幼子は、闇の怪物たちに名をつける
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
なにやらやりきった様子で「ぴょんた」と名付られた男が、疲れた様子の前髪の長い青年を引き連れて合流します。
「バッチリ月明かりを照明にした、絶妙の角度でのお披露目!アハッ、反応が楽しみだね♪」
「……こだわりの、ムダ」
ズンと落ち込んだ様子の前髪の長い青年は、その場に体育座りをし、長い前髪の奥に顔を伏せてしまいます。
その様子を哀れむような目で、ガタイのいい傷のある男が見ていました。
「なるほど……、雲の流れを計算に入れたわけですね。素晴らしい判断です」
扇をパタパタと仰ぎながら切れ長の目の男が言うと、体育座りした青年は、ハッと顔を上げ月を眺めています。
「でしょ!レオン様が来た時は見えない。でも名をつけ終わった頃くらいに、パァーと見えてくる演出なんだぁ♪」
身体を揺らしながら愉しげに語るぴょんたに、ガタイのいい男は渋い声で言いました。
「……すべて噛み合えば、だな。お子様は寝るのがはぇー」
「そうですね。もうそろそろお寝んねの時間でしょうか?後一時間待って来なければ、商会へ戻りましょう」
「……やはり、ムダ」
前髪の長い青年は、再び膝に顔を伏せます。
「えぇ──?!せっかく頑張ったのにー!」
ぶうと顔を膨らませブチブチぴょんたに、渋い声のガタイのいい男が言いました。
「……来たぞ。どうやらムダにならなかったようだな」
闇の向こうから、こちらに向かって現れたブルーノの腕の中に、眠そうにおめめをこすっている三角帽子を被ったレオンがいます。
パタパタと仰ぐ手を止めた切れ長の目の男と、ガタイのいい傷のある男は、その小さな幼子を見つめました。
その奥でブチブチ文句を垂れてたぴょんたと、引きこもりから現実に立ち返った前髪の長い青年は、レオンが今にもカックンと首を落とし、寝そうな様子を見て思います。
((あっ、これ……今見せても、ムダだ))
渾身のお披露目会は、明日の朝になりそうです。
「……坊っちゃま、着きましたよ。大丈夫ですか?」
揺するようにしてレオンに語りかけるブルーノに、レオンはぼぉ…… とした様子で、目をこすりながら辺りをキョロキョロ見回しました。
空に浮かぶ月の美しさは格別で、夜風の冷たさにだんだんと目が覚めてきます。
「……ボク、夜のおそと、はじめて。たのしいなぁ」
ブルーノがそっとレオンを地面に降ろすと、レオンはトコトコと近くを歩き始めました。
「……半分寝ておられた」
暗闇で何も見えないレオンには、ブルーノの言葉にアタマを捻ります。
トコトコ、ポテポテ……。
小さな身体で好奇心いっぱいに動き回る幼子の姿は、なんともコミカルで愛らしい。
「……幼子はこの闇を冒険したいようですが、危ないので灯りをつけますよ」
レオンはキョロキョロと辺りを見回して、声のする方へトコトコと移動していると、フワッと誰かに抱き上げられました。
いつも抱かれるブルーノの香りではなく、どこか焦げた匂いと甘い果物の香りです。
「レオン様、ぴょんただよ。夜のお外はどう?」
耳元で囁かれた声を聞いて、レオンは声のする方へ顔を向けました。
カチャ、シャコン……。
パアァァ…!!
暖かなオレンジ色の灯りが辺りを照らします。
「わぁぁ……!」とおめめを輝かせて、レオンがキャッキャッ手を叩いて喜ぶと、抱っこしていたぴょんたは、「わわっ、ま、待って!暴れないで!」と騒ぎ、ブルーノが横からレオンを取り上げました。
ランプを掲げたイナリは、ブルーノに抱っこされたレオンと胸を撫で下ろすぴょんたを見て、「クク、騒々しいですねぇ」と面白そうに目を細めています。
その様子を苦味潰した顔で眺めていた、ガタイのデカい顔に傷のある男に、レオンは気づき声をかけました。
「うわぁ……。おじちゃん、おっきい。……ガツンとしてるの」
「……あ? ガツン、だと?」
男が戸惑ったような渋い声を出すと、レオンは満面の笑みを浮かべて言います。
「うん! ガツンとしているの。ガツは強くて、カッコイイの!」
「ぶっ……! ぎゃはははは!」
隣にいたぴょんたが、堪えきれずに吹き出しました。
国を救った元英雄が、現在は闇の世界の総元締めとなり、3歳児の直感で「ガツ」と命名されたのです。
ガツは呆れ果てたような目でレオンを眺めると、「ガツ、か……まぁ、いいじゃねぇか」と肩を竦めて納得しました。
それを見ていた前髪の長い青年は、慌てて体育座りから立ち上がり、レオンの方へイソイソと向かいます。
それに気づいたレオンは、「あっ!」と声を上げ、「かずはぼうりょく!」と言いました。
「ブハァッ!」
それを聞いたぴょんたは腹を抱え、悶絶して大笑いします。
逆に愕然したように青年は立ち止まり、ダァーと涙に濡れてしまいました。
「……ぼ、僕、かずはぼうりょくが、な、名前になるの?……エッ?……ホントに?」
シクシクシクシク……。
レオンを抱っこしていたブルーノは、何とも不憫そうな目になり、レオンに聞いてみます。
