木陰のフリーズと、常識の崩壊
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
昨夜はレオンの愛らしさに笑い、大いに愉しんだはずが、このヴァリエール侯爵家の真骨頂は、自分たちの想像を遥かに超えたところにあったようです。
これまで次期侯爵になる嫡男アルベルトを、普通に常識的な真面目な人間と認識していました。
───しかし、その考えは大きな間違いだったようです。
やはり彼もまた濃すぎるヴァリエール家の血を引く者であり、あのレオンの兄なのだと周囲は、しみじみと理解させられることになりました。
アルベルトが本当に引き当てた瞬間、遠巻きに目撃し木陰に潜んでいた四人は、完全に思考がフリーズしたのです。
それは警戒心の強い彼らにとって、あってはならない事で、異常事態でした。
───ですが、数秒の静寂の後……。
彼らの間でお腹を抱えるような、凄まじい大爆笑が沸き起こったのです。
「ぶはっ……! クククッ、ハハハハ! 本当に当てやがった……!! あの人、昨夜のミントの悪夢を予言して、ガチの宝を掘り当てちまったぞ!」
ぴょんたが木に寄りかかって身をよじり、声を押し殺して大爆笑します。
しかし隣にいた男には、驚きの超展開に切れ長の目を限界まで広げ丸くなっていました。
「……意味がわかりません。理解不可能です。ただの悪夢の強迫観念から、ピンポイントで古代の重要遺構を掘り当てるなど、一体どんな確率ですか……!? どんな強運ですか……!?」
本気で頭を抱えて混乱している男の横で、普段は無関心で死んだような目の前髪の長い青年は、かつてないほど輝きを宿し、ぶるぶると感動に震えます。
「……ヴァリエール侯爵家、最強。僕、初めて本物の奇跡見た。あの兄ちゃんも、やばい!」
今にも拝み始めそうな青年の後ろで、顔に傷がある大柄な男は本当に、ガチで頭を抱えて深い溜息をついていました。
「……痛え。マジで頭が痛くなってきた。なんなんだよ、この家族は……。幼児が最強の毒兵器を操り、その兄貴が悪夢のお告げで宝を掘り当てる。俺たちは一体、どんな怪物たちの巣窟に足を踏み入れてしまったんだ」
その絞り出すような言葉に、切れ長の目をハッと見開き我に返ると、その美しい唇からふっと艶やかな笑みを漏らします。
「……フフ、レオン様だけが規格外の『可愛い怪物』なのかと思っていましたが、どうやら違うようですね。このヴァリエール侯爵家、上から下まで、全員もれなく思考回路おかしいですよ」
「でしょ!? 最高に面白いじゃん!」
ぴょんたが軽やかにステップを踏んで踊りながら、悪ガキのような満面の笑みを浮かべ、前髪の長い青年もコクコクと、激しく同意するように首を振りました。
「……うん。僕、この人たち全員好き。守る。誰も傷つけさせない」
彼らは使い捨てにするような依頼主たちへ報復を誓いましたが、その復讐心の「中身」が全く別のものへと変化します。
──単に『売られた喧嘩を買う』だけじゃない。
『この世界一最高で、世界一変な侯爵家の日常を邪魔する羽虫どもを、一人残らず消し去ってやる──』
こんな愉しくて面白い人々を見るだけじゃなく、自分たちもこれから関わって行くのです。
つまりこの愛すべきドタバタ劇の参加者に、自分自身もなるということでした。
「ハァ……。まぁ、これだけやばい奴らばかりなら、俺たちが『木漏れ日商会』で表をウロウロしたとしても、すべて不都合を笑って揉み消してくれそうだな」
その口元に不敵な笑みが浮かび上がり、この家の一員として騒動に巻き込まれることを、歓迎し、楽しみにしている自分がいました。
「ええ、間違いありませんよ。レオン様からどんなにトンデモない新しいコードネーム(ぴょんた等)を授かろうとも、喜んで拝命しようじゃありませんか。このお屋敷の『おもしろさ』には、それだけの価値があります!」
手にした扇をパチンと閉じ、極上の愉悦を目に宿します。
「ククッ……でもこれで、俺たちの『木漏れ日商会』の仕事が更に増えたよね?」
ぴょんたが楽しげに肩を揺らすと、切れ長の男も優雅に頷き返します。
「ええ。レオン様の可愛らしい『やらかし』に加えて、アルベルト様の『奇跡のやらかし』まで隠蔽する必要が出てきましたからね。フフ……本当にやりがいのある仕事ですねぇ」
木陰で小競り合いを始めながら、瞳には冷酷に生きていた時とは違う、生き生きとした確かな温かさが宿っていました。
世界を揺るがす暗殺者たちが、一人の幼児だけでなく、この「変な家族まるごと」心を掴まれた最高に愉快な朝の一幕なのです。
一方その頃。
昨夜、深夜の執務室で「木漏れ日商会」の完璧な隠蔽布陣を敷き、ヴィクトールはこれからの「激務激減ライフ」に密かに胸を躍らせていました。
しかしその極上の愉悦は、翌朝の朝食直後に早くも打ち砕かれることとなったのです。
コンコンと執務室のドアがノックされて入ってきたのは、全身泥まみれでなぜかやり切った顔をした長男のアルベルトが現れます。
その傍らには、いつも通り無表情な顔のブルーノが佇んでいました。
「父上、セバス。少々よろしいでしょうか。実は先ほど庭の菜園近くで、歴史的な大発見を致しまして……」
アルベルトのその言葉に、デスクの上の書類を見ていたヴィクトールがビクッと肩を揺らした後、おもむろにゆっくりと顔を上げます。
泥だらけの息子をジッと見つめながら、その不穏な空気を感じ取り、更にゆっくりと眉間へ皺が寄っていきました。
ですが、まずは落ち着かねばなりません。
「……アルベルト。その泥は一体なんだ?それに、歴史的な大発見とは?」
そうです。
当主たる者、身嗜みと余裕は大事です。
アルベルトなら大丈夫!
