初めての家族旅行♪
いつも応援ありがとうございます!
プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
〖マルクス視点〗
「…マルクス、笑うなよ。これをどう思う?」
主人の問いに、私はあえて不敵な笑みを返しました。
「閣下、お任せを。坊ちゃんの『のほほん』を守るためなら、このマルクス、泥まみれになる覚悟はできております」
私の脳内では、主人の命を上回る速度で「坊ちゃん隠蔽工作」の図面が組み上がっていきました。
湧水の近くに研究工房を建てる。
信頼できる身内だけで固める。
研究と検証を繰り返す。
これは単なる石鹸の製造ラインの確保ではなく、世界で一番無垢な『賢者』を、汚い大人の社交界から隔離するための城塞作りです。
「しかし閣下……。本当は坊ちゃんの才能を自慢したくて仕方ないのでしょう?」
私は主人の顔を覗き込むようにして、わざと意地悪く訊ねてみました。
厳格な侯爵、冷徹な騎士……その仮面が、一瞬だけピクリと動き─……。
「……フン、余計なことを。……さっさと行け!」
吐き捨てるように言われましたが、私は見逃しませんでした。
主人の耳の端が、隠しきれないほど赤くなっていることを……。
「クスクス……」
私は笑いを堪えながら閣下の執務室を後にするのです。
廊下に出て窓から中庭を見下ろすと、そこには超越した「泥石鹸」を作った張本人が、泥だらけになり、尻もちをつきながら蝶々を追いかけてポテポテと走っています。
「ちょうちょさん、まてまてー!」
あんな幼子が、王都の貴婦人たちを卒倒させる石鹸を作ったなど、誰が信じるでしょうか。
いや……、信じさせてはいけないのです。
あの子が泥だらけの手で「まんまる、おだんご!」と笑っていられる時間を、私が死守してみせましょう。
閣下が「自慢したくてたまらない」という煩悩と戦っている間に、私は領地一番の石職人を集め、最高の「泥遊び場」……いえ、秘密の工房を建ててみせます。
「さあて、忙しくなりそうだ♪」
私は足取りも軽く、階段を駆け下りました。
耳を赤くした閣下と蝶々を追う坊ちゃん、そしてヴァリエール侯爵家は、しばらく退屈しそうにないでしょう。
それから私は領地へ戻り、工房の準備を整える傍ら、泥石鹸の『検証』を取ったり、その他もろもろの執務をこなしながら、本当にバタバタと忙しくしていたのです。
それなのに落ち着く間もなく、王都へすぐ招集になり……。
馬車なら片道五日の道のりを、私は軍馬の脇腹を蹴って往復する羽目になったのです。
閣下、私の身体は一つしかありませんよ。
早馬とはいえ二日はかかるし、短期間の往復は腰とお尻が悲鳴を上げます。
私の身体が分離して増えるとでも、思ってやしませんか?
──ハァ……、それにしても、やはり『賢者』は只者ではありませんでした。
走馬灯のような地獄絵図を体験し、なかなか愉快な経験をさせて頂きました。
ですが……、無事に終わって慌てて領地へ帰ってきたと思ったら、さらにこちらでの仕事が増えるとか、どういう事ですか?
「……いっそ犯罪者どもが、途中で逃亡してくれたら楽だったのですがね」
悪質極まりない者は対象外ですが、捕まえた犯罪者ら希望に添い振り分け、こちらに向かって来るのは、精査され「孤児院に回しても大丈夫」と判断した人物たちです。
とはいえ、領地へ戻ってバタバタと他の仕事をしつつ、受け入れ態勢も細々と整えていると、その犯罪者たちが続々とやって来ます。
(オイオイ……、どういう事だよ? あまりにも来るのが早いじゃないか)
処刑や監獄を免れるとはいえ、説得に時間がかかると思っていたのに、それをクソ真面目にまっすぐ領地へ来るとは……。
この犯罪者たち、意外と掘り出し物だったのかもしれません。
面構えも嫌々というより、一種の使命感に燃えているというか……?
