男同士のお風呂としょんぼりレオン
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
馬車の扉が開き、セバスが慣れた手つきで主人たちを降ろすと、左右に並んでいた使用人たちが一斉に深く頭を下げました。
その中央で隙のない佇まいの壮年紳士が一歩前に進み出ます。
「ヴィクトール閣下、アルベルト様、カトリーヌお嬢様、そしてレオン坊ちゃま。――ヴァリエール本邸へ、お帰りなさいませ!」
その良く通る包容力のある声で挨拶するのは、本邸を一手に仕切る大執事バルトはセバスの実兄です。
見た目もよく似た涼やかな目元をしていますが、領地を統括する立場ゆえか、弟よりも少し頼もしげな体躯をしています。
そのすぐ後ろからは、不敵な笑みを浮かべたマルクスがひょっこりと顔を出しました。
「閣下、アルベルト若旦那、本当にお疲れ様でございました。王都での『ご活躍』こちらまで噂が届いておりましたよ。早馬で爆死寸前な私に比べれば、五日の優雅な馬車旅はさぞ快適だったことでしょうねぇ?」
「マルクス、お前な……、嫌みが言いたい気持ちはわかるが、……後にしろ」
そんな二人のやり取りを皆ほのぼのと眺め、アルベルトも苦笑しながら愛馬の手綱を使用人に預けていると……。
――シューーーーッ!!
本邸のすぐ裏手から大きな噴射音と共に、真っ白な煙が高く立ち上ります。
同時に、どこか火薬を思わせるような、ツンとした独特な匂いがレオンたちのいる所まで漂ってきました。
アルベルトが一瞬で騎士の顔になり、剣の柄に手をかけ、ヴィクトールも鋭い眼光で裏山の白い煙を睨みつけます。
「……どうやらこの大地は、レオン坊ちゃまを大歓迎しているようですよ。初めまして、私はバルトと申します」
ニッコリと微笑むバルトに、のほほんと「セバスのおっきい、ひと?」と聞くレオンに、「兄です」と答えました。
「活動が盛んなのか?久しぶりに見たぞ」
「最近まで長雨でしたからね。地中に染み込んだ雨水が温められて、蒸気が増えているのでしょう。それにレオン様が、めちゃくちゃキラキラした目をされていますよ」
それを聞いてヴィクトールたちはハッとしたように、レオンを覗き見ると……。
「おぉ……。シュ──スゴいの。ポコポコの予感」
フンフン鼻息荒く、手を握りしめています。
「……レオン、先程からポコポコとは何なのかしら?」
カトリーヌがレオンを見つめ聞くと、「おんせん!」とやはり先程の言葉を言いました。
ヴィクトールとアルベルトは嫌な予感が過ぎり、マルクスとバルトは何の事やらと、困惑した顔をしています。
そしてカトリーヌとセバスは、溜息をついて諦めきった表情をたたえていました。
なにやら不穏な空気が流れつつ、領地滞在の幕が上がったのです。
「はぁ……長旅の後には、骨身に沁みますね。あぁ〜、気持ちいい……」
ヴァリエール本邸にある広々とした大理石の浴場は、水が豊富な領地だからこそ出来る楽しみの一つです。
広々とした解放感にアルベルトは、湯船の縁に頭を預けて幸せいっぱいです。
その隣ではヴィクトールが、逞しい大胸筋までどっぷりとお湯に浸かり、厳格な顔をわずかに緩めて目を閉じました。
「……そうだな。相変わらず清らかで、湯加減も申し分ない。バルトたちに感謝だな」
大人の男たちが旅の疲れを完璧に癒やしているその中央で、三歳のレオンだけがお湯の中で、思いきり首を傾げています。
「……あれぇ? ……おそら、ない。でるお湯は?ポコポコ……、ない」
小さな手をバタバタと動かして、お湯をすくってみます。
窓の外からは相変わらず裏山の「シューッ」という音が微かに聞こえ、ツンとした独特の匂いもかすかにしました。
それなのに目の前の湯船は、がっしりとした石の壁に囲まれて、張られたお湯はどこまでも澄んだ、ただの「温かい普通のお湯」だったのです。
「ん? レオン、どうした? お湯が熱かったのか?」
アルベルトが不思議そうに、ジャバジャバと横切る可愛い弟の顔を覗き込みます。
「これ、ふつうのおみず……。しゅわしゅわも、ポコポコも、ない。ボク、お外のおふろで、ぬくぬくしたかったのに……」
てっきり……、あの裏山の大自然の中でお空を見ながら、ぬくぬくな天然温泉にドボンと浸かれると、信じて疑わなかったレオンは大理石の上で、膝を抱えてあからさまに肩を落としました。
前世の記憶にある「極楽の露天風呂」を期待していただけに、この閉鎖的な空間のお風呂では、今のレオンには物足りなくて仕方がありません。
「フハハ、何を言っているんだレオン。お外でお風呂に入るわけがないだろう。それにお湯がしゅわしゅわって何だ?聞いたこともないぞ。そんな怪しい風呂は危ないよ」
アルベルトは笑いながら、お湯をばしゃばしゃとレオンの小さな身体にかけました。