「坊っちゃま、かずはぼうりょくとは?」
「う?かずのぼうりょく、スゴいの。アリさん、がんばれーなの♪」
それを聞いていた青年は、バッと顔を上げ慌て涙を拭いました。
「レ、レオン様。僕に名前下さい」
レオンは首を傾げ視線を青年に向けます。
ベージュがかった白い髪を長く伸ばし、顔を隠している青年の静かに佇んだ姿……。
「にぃちゃ、さっき泣いたの。いたいいたいしたの?」
純粋無垢な瞳で見つめられ、青年は困惑したように俯きます。
レオンは小さな手を伸ばし、青年の頬にそっと触れました。
「いたいいたい飛んでけーなの。にいちゃ、大丈夫?」
すると、……ポロポロと涙をこぼし、シクシク泣き出してしまったのです。
レオンは涙を拭うつもりで前髪を退かすと、現れたのは、禍々しいと迫害された「赤い瞳」。
世界から化け物と恐れられ続けたその瞳を見られた青年は、レオンに恐がられ嫌われると思い、さらにシクシクと泣き出しました。
───しかし。
「きれーな、おめめ。……シクシクしてるから、『シク』おにぃたんだね。もう泣かないで?ウサギさんみたい。よしよし」
シクは息を止めて、目を見開きました。
かつてガツと共に国を捨てたあの日以来、自分の呪われた赤眼を「綺麗だ」と言ってくれたのはレオンだけです。
シクは頭を撫でられながら、胸にこみ上げる感情を堪えるように静かに泣きました。
レオンはシクを撫でながら、パタパタと扇を仰いでいる切れ長の目の男を見つめます。
切れ長の目の男もまた、レオンを見つめ返し、この幼子が自分にどんな可笑しな名前(人生ガチャ)を授けるのかと、どこか冷めた目で愉しんでいました。
己の知恵をアクセサリー扱いし、馬鹿馬鹿しくなり愛想を尽かし、自分の愉しみを優先した詐欺師……。
しかしレオンは、その切れ長の目をじっと見つめ続けた瞬間 ──。
「っ……、あ……」
レオン様の小さな身体がビクッと震え、その脳裏に、――異形の神、白狐、赤い鳥居……、 象徴としての「何か」が強烈にフラッシュバックしたのです。
レオンの大きな瞳から、ツー……と、一筋の涙が静かに流れ落ち、涙は止まることなくボロボロとレオンの小さな頬を濡らしていきます。
「ひぐっ、う……、うわぁぁぁん!!」
それまで無邪気な様子のレオンが、突然泣き出したため、周りに大人たちに一気に緊張が走りました。
「レオン様!? どうなされましたか!」
ブルーノが焦った声を上げ、あわててレオンを宥めますが治まりません。
ガツとシクも、ぴょんたですら、何が起きたのかと目を見張りました。
動かしていた扇をピタリと止め、レオンの涙の意味を考えあぐねています。
瞳に映したものは怯えや恐怖ではなく、何か切なさを孕んだ涙に見えたからです。
レオンは泣きながら小さな手で袖をぎゅっと掴むと、しゃくり上げながら抱きつき離れません。
「……おや?」
いつもの笑みを浮かべようとしますが上手くいかず、泣きじゃくるレオンを前に生まれて初めてどう振る舞えばいいのか分からず呆然と立ち尽くしていました。
「……あのね、おいちゃ、おいなりさん、なの?……お山から、ひとりで、ずーっと、お空をみてたもん。すごーく頭がいいし、おいちゃも『異形』って言われたの?……誰か、おてて繋いだ?……化かすの、たのしい?」
ポツリ、ポツリと、レオンは、前世の記憶を手繰り寄せるように紡がれる言葉はあまりにも寂しい『異形』の光景……。
それはこの世界で味わってきた【己の英知を理解されず、化け物に扱いされてきた孤独】の核心を、寸分違わず突いているのです。
「……ねぇ、おいちゃは『イナリ』さんなの?なら、今度はボク、おてて繋ぐの……」
そう言ってレオンはぎゅっと、冷たい指をちっちゃな手で握りしめます。
「…………」
天才大詐欺師は、完全に言葉を失いました。
この子は自分の本質(英知と孤独)を、すべて見抜いた上で、涙を流して手を繋いでくれた……。
閉じた扇を額に当てると、ククッ……と、敗北を認め苦笑をしたのです。
「ハハ……。まさか3歳の主に、魂を暴かれるとはねぇ。……いいでしょう。私の名は『イナリ』と今後致します。よろしくお願いしますね、我が主」
そう言うとイナリは、手を胸に当て頭を深々と下げました。
それに倣うように、ガツ、ぴょんた、シクも頭を深々と頭を下げて行きます。
それをキョトンとした顔で見ていたレオンは、ブルーノに慌てて降ろしてもらいました。
───そして。
レオンも同じように手を胸に当て、頭を下に深々と下げようとします。
しかし……。
「あっ!……とっと、ん!」
まだまだ重たい頭に引っ張られて、足が一歩前に出ました。
「……ん!レオン様じょうず」
酸っぱい顔の大人たちと、「まん丸?!」と必死に笑いを堪えるぴょんたの代わりに、シクはレオンを褒めました。
それを聞いたレオンはニッコリ笑います。
木漏れ日商会の最強の怪物たちが、完全にレオンの「名」によって救われ、ひとつの家族となった瞬間でした。
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