緑の魔王が解き放たれる②
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
ミントとの死闘を終えた場所は、まるで嵐が過ぎ去った後のようです。
「……ひどいな。まるで地面を一度裏返しにしたみたいだ」
泥だらけのスコップを杖代わりにして、エドワードは変わり果てた菜園を見渡しました。
美しい畝などあるはずもなく、地中を這い回る根を引きずり出すため深く掘り返し、無残に抉り取られた土は、足を踏み入れたくない粘土質の泥濘の状態です。
引き抜いた跡の穴は、なぜか濁った水がたまり、広がっていました。
更には断ち切られたミントの茎から痛くなるほど濃厚な清涼感が、殺意を感じるほど漂います。
「……涙が出るほど沁みるなぁ。アルベルト」
「殿下、ほとばしるの間違いかと……」
「ボク、お鼻チー、ちてくるー」
トコトコポテポテ……♪
「駆逐」が及んでいない境界線では、静かで確かな「侵略」が起こっていました。
テクテクトコトコ……♪
「にいちゃ!ミントさん、さんぽちてた」
裾を引っ張ったレオンが指差す石畳……、わずかな隙間から緑がピョコッといました。
菜園の柵を越え、バラの聖域を蹂躙し、あろうことか邸宅の石段の下まで触手を伸ばしています。
柔らかな初夏の草花を窒息させ、覆い尽くした分厚い緑の絨毯……。
その下を覗けば、白蛇のような地下茎が、獲物を狙うように暗い土の中を四方八方へ突き進んでいるのが見えました。
ミントの細い蔓が「絞め技をキメた蛇」のようにバラの根元に巻き付き、大輪の花の栄養を奪い取ろうと狙っています。
「……正論だけでは、この生命力には勝てないわけだなぁ」
アルベルトは、泥にまみれた自分の手を見ました。
駆逐された跡の「茶色の焦土」と、庭園を塗りつぶそうとする「緑の魔王」。
その残酷の中で唯一の救い?は、ミントの残骸から漂う強烈な匂いが、母の思い出を刺激する事だけだろう。
「あの『前線』も、日が暮れる前に制圧するぞ!」
「あいっ! スースー、バイバイしゅる!」
「……殺ってやる!」
14歳の夏……、少年たちは再びスコップを握りしめました。
レオンは小さなバケツを抱きしめます。
「……くっ、アルベルト、目が、目が開けられんぞ!」
エドワードが泥で汚れた手で涙を拭い叫びますが、四方八方で引きちぎられたミントの残骸から、目に見えない「スースーのつぶて」のせいで仕方がないのです。
それはもう芳香ではなく、嗅覚も麻痺させる催涙弾で、緑の伏兵による攻撃でした。
「殿下、口を閉じてください! 舌までスースーして味が分からなくなります!」
アルベルトの叫びも凍てついて、あたりは呼吸を拒絶する濃密な毒霧に埋め尽くされています。
「……もう、無理だ。……圧倒的に戦力が足りない。どうしたものか…」
泥まみれのエドワードが、腰に手を当て「緑の戦線」を睨み据えます。
目の前に一度駆逐したはずの場所から、早くも新しい芽が「ニョキッ」と出ています。
たぶん邸宅の地下深くまで根を張っているのでしょう……。
───その時です!
