王都の衝撃 ―― 妖精天使なレナの誕生 ――
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
レオンはヴィクトールの腕から降りると、夢見心地で店内を歩き始めました。
あっちで白熊のぬいぐるみをキュッと抱きしめ、その抱き心地を確かめるように頬をすりすり……満足すると、またポテポテと移動して、今度は垂れ耳のうさぎをキュッ♪
「「「うちの子……天使すぎる……」」」
ヴィクトール、アルベルト、カトリーヌの三人はカンペキな同じタイミングで、声にならない感嘆を漏らしました。
しかしその殺傷能力(可愛さ)の影響は、身内だけにとどまりません。
居合わせた他の客や店員たちまで、作業を止めレオンの「もふもふ巡礼」を熱烈な視線で追いかけています。
そこに一人の貴族がヴィクトールに気づき、慇懃に挨拶をしてきました。
「これは!ヴェリエール侯爵閣下。このような場所でお会いできるとは!」
ヴィクトールが社交用の仮面を被って応じる中、隣にいた小さな令息が、頬を赤らめチラチラとレオンを見ています。
((……やらんぞ! 誰にもやらん!!))
アルベルトとヴィクトールの心の声が、圧となって令息を襲います。
しかし親の貴族は気付かず、レオンに向かって微笑みました。
「なんと……愛らしいお嬢様だ。閣下、お名前をお伺いしても?」
───一瞬の沈黙……。
レオンは男児です。
しかし今の格好は非の打ち所のない侯爵令嬢。
さらに顔立ちは、愛妻そのものでした。
「……レナ、だ」
ヴィクトールの口から、思わずその名が零れ落ちます。
もし女の子として生まれていたら……。かつてエレーナと共に決めた失われてしまった名前です。
その瞬間、アルベルトが「えっ!?」と目を見開きますが、ヴィクトールの横顔に宿る深い情愛を見て言葉を飲み込みました。
「レナ様ですか。……レナ、素敵な名前だね」
令息が勇気を出してレオンに声をかけると、ぬいぐるみを抱えたレオンがキョトンとして振り返ります。
「……レナ? ぼ……レナ、なの?」
自分に新しい名前がついたのかと、レオンは不思議そうに首を傾げました。
サーモンピンクがふわりと揺れ、令息はさらに顔を赤くして固まってしまいます。
ヴィクトールは無表情な仮面の下で、凄まじい速度の嘘を並べ立てました。
「……末の娘のレナだ。体が弱くて、ずっと離れで療養していた ……。今日は気分が良さそうでな。……初めて外へ連れ出したのだ」
「病弱」という設定を付け加えることて、すべての状況を強引に、無理やりねじ伏せようとしています。
「近寄るな! 病弱なんだ!」
隣ではアルベルトが、近づこうとする令息を鋭い目付きで威嚇します。
そんな男たちの様子を、カトリーヌは顎に手を当て眺めていました。
(……いっそのこと5歳まで『レナ』として通せばよろしいのではなくて?)
そうすればお揃いのドレスのお出かけも、お茶会も、髪を梳かして着せ替えする遊びも、合法的に(?)心ゆくまで楽しめます。
しかしカトリーヌは、……ふと冷静になりました。
「……お父様。世間はすでに、侯爵家の『混ぜっ子レオン』を知られていますわ」
ヴィクトールはハッとしたように目を見開き、アルベルトも愕然としました。
……レオンが開発した「まぜまぜ罠」の発明は、すでに王都民の間で「三大ミラクル研究」として広く知れ渡っていたのです。
「病弱な妹……という嘘は、お父様、ナシですわ」
カトリーヌが扇を口元に当ててニッコリと微笑むと、ヴィクトールも我に返ったように咳払いをしました。
──ですが、目の前の状況は変わりません。
「……では、その……抱っこされている愛らしい方は、どなたなのでしょう?」
令息が赤面しながら、勇気を振り絞って尋ねます。
ヴィクトールは抱き上げたレオンの「サーモンピンクの衣装」と「桜色の頬」を二度見し、苦渋の決断を下しました。
「……我が息子、レオンだ」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
周囲の客、店員、そして令息までもが、衝撃のあまり声を揃えて絶叫します。
「息子!?」「この天使が、男の子!?」
「……何だ、その目は?男の子がドレスを着てはいけないという法が、……この国にあったか?」
開き直ったヴィクトールが凶悪なオーラを放ち、周囲を無理やり黙らせます。
しかし本心では、──(やはり着替えさせるべきだったか?いや、でもエレーナに似て可愛いし……)と激しい葛藤に苛まれていました。
「ボクおとこよ? おそと、出たかったの」
もふもふの白いクマをギュッと抱きしめながら、不思議そうに首を傾げます。
その仕草一つで、周囲の女性客たちが「くぅっ……!」と胸を押さえて倒れそうになっています。
(フフ……性別を明かしたところで、この『可愛さ』は隠しようがありませんわ!)
