんなの無理です……」と、無言の視線合わせで絶望を分かち合うのでした。
──まったくビジョンの見えない、現実。
ゴールは遥か彼方のようです──……。
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──王都の喧騒が静まり返った深夜。
『木漏れ日商会』の最上階にある執務室では、会頭のシオンが上質な羊皮紙にペンを走らせていました。
差出人は、シオン、ゼロン、アルテミア、そして商会一同……。
宛先は──領地で泥石鹸の件で動くヴィクトール侯爵閣下です。
《─親愛なるヴィクトール閣下へ》
本日、王都にて「木漏れ日商会」のグランドオープン一日目が無事に執り行われましたことを、ここにご報告いたします。
初日から、大変な盛況でございました。
また、料理長のマルコ殿をお貸し頂きありがとうございました。
レオン様への心配りから生まれた食育の造詣、それがカタチを変え「ドライフルーツのスティックバー」という素晴らしいお菓子になり、王都の貴族たちから“子どもの自立を促す高級菓子”として大絶賛されております。
子どもたちが皆、もちっとした食感の噛みごたえを楽しんでおり、手に握りその一生懸命なモグモグと食べる愛らしい姿は、売り場全体の癒やしとなっております。
また原料となる最高級のドライフルーツも、閣下の手引きで流通させていただき、大変ありがたい限りにございます。
併せて深く御礼申し上げます。
そして閣下……。あの捕らえられた私を含め、現在は店員として売場に立つ者たちの様子も、どうかお聞きください。
フロアで接客に励む詐欺師を生業にした者は、人を騙して金を奪うのではなく、本当に良いものを売り、お客様からの真の納得と、幸せな顔で財布の紐を緩めるという高度な心理誘導の楽しさに、今までにない興奮を覚えているようです。
またカウンターで真摯に薬効を説明している元暗殺者(毒師)たちも、闇で毒を扱っていた頃とは違い、自分たちの調合したバームが、お客様から「身体が軽くなった!」という生きた反応がダイレクトに返ってくる瞬間が、これまでにない深いやりがいと喜びを感じているそうです。
私自身も含め、今や全員、心からの笑顔でお客様を楽しくおもてなししている──。
かつては犯罪者であり、裏でしか生きられなかった私たちが、レオン様の織りなす優しい世界の住人として、『木漏れ日商会の誇り高き店員』へと生まれ変わりました。
◇◇◇
──シオンはふと手を止め、昼間のロビーの活気あふれる光景を思い浮かべます。
──ある貴族家族の光景は、憧れに近いものでした。
メンズラウンジからコーヒーとハーブの香りに包まれて、骨抜きになって出てきた当主の穏やかな顔と、「カピカピから、モチモチになってる!」と我が子の正直な本音を突きつけられ、愕然としながらも、ワクワクと楽しそうに基礎バームとカスタマイズを試し、商品を大量に買い込んでいく夫人……。
それを実に生き生きと笑顔で、誇りを持って穏やかに対応する元悪党の店員たち……。
◇◇◇
あの日、レオン様を守るために必死で積み上げた大人たちの「愛と盾」が、そしてレオン様のピュアな存在と叡智が噛み合い、今、王都の何百もの家族と働く者たちの心を、この上ない幸運の下で、幸せに満ち溢れているです。
──誰も傷つかず、誰もが無理をしない。
レオン様の望まれる「誰もが幸せを感じる世界」
その第一歩を、完璧な形で踏み出せたと確信しております。
どうか、小さな我らが主君に、我々の感謝と本日の大盛況をお伝えくださいますよう、お願い致します。
『木漏れ日商会』会頭 シオンより
シオンは丁寧に手紙を折りたたむと、商会の刻印が入った蝋で封をしました。
シオンはペンをケースに収め、窓の外を見上げると、美しい月明かりが王都を優しく照らしています。
この穏やかな光は、今頃遠く離れたヴァリエール領で眠るレオン様を、優しく包み込んでいるのでしょうか。
「さて……、あちらはいかがでしょうね?」
ふと口元を緩めたシオンの脳裏に、浮かぶのは我らが小さな主君の姿です。
「レオン様の『やらかし』は……。ふふ、今から楽しみで仕方がありませんね」
静かな執務室で会頭のシオンの、愛おしげな含み笑いが優しく響いていました。
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