湯船から出ているレオンが冷めないように……。
ヴィクトールもまた、珍しく元気がないレオンを見て、眉を八の字に下げて微笑んでいます。
「……レオン、これほど豊かな湯に浸かれるのが、何よりの贅沢なんだ。さあ、湯に浸かり温まりなさい」
しょんぼりするレオンを湯船に誘い、片手でひょいと抱き上げて、湯船の中で一緒に「いーち、にー、さーん……」っと数を数えました。
ヴィクトールやアルベルトにしてみれば、たっぷりな綺麗な湯に浸かれる事は、一種の贅沢であり最高のおもてなしです。
しかしレオンにとっては――。
(なんで普通なの? ボク、お外の露天風呂でぬくぬく、はいりたかったなぁ……)
つまり大きな『価値観』のすれ違いが起こっていたのです。
湯上がりに小さなバスタオルに包まれ、洋服を着せて食堂へやってきてからも、レオンの頬はぷくーっと膨らんだままでした。
いつも元気いっぱいなレオンが、借りてきた猫のように「しょんぼり」している姿は、先に上がって寛いでいたカトリーヌの目に留まります。
「あら、レオン。どうしたの? そんなにしょんぼりした顔をして」
カトリーヌが心配そうに聞くと、椅子の上で座ったレオンは、弱々しい返事を返すのです。
「……うん、ちがったの。ボク、楽しみナイナイした……」
── 元気のないお返事をするレオン。
そこへまるでタイミングを見計ったかのように、食堂の重厚な扉が左右に開かれました。
「皆様、大変お待たせいたしました! 長旅でお疲れの皆様に、このマルクスと料理長が腕によりをかけて、ヴァリエール領のご馳走をお持ちいたしました♪」
マルクスが弾むような声と共に、銀色のドームカバー(クロッシュ)が被せられた大きな大皿を、ワゴンに乗せて満面の笑みで現れたのです――。
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王都のお屋敷では残された者たちが、アルベルトの『やらかし』を隠蔽すべく、水場作りに着手していました。
掘り起こした石組みを、水路引きの職人が図面通りに竹や石を巧みに組み合わせて、レオンでも簡単に手が届く「水汲み場」を整えていきます。
その周りでは、ミントが暴れ出さないよう、石積み職人が外周を石の壁でガッチリと囲い、地面の表面を頑丈な石畳で固めていきました。
実はレオンが初めて領地旅行へと出発する日の朝、アルベルトは周囲の目を盗んで、ブルーノを捕まえていたのです。
アルベルトの顔には微かなクマがあり、いつになく真剣な表情でした。
「ブルーノ……頼みがある。どうかこれを元に、菜園の西側をお願いできないか!」
アルベルトがブルーノへ渡したのは、必死に書き上げた緻密な設計図でした。
「アルベルト様、これは……?」
「レオンと約束したんだ。ミントのお引越しを俺がするとね。ただ、夢で見たミント増殖の悪夢を無視出来なくて……。『石造りの巨大な水場』を作り、ミントを石が囲う大きな鉢にしたんだ」
ブルーノは一瞬目を見張りましたが、アルベルトの狙いを理解し深く頷くと、アルベルトはガシッとブルーノの手を握って願いを託しました。
やがてレオンの乗った馬車と、騎乗したアルベルトが出発し、その音は遠ざかり見えなくなっていきます。
お屋敷に残ったブルーノはニヤリと不敵に笑い、アルベルトから預かった設計図を高く掲げました。
「よし、野郎ども! 若旦那の設計図を元に、レオン様がご帰還されるまでに最高の水場を完成させるぞ!」
「おうッ!!」
ブルーノの声に応えたのは、木漏れ日商会のキャラバン隊を担当するヴィッパーたちと、腕利きの石積み職人、そして水路引きの職人たちです。
「ほう……、ただの水場じゃねぇ。地面から浮かせることで、ミントの根が地中へ逃げられない構造になってやがる」
「それだけじゃねぇ。この水場のすぐ横に『サボンソウ』の植栽スペースも配置されている。ここで手を洗うと、ミントの香りとサボンソウの泡でピカピカだ……畑の動線を考えたな!」
アルベルトの基本設計の素晴らしさに、超一流の職人たちとヴィッパーの目が、ギラリと輝きました。
「やるじゃねぇか、若旦那。この設計図を俺たちの技術で仕上げてやろう」
集まった面々は気合を入れ直し、菜園の西側へと一斉に向かいます。
そしてブルーノはもう一つ、〜極秘任務にも取りかかります。
それはレオンにバレないよう、菜園の境界線を外側へと広げていくこと……。
「芝生を少しずつ剥がして、境目の石を少しずつ外にずらして……よし! これでレオン様は『お庭の成長』と思うだろう」
レオンのあずかり知らぬところで、レオンの菜園近くでは着実に開発が進んでいるのでした。
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