丸投げされた怪物たちの微笑み
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
─会合のあった夜─
雨の音が静かに窓を叩く、深夜の執務室。
レオンたちの無邪気な笑い声は消え去り、そこでは世界の裏側にいた者たちが放つ張り詰めた静寂が存在しました。
ヴィクトールとセバスの視線が、新たに現れた3人の「怪物」たちへと注がれ、その傍らではブルーノが静かに佇んでいます。
「紹介します。こちらがシオン、アルテミア、そしてベルトラムです」
ゼロンの淡々とした声が、重厚な部屋に響きました。
シオンは洗練された所作で、ゆっくりと頭を下げ、その美しい微笑みの裏に、一切の隙が存在しません。
アルテミアは華やかな仕草で扇を口元に寄せ、その鋭い審美眼で室内を静かに見定めていました。
そしてベルトラムは音もなく完璧な騎士の礼を取り、巨大な壁のように佇み、左半身に施されたタトゥーが、異様な重圧となって存在感を放っています。
「彼らには商会の話をしています。ただ、どこまで話すべきか判断がつかなかったので、今回は彼らの立場と、商会が扱う商品のみを伝えました」
ゼロンの報告を受け、ヴィクトールは深く頷きました。
「……ありがとう、ゼロン。賢明な判断だ。まずは君たちがこの街で動くための『器』が必要だったからな」
ヴィクトールはデスクの上に置かれた一枚の図面へと視線を落としました。
それは先ほどまでブルーノやセバスと共に練り上げていた、商会の構造案です。
「シオン、アルテミア、ベルトラム。話は聞いていると思うが、表向きの商会が扱うのはバームや日用品関係だ。……あぁ、実は近々、もふもふぬいぐるみのリュックやポシェットも納品される予定でね。――まぁ、その実態は、我が息子レオンの『やらかし』の隠れ蓑、いや『盾』であり、隠蔽工作の場……まぁ、そんなところだ。レオンの日常を守り、君たちは表舞台の目を眩ませるための『城塞』だな……」
ヴィクトールは言葉を紡ぎながら、胸の内で密かに歓喜していました。
(これからは、あの子の突拍子もない大惨事を、すべてこの最高峰の精鋭たちへ丸投げできるのか……!)
そう思うと、……嬉しくてたまりません。
張り詰めた空気の中に、知らず知らずヴィクトールの口元は緩み、愉悦に満ちた笑みがこぼれていました。
ヴィクトールの口元に浮かんだどこか愉悦を孕んだ笑みは、室内の張り詰めた空気をその一瞬で「漆黒の共犯関係」へと変質していきます。
「……バームを中心に、便利用品ですか。それに、もふもふのぬいぐるみリュック」
シオンはヴィクトールから提示された「表の顔」を頭の中で転がし、実になめらかな笑みを深めました。
「バームだけでも素晴らしいのに、更に愛らしさの融合ですね。フフ……、何よりレオン様の『やらかし』をすべて、私たちが裏と表で処理し消化する。実に愉しく実用的な隠蔽の城塞です。ヴィクトール様、私を誰だとお思いですか? 私はその手の泥沼とした政争の中で、数々の不都合を『なかったこと』にしてきた男ですよ?」
シオンの瞳にひやりとした極上の愉悦が宿ります。
「国家予算の横領から目障りな貴族の失脚まで、直接手を下すことなく闇に葬ってきた私に、レオン様の『神懸かりなやらかし』を隠蔽するとは、これ以上ないほどクリエイティブでやりがいのある仕事です。すべて私に『丸投げ』してください」
アルテミアも、扇の向こうで目を細め、嬉しそうに肩を揺らしました。
「ウフフ、まあ! 責任をすべて押し付けられるヴィクトール様のその 悪いお顔、とっても素敵ですわ。……お任せくださいな。私がもふもふも、王都の流行も瞬時に支配してみせます。流行というものは、大衆の目を眩ませるには最高の煙幕になりますのよ?」
そして、左の少し濁る瞳と縦長の涙タトゥーで室内を静かに見定めていたベルトラムが、重厚な絶対的な忠誠を誓う声で短く応じたのです。
「……御意。レオン様がどれほど世界を破壊されようと、その『盾』となり、すべての証拠を物理的に叩き潰して御覧に入れよう」
デスクを挟み、ヴィクトールと精鋭たちの間で、完璧な意思疎通が完了しました。
しかし、まさにその瞬間──。
しとしとと降る雨音だけが響く静寂の廊下からあの、聞き覚えのある独特な足音が聞こえてきたのです。
――トトト、トコトコ。
誰もが言葉を失い、執務室の空気がピキリと凍りつきました。
「……ッ」
最初に反応したのはブルーノです。
ブルーノはすぐに部屋を飛び出し、レオン様回収へ向かいました。
ベルトラムは左の少し濁る瞳を見開き、深く眉間に皺を寄せます。
シオンはなめらかな笑みを消し、瞳に一瞬だけ警戒を走らせ、アルテミアもまた扇を持つ手をピクリと震わせ、目を細めました。
「……ッ、ハ、フ、フフ……ッ!!」
その横でゼロンが突然口を手で覆って、凄まじい勢いで震え始めます。
普段の淡々とした姿からは想像もつかないほど、必死に爆笑を噛み殺していました。
ゼロンはもう、可笑しさと興奮で完全に機能停止(爆笑死)して余裕すらありません。
「ハァ……」
背後に控えていたセバスが眼鏡の奥の目をかすかに光らせ、……深い溜息をつき、ヴィクトールは我が子のあまりにも自由奔放な夜歩きに、苦虫を噛み潰したような顔をしていました。
音を立てず、静かに執務室の扉を数センチだけ開け、超一流の怪物たちが一列になって隙間から廊下を覗き込みます。
前代未聞の「コッソリ鑑賞会」の始まりでした。
隙間から見えてきたのは、頭に奇妙なゴーグルを装着し、小さな手にボトルを握りしめた3歳レオンのコソコソ?移動した姿です。
(((あ、あの時の装備のやつだ……!!!)))