たぶん最近かかっている厨二病という、何か大袈裟な誇張表現にすぎないそういうヤツなんだと、自分に言い聞かせました。
「はい! 実は我が家がミントに埋め尽くされ、世界がスースー地獄に陥るという、恐ろしい悪夢を見たのです。その際、菜園の奥から大量の水が溢れ出していた所が、何となく気になりまして……。今朝ブルーノと共に、そこを深く掘ってみたのです」
「……掘った、だと?」
「はい! それでなんと!土の中から緻密にカットされた素晴らしい白灰色の、『古代の石組み』が出現したのです! ブルーノ曰く、かつてこの地を支配していた古代アルナ時代の、非常に精巧な水路か地下貯水池の遺構ではないかと!実は現在もそこから、コンコンと澄んだ水が湧き出ております!」
アルベルトが輝かんばかりの笑顔で胸を張る横で、ブルーノが静かに一歩前へ出て補足しました。
「ヴィクトール様、アルベルト様の仰る通り、接着剤を一切使わず、石の噛み合わせだけで何百年も、水漏れを防いだ一級品の石組み遺構にございます。歴史的価値は極めて高く、あのまま掘り進めれば、王都の学術院が総出で調査に押し寄せるレベルの大水源かと?」
学術院が総出で押し寄せる、……大水源?
それはつまり……、このお屋敷の敷地内──しかもレオンの「秘密の菜園(やらかし現場)」のすぐ側で、国中の注目を集める大騒ぎの舞台が出来上がったという意味です……。
「「「「……」」」」
執務室に昨夜とは全く違うベクトルの、重苦しい静寂が広がっていきます。
ヴィクトールは泥だらけの長男を、まるで「信じていた裏切り者」を見るかのような何とも言えない胡乱げな目で見つめました。
(……昨日、ゼロンたちにあの子のやらかしを丸投げできると、あんなに喜んだばかりだというのに……!!)
レオンだけでも頭が痛いのに、まさか優等生であるはずの長男までもが、悪夢のお告げ(※原因は100%レオンのミント夜襲)で、ピンポイントに巨大な歴史的遺構を掘り当ててくるなど誰が予想できるでしょうか。
───ヴィクトールはガチで片手で額を押さえ、深すぎる溜息と共に震える声で呟きました。
「……アルベルト。お前、お前もか……!! お前までレオンに引きずられて、そんな突拍子もない『おもしろやらかし』を我が家へ持ち込むというのか……!!」
「えっ!? 父上!? 私はただ、夢の通りに家を守ろうと……!」
めちゃくちゃ褒められると思っていたアルベルトが、ショックで声を裏返ります。
そんな主人の絶望を前に、背後に控えていたセバスが眼鏡の奥の目をキラーンと光らせました。
その口元にはどこか愉悦を含んだ笑みが浮かんでいます。
「……旦那様。これは実に素晴らしいことでございます。昨夜、立ち上げを決定した『木漏れ日商会』の裏工作チームに、さっそく『古代遺構の隠蔽と、学術院の目を眩ませる煙幕工作』という、……実にやりがいのある仕事が舞い込んできたようでございます」
「セ、セバス……っ!」
「これでまた、旦那様のお仕事が(隠蔽工作の決裁で)劇的に増えることでございましょう。実に、適材適所にございます」
セバスの容赦ない追い打ちに、ヴィクトールは苦虫を噛み潰したような顔のまま、天を仰ぐしかありませんでした。
知恵と力、そして隠蔽の技術を磨いた暗殺者たちが、一人の幼児のやらかしを隠すために結託した翌朝──。
まさかの長男による「奇跡の発掘」によって、木漏れ日商会の裏の営業は、想定以上の大忙しで幕を開けようとしていたのです。
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