夢の啓示と、石の記憶
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
間違えて投稿ミスしてしまいました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
レオンは持っていた小さなスコップをそっと脇に置き、もっさりとしたミントの1株を両手でソッと持ち上げました。
それを遠目で見たアルベルトは、こみ上げる悪夢の光景を必死に抑え込み、努めてにこやかな声をかけます。
「レオン……そのミントをどうするつもりだい?」
レオンは一瞬……、不思議そうにキョトンとし、すぐに花が咲いたような笑顔で答えました。
「お引っ越し♪」
元気いっぱいのその言葉により、アルベルトの脳裏にあの忌まわしい光景がよぎります。
庭一面を覆い尽くし、屋敷の壁まで這い上がる無限のミント、ミント、ミント……。
見ればレオンが手に持つミントには、まだ鉢がなく剥き出しの根が、今にも庭の土に飛び込みたそうに揺れている……。
「……あ。……ああ……っ」
「おにいちゃん? どちたの? ……ごめんちゃーい、しゅる?」
レオンが小首を傾げミント成敗した事を思い出し、目を細めてニンマリと笑いました。
「そ、そのミントさんのおウチは、兄ちゃんが作ってやる。 だから今日のお引っ越しは止めようか?」
レオンの考えたのと、様子が違うアルベルトに、レオンは「うっ?」と短く声を漏らし、首をひねって兄の顔をじっと見つめます。
アルベルトは引き攣りそうな頬をなんとか持ち上げ、本日一番のニッコリとした(しかしどこか懇願するような)笑顔を浮かべていました。
「……わかった」
なんかよくわからないけれど、レオンは素直に頷くと、ミントをぽいっとアルベルトの手に預けます。
(これでいい。あの悪夢のような未来は、……未然に防がれた)
安堵の溜息をつくアルベルトですが、レオンはちゃんとニコに用意してもらった「鉢」に、お引っ越しする予定でした。
アルベルトはレオンの立ち去る後ろ姿を見ながら、ホッと胸を撫で下ろしました。
そして悪夢で「水が異様に溢れていた場所」に向かいながら思案します。
(……気になるな。試しに掘ってみるか?)
最近もトラップ用の穴掘りをしたばかりです。
アルベルトは納屋に向かい、道具を取りに行きました。
手には無骨なスコップが握られています。
さっそく狙いを定めた地面へガッと突き立て、掘り始めました。
「……アルベルト様、手伝いましょう」
少し経つと、庭師のブルーノが声をかけます。
彼はアルベルトの奇妙な行動には黙って、自分専用スコップを土に突き立てました。
「ブルーノ。笑わないでくれよ。夢を見たんだ。レオンのミントが……ミントがテロのように増殖して、世界を埋め尽くす夢をね。その時ここから水が溢れて、ミントが無限増殖するんだ。単なる悪い夢だとは思うんだが、どうしてもここが気になって……」
アルベルト自身、今の自分がわかりません。
ただ安心したい気持ちはあるのです。
ブルーノは真面目な顔で頷き、アルベルトが示した場所を掘り下げていきます。
レオンの菜園に近い場所は、柔らかく湿った土で掘り進めるのは容易でした。
やがて数分も経たないうちにアルベルトの持つスコップの先が、土の中で「カツッ」と硬い感触に当たったのです。
「……? 石か?」
アルベルトの手を止めると、ブルーノが跪き石の周囲の泥を払いのけました。
「……アルベルト様。これはただの石じゃありませんよ」
泥の下から現れたのは精巧にカットされた白灰色の石材の角、しかもその表面には長い年月と、泥に晒された柔らかなレリーフが刻まれていました。
「ブルーノ、……これは?」
「石組みです。しかもかなり大規模な……。アルベルト様、あなたの夢はあながち間違いじゃなかったのかもしれない」
ブルーノはさらに周囲を広げ掘り進めると、石組みの隙間から、まるで呼吸をするようにプクッと澄んだ水が湧き出てきます。
地中深くに眠っていたモノが、再び脈打ち始めました。
****************
──会合があった夜。
視線の先では幼いレオンが、雨の中をポテポテパシャパシャと必死に駆けていた。
バランスの悪い足取りで一生懸命に前進し、のほほんとした風貌に似合わず、どこか妙な使命感に燃えているようにも見えた。