新メンバー3人の脳裏に、かつてあのミントアルコールをモロに喰らい、鼻と目をやられて地を這った「極悪な地獄」が鮮かに蘇ります。
レオンは完璧に気配を消しているつもりで、真剣な顔をしてトコトコと回廊を進み、アルベルトの部屋と向かっていました。
レオンが通過した後、大人たちもその後をこっそりとついて行き、先に回収に向かったはずのブルーノと落ち合います。
レオンはアルベルトに、ミントアルコールを構えました。
「……悪さん、せいばい!」
ちっちゃな声でそう呟き、シュッ、シュッシュッ、と吹きかけます。
シオンとアルテミアは、「レオン様の今回の獲物はアルベルト様ですね……フフフ」と、ゾクゾクするような面白さに肩を揺らし、ベルトラムは「今夜の犠牲者アルベルトに哀れみを。そしてレオン様にあらん限りの忠誠を……」と胸の前で十字を切り、久しぶりに愉快な心地になっていました。
世界の裏側を支配する予定の大人たちが、一人の幼児の「夜襲」を呆れと愛おしさで見送る中、ブルーノはやれやれというように頭を振って、レオンを回収に向かいます。
「あれ?ブルーノ」
「『あれ、ブルーノ』ではありません!まったく、寝ないと大きくなりませんよ」
レオンを抱き上げ部屋へ向かうブルーノの背後には、ヴィクトールやセバス、そして知らない三人(内二人は手を振る)がいました。
レオンはキョトンとした顔で手を振り返し、久しぶりのブルーノの顔を見ます。
「ブルーノ、じゃがいも、ほりほりは?」
「遅くなり申し訳ありません。明日からはこちらにいますよ」
「ずっと?」
「はい、ずっとです」
「うん。ならゆるしてあげる」
レオンはブルーノの首にギュッと抱きつきました。
レオンがブルーノに大人しく回収された後、残された大人たちは、襲撃にあったアルベルトを眺めました。
ヴィクトールは今日あった騒ぎを知っているため、思わず鼻をヒクつかせます。
アルテミアは防具を睨みつけ、扇で鼻を覆いました。
シオンとベルトラムは目を見合わせニヤリと笑い、どこか懐かしそうな眼差しを向けています。
───しかし。
「「「「「……」」」」」
そのまま寝ているアルベルトを見つめて、シオンがふと呟きました。
「……イビキをかいて、気絶をしているとか?」
「「「「……」」」」
皆が胡乱げな表情で、シオンを見つめます。
シオンのフォローは空振りに終わったようです。
「……フフフ、本当に面白くて可愛らしい。ヴィクトール様、全力で当たらせて頂きますわ。ねぇ、シオン、ベルトラム。よろしくて?」
「木漏れ日商会」と侯爵家の結束はこの瞬間、これ以上ないほど強固に結ばれました。
「……旦那様」
背後に控えていたセバスが、眼鏡の奥の目をかすかに光らせ、ヴィクトールにだけ聞こえる声で囁きます。
「実に素晴らしい『適材適所』にございますね。これで旦那様の仕事も、劇的に減ることでしょう!」
「……ああっ、本当に、ゼロンには感謝してもしきれないな」
ヴィクトールは雨の音に紛れるように、低く愉悦を孕んだ声で笑い続けました。
知恵と力、そして隠蔽の技術を磨いた暗殺者たちが、一人の幼児の『やらかし』を隠すために結託したのです。
「木漏れ日商会」の真の営業方針は、ヴィクトールの歓喜と共に決まりました。
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