「殿下、増援が来ました!……ヴァリエール家の精鋭たちです!」
アルベルトの合図とともに、三人の男たちが泥濘の戦場に足を踏み入れました。
1. 特攻隊長:料理見習いニコ
「うわあ! なんですかこのミントの山は ?」
大きなザルと包丁を持つニコは、キラキラと目が輝かせます。
2. 戦術顧問:庭師ブルーノ
「……やれやれ。また坊っちゃまの『やらかし』ですか?」
土の匂いを染み込ませた皮の手袋をはめ、ブルーノは腰を屈めて、ミントの走りを見ています。
「……奴らは、石の隙間を狙って逃げます。ニコ、そこを掘れ。……ヴィクトール様は、あちらの監視をお願いします」
3. 総司令官:ヴィクトール侯爵
「……ブルーノ、私に指図するな!ハァ……だが従おう。またレオン『やらかし』だな」
「……ボク、無実よ?」
レオンは肩車をして貰い、キョトンとした顔で訴えます。
ヴィクトールは高級な靴が泥に沈むのも気にせず、レオンを乗せて戦況を見ていました。
「レオン、あそこに『侵入者』の伏兵がいるな?」
「あいっ! とーたま、スースーの元凶いるの!」
「ニコ、右翼のランナーを断て! ブルーノ、中央のバラを守れ!」
ヴィクトールの号令が飛びます。
ニコが包丁さばきでミントの茎を「シュババッ!」と切り刻み、ブルーノが熟練の手つきで「親玉の根」をじわじわと引き摺り出します。
エドワードは借りたザルを盾のように構えて、抜かれたミントをササッと受け取っていました。
「ははは! 見ろアルベルト! 料理番に庭師、それに侯爵まで泥まみれだ! これこそ真の『円卓の騎士』ではないか!」
「殿下、笑っている場合ではありません! ニコ、そこだ! 石の下を逃げるぞ!」
「あっ! 逃がしませんよ。ミントソース(候補)め!」
その中心ではレオンが、父の肩の上で「わっしょい、なの! わっしょい、なの!」と、腕を動かし応援しています。
「アルベルト! 掘りすぎるな!水が溢れ出るぞ! ニコ、そこだ!石垣の裏に逃げる!」
エドワードから叫ばれ慌て確認します。
目に映るのは、コンコンと溢れ出る濁った水と、水面に浮かぶたくさんの白い根でした。
「いけー! わっしょい!」と采配を振るうレオンの明るい声が聞こえます。
「……はっ! 侵略を食い止めろ……ッ!!」
アルベルトは飛び起きると同時に叫んでいました。
肩で荒い息をつき辺りを見回すと、そこは泥濘の庭園ではありません。
──カーテンの隙間から、柔らかな光の線が漏れています。
久しぶりに晴れたようです……。
「……なんだ。……夢か」
ベタついた汗を拭い、アルベルトはハァと呼吸を整えました。
しかし──、凄まじいミント臭は未だ顕在です?!
「ウッ!……ゴホッ、な、なんだよ?なんでこんなにミント臭いんだよ!!」
アルベルトの全身はもちろん、寝具周りも強烈なミント臭が染み付いていました。
「ま、まさかレオンか!……あぁ、なにげに怒ってたもんな……」
原因に心当たりがあったアルベルトは、髪をかきあげため息をつきます。
そして喉の奥に強烈なスースーが襲いました。
……防具を確認すると、防具はお咎めを免れたようで、レオンはちゃんとわかっています。
しかしあの夢は、……ブルーノやニコまで総動員し、エドワードは泥だらけで笑い、父上も頭から泥を被って……。
「……ふっ、ありえないな」
ヴィクトールが泥まみれになることも、エドワードがミント沼に這いずることもないのです。
しかし、……あの鼻を突く強烈なスースーは戦慄と悶絶のWパンチです。
どうやらレオンのミントアルコール攻撃が、夢に影響を及ぼしたのでしょう。
柔らかな朝日の中で、アルベルトは真っ先に菜園へと向かう事にしました。
行く途中には母エレーナが整えた薔薇の花々が咲き誇り、風に揺られかぐわしい香りをふんわりと届けています。
「よかった。平和だ……」
アルベルトは夢見の不安が消え、ホッと胸を撫で下ろしました。
どこを見ても秩序は保たれ平和そのものです。
そのままアルベルトは、菜園のミント側へ向かっていると、レオンは持っていた小さなスコップをそっと脇に置き、もっさりとしたミントの1株を両手でソッと持ち上げていました。
それを遠目で見たアルベルトは、こみ上げる悪夢の光景を必死に抑え込み、努めてにこやかな声をかけます。
「レオン……そのミントをどうするつもりだい?」
レオンは一瞬……、不思議そうにキョトンとし、すぐに花が咲いたような笑顔で答えました。
「お引っ越し♪」
レオンの鉢から白い根が、ひょっこりと顔を出しています。
「……あ。……ああ……っ」
アルベルトの鼻に微かな清涼感がくすぐり、悪夢が鮮やかなカラーとなって現実を侵食し始めました。
「おにいちゃん? どちたの? ……ごめんちゃーい、しゅる?」
レオンが小首を傾げて目を細めて笑い、アルベルトは引き攣った笑いを浮かべ、内心で激しく動揺したのです。
To be continued……♪
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