あまりにも平和で、のどかな光景……。
自分たちが手にする冷たい鋼の感触が、この場所では酷くひりつき、異様な違和感を放っている。
「はぁ……、これを壊そうとしたのか、俺たちは……」
深く、重い溜息がこぼれる。
仕事とはいえ、この温かな光景を蹂躙しようとしていた自分たちが、ひどく情けなく滑稽に思えてくる。
「……騙されたな」
後ろに控えていた渋みのある声が鼻で嗤い、深く深呼吸をした。
まるで腹の中に溜まった濁った怒りを、すべて吐き出すような仕草だった。
実際、その一言を境界線にして、──場にいた者たちが、一瞬で冷酷非道へと意識が切り替わる。
依頼主たちが並べ立てた「大義名分」という名の二枚舌に呆れ、それがどれほど欺瞞に満ち溢れ、我等を馬鹿にしたものなのか、この光景を見れば一目瞭然だ。
「ククッ……」「アハッ……」
さらに後ろに控えていた二人の口から、抑えきれない忍び嗤いが漏れ出した。
それは自嘲であり、同時に、明確な殺意の転換点でもある。
「報復は必要……。 礼儀大事」
もう一人は短刀の刃を指でなぞる。
自分たちを使い捨ての駒として、この平和な庭に送り込んだ不届き者たち……。
彼らには、いや、……彼ら周辺の連なる者すべてに、決して癒えることのない本物の苦痛を教える必要がある。
「……よし!方針変更だ。この庭を荒らす奴は俺たちの敵だ」
そう言うと男たちは音もなく闇に溶け込んだ。
後はただ、レオンのおぼつかない足音だけが、庭園にのほほんと響いていた。
「……ブフッ、クックックッ。ねぇ、フッ、フヒッ……!」
「……レオン様、最強。よくやった……!」
深夜の廊下、レオンのミント襲撃を見送った後、派手な髪の男は床に蹲り、必死に笑いを堪えていた。
前髪の長い青年は、普段の死んだような目に、珍しく生き生きとした喜びの感情を宿している。
そんな彼らの様子を、扇を手にした切れ長の目の男が、呆れたような顔で見下ろす。
「まったく、勝手にレオン様に接触などして……ブルーノさんに知れたら、本当に殺されますよ?」
「……レオン様、可愛い。ホワホワで、やわやわ。気持ちいい……」
「おっ! 珍しく長文だねぇ。でもね、俺なんてレオン様から直々に『お名前』を貰っちゃったもんね♪」
「……名前?」
「「ハッ?!」」
皆が驚愕する顔を見られたのがよほど嬉しいのか、派手な髪の男は満面の笑みを浮かべて胸を張った。
「俺、これから『ぴょんた』だから!」
「「「はぁ? ……ぴょんたァ?!」」」
「なぁーに?」
「呼んでねぇよ!」
顔に傷のあるガタイの大きい男が、渋い声ですぐさま鋭いツッコミを入れる。
「……僕も、ほしい」
ジィ─────ッと羨ましげに「ぴょんた」を凝視する前髪の長い青年に、当の本人はケラケラと笑いながら言い放った。
「なら、おねだりして貰えばいいじゃん!」
「た、確かに……」
「「確かにじゃない!!」」
思わず同時に声を荒らげ、年齢的には上の男たちは余りにも自由な二人に呆れ果てる。
しかし──、確かに新たな名を冠するというのは、今後の隠蔽活動において「正解」かもしれない。
これから「木漏れ日商会」として表舞台をウロウロすることも増えるだろう。
今さら血塗られた過去の名前など必要なく、あの幼い主から新たなコードネームを授かるというのは、隠蔽工作としても非常に筋が通っている。
──大人二人は視線を交わした。
どうやら考えていることは同じのようだ。
──久しぶりに戻ってきた光のある表の世界。
あのおチビちゃんは、自分たちに一体どんな名前をつけてくれるのだろうか。
「……悪ふざけが過ぎるか? なぁ?」
渋い声で、まるでおもちゃを前にしたかのような、不敵な雰囲気を漂わせる顔に傷のある男が嗤う。
「……最高にスリリングなルーレットなのでは? 『当たり』が一本も入っていない気はしますけどねぇ」
切れ長の目の男も楽しげに忍び嗤いを漏らし、目の前で「ぴょんた」と名付けられた男の、その由来となったであろうぴょんと跳ねた髪を見つめた。
当のぴょんたは、髪をユラユラと揺らしながら、おどけた態度で前髪の長い青年をからかい続けているのだった。
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