こちらの受け入れ態勢もそこそこだったので、さっそく彼らの手を借りることにしました。
すると気づけば、彼らは工房運営や泥石鹸の検証にも手を貸してくれたので、私の現場での忙しさは劇的に減ったのです。
そればかりか、現場の問題点の指摘や今後の方針など、逐一細かく報告してくるので、私の報告書まとめがとても楽になりました。
今回実施した「犯罪者扱いのアレコレ」について、いろんなところから反発や横槍がなかった訳ではありません。ですが……。
(殺すには勿体ない人物ばかりですよ)
全てとは言いませんが、知らぬうちに世の中は腐っていたのでしょう。
──有能な者ほど理不尽な目に遭い、罪人に落とされる。
彼らをどんなカタチであれ拾い上げられたのは、結果として大正解でした。
とにかく、今回は坊ちゃんにとって初めての、遠出であり領地入りです。
「……料理長と相談して、のほほんと楽しめる最高の歓迎を用意せねば♪」
この領地でレオンがまた、どんな騒動を起こそうとも、私が責任持って火消しをしましょう。
私としてものほほんと領地で楽しんで貰い、家族みんなが骨休めになればいいのですが、……まぁ、あの愛すべきお騒がせ坊ちゃんがいるのですから、無理でしょうがね(笑)。
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初夏の陽光が侯爵家の馬車屋根を黄金色に染め上げ、王都を離れてすでに五日が経過していました。
馬車の窓から流れ込んでくる風の匂いは日を追うごとに変わっていき、今は鼻腔をくすぐる青い草の香りと、どこか湿り気を帯びた涼やかな山の匂いで満ちています。
「レオン、あと少しすると領地が見えてくるわ」
膝の上に退屈そうに座るレオンの髪を、カトリーヌは優しく撫でながら窓の外を指差しました。
「……お山スゴい。お馬さん、がんば!」
その視線の先では、馬車の行く手を阻むようにそびえ立つ険しい水分峠の坂道を、四頭立ての軍馬らが力強く登って行きます。
御者台から放たれる短い掛け声と、車輪が石畳を噛む規則正しい音が深い谷に響きました。
これほど堅牢な街道を山奥まで維持できるのは、国家防衛卿であるヴィクトールの権力と、ヴァリエール侯爵家が持つ底知れない財力の証明に他なりません。王都の生命線たる「兵糧と水」を運ぶための大動脈が、この美しい一本の石畳でした。
やがて、馬車が峠の頂を越えた瞬間――視界が一気にひらけました。
「わあぁ……!」
レオンが小さな歓声を上げ、丸い目をさらに丸くして窓にへばりつきます。
眼下に広がっていたのは、周りをぐるりと険しい山々に囲まれた、巨大なすり鉢状のヴェール盆地です。
セバスが馬車を止め、扉を開けました。
ヴィクトールに続いてカトリーヌ、レオンが降り立ちます。そこから眺める景色は格別でした。
初夏の陽光を浴びて、網の目のように張り巡らされた水路がキラキラと銀色に輝いています。刈り入れを前に畑から抜かれた水は、どこにも澱むことなく、勢いよく下流へと流し去られていました。
そして、その水路の間を埋め尽くすのは、黄金色に実った見渡す限りの麦畑です。ヴィクトールが「領民たちが総出で麦刈りをしているな」と指差す先には、一刻を争う収穫に活気あふれる光景がありました。
外で一時の休息を取ったあと、一行はふたたび馬車へと乗り込みます。
――馬車は盆地の底へは下りません。
街道は盆地を囲む山の中腹、なだらかな傾斜が続く高原へと進んでいくのです。
車窓の景色が一転して広大な牧草地へと変わっていき、どこまでも続く緑の丘と、頑強な軍馬の群れ、そしてもふもふな羊や山羊が、清らかな風に吹かれながらのんびりと草を食んでいました。
そして盆地と高原のちょうど境界線――すべてを見渡せる小高い丘の上に、目指すヴァリエール侯爵家の本邸が姿を現しました。
山の強固な岩肌を背負い、眼下の田畑と城下町を鋭く見下ろすその姿は、邸宅というよりも、国境を守る優美な要塞のようです。
門前まで近づき、馬車が一旦止まると……。
「はぁ……さすがに五日の行軍は、腰に来ますね」
愛馬の鞍の上で、それまで鋭い眼差しで周辺の影を追っていたアルベルトが、屋敷の全景が見えたことで、わずかに緊張を緩めて、鐙に体重をかけながら息を吐きました。
その後ろでは、同じく五日間の長旅に揺られてすっかりお疲れモードのニコが、荷馬車の隅で小さく息を吐いています。
「アルベルト、これしきの行軍で音を上げるな。前線の兵たちは、この道を鎧を纏って歩くのだぞ」
馬車の窓から顔を出したヴィクトールが、厳格な、しかしどこか息子の成長を喜ぶような声音で、見上げる長男へと声をかけます。
「わかってますよ、父上。ですが……」
アルベルトは苦笑しながら、屋敷のさらに裏手に連なる深い原生林の方向へと視線を向けました。その奥から風に乗って、わずかにツンとした硫黄の匂いが届いてくると、彼の脳裏に疑問が浮かびます。
(あの地獄のような谷の近くに……マルクスのやつ、本当に『工房』を作ったのか?)
騎士としての現実的な思考が、のどかな景色に隠された「もう一つの顔」を巡らせていました。
ですがその時、膝の上のレオンがカトリーヌの服の袖をちょんちょんと引っぱりました。
「ねえたま、おんせん? ポコポコ、あるかな?」
「え? おんせん? ……おんせんって、何かしら?」
カトリーヌは、のほほんとした顔でレオンの紡いだ謎の言葉に戸惑います。
そして隣のヴィクトールは、心の中で静かに戦慄していました。
(……レオン、お願いだから『やらかし』も休息してくれないだろうか)
ヴィクトールは引きつった微笑みを浮かべ、屋敷に着いた後の予定――まずは旅の汚れを落として休むこと――を言い聞かせると、レオンは「あーい!」と元気よく返事をします。
その無邪気な声に、馬車の中に満ちていたかすかな緊張感は、初夏の霧のように霧散していきました。
馬車はふたたび動き出し、いよいよ侯爵邸の重厚な鉄門へと滑り込みます。水と緑、そして国家の機密を孕んだヴァリエール領に、ついに到着したのです。
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