カトリーヌはむしろ性別という壁を超越し、周囲を魅了し続けるレオンを見て、大変満足げに微笑みました。
「お父様、お兄様。レオンが男の子だと分かった途端、今度は『美少年としての将来性』を狙う視線が増えましたわよ?」
「「……何だと?」」
ヴィクトールとアルベルトが同時に振り返ると、そこには性別を知ってもなお、レオンから目を離せない令嬢たちや、さらなる衝撃に打ち震える令息たちの姿が……。
「……帰るぞ。レオン、気にいったぬいぐるみはいたか?」
「……う~ん?」
両手にぬいぐるみを抱えたレオンが、ふと思いついたようにヴィクトールの顔を見上げました。
「とーさま、ボク、ぬいぐるみのバックほしい」
「バッグ? ぬいぐるみを入れるバックか?なら小さなぬいぐるみを見に行くか」
「ちがう。せなかに、おんぶしゅるの!」
レオンは短い腕を一生懸命に後ろへ回し、おんぶのジェスチャーをしました。
その瞬間、店内にいた全員の脳内に、サーモンピンクのドレスを着た天使が、もふもふのぬいぐるみを背負ってお散歩する姿が鮮明に投影されます。
「「「「「「…………あり!!!」」」」」」
客も、店員も、そして先ほどの令息までもが、魂の底から一致団結した叫びを漏らしました。
「なんてことだ、その発想はなかった!」
「背中にぬいぐるみ……それはもう、歩く幸福ではないか!」
「うちの子にも、ぜひ!」
店内の小さなお客たちも、目を輝かせて親の服を引っ張り始めます。
抱っこせずに、いつも一緒にいられる魅惑のアイテム。
そんな中、店内を見渡したレオンが、「あ!」と指差したのは、少し癖のある柔らかな毛並みの垂れ耳のうさぎです。
「あの子がいい! ニコとおんなじ、いろ!」
それはニコの髪色にそっくりな温かみのあるアッシュブラウンのぬいぐるみ。レオンはそれをぎゅっと抱きしめると、抱き心地を確かめるように頬を寄せました。
一部始終を見ていたおもちゃ屋のオーナーは、震える手でメモを取っていました。この「背負うぬいぐるみ(リュック)」というアイデアは、今シーズン間違いなく大ヒット商品になる。
もちろんヴィクトールは、オーナーの野心的な視線を逃しません。
「オーナー。今の息子のアイデア、商品化するつもりだろう?」
「は、はい! ぜひとも許可をいただければ!」
大人たちが商談を進める傍らで、レオンは自分の背中用「ニコ色のうさぎ」を撫でながら、カトリーヌを見上げました。
「ねーさまも、もふもふのバッグ、いる?」
その唐突で愛らしい気遣いに、カトリーヌはふっと表情を和らげ、でも……少し寂しそうに微笑みました。
「……ええ、ほしいですわね。けれど私はもうレオンのように小さくありませんもの。あと二つ下なら、私も楽しめたかしら……?」
淑女としての振る舞いを求められる年齢になった彼女にとって、大きなぬいぐるみリュックは、憧れても手が届かない「子供の特権」のように思えます。
しかしレオンの視点は違いました。
「ねーさま、ポシェットは?」
レオンは棚に置かれたぬいぐるみを指差します。
「あのわんちゃん。ポシェットにすると、ねーさま、可愛いの!」
指差した先には、手のひらより少し大きいくらいの、毛足の長い真っ白な子犬のぬいぐるみがありました。
リュックにするには小さいけれど、肩から下げるポシェットには丁度いい……。
「……確かに!」
カトリーヌはハッ!としました。
大きなリュックは無理でも、上質なドレスのアクセントとして、小さな「もふもふポシェット」を斜めがけにする……。それは、王都の流行に敏感な令嬢たちの間で、爆発的な人気を呼ぶ光景が容易に想像できました。
「父上、見ましたか。レオンは自分の分だけでなく、市場の全年齢層をターゲットに据え始めましたよ……」
アルベルトが戦慄したように呟きます。
「ああ、分かっている。あの子は無自覚に、王都のファッションを一変させた」
さっそくニコ色の垂れ耳うさぎを背負わせてもらったレオン。
サーモンピンクの大きなリボンと、背中のもふもふなウサギ。
「 おんぶ、できた!」
ポテポテと歩くたびに、ウサギの長い耳がピョコピョコと揺れています。
その破壊的な愛らしさに、店内の人々は再び「尊い……」と天を仰ぎ、アルベルトは「今すぐブルーノを呼べ!」と叫びました。
店主はリュックをもう一度預かり、ベルトとバッグの細工をカトリーヌに見せながら、リュック中にハンカチを忍ばせます。
そしてクスクスと笑い、レオンにウィンクをしました。
「あ! おんなじ、いろ!」
レオンは、ニコの髪色にそっくりのうさぎの毛並みと、直径1センチほどの丸みを帯び6つの木製ボタンを見て、嬉しそうに声を弾ませます。
「では、仕上げにこの紐を……」
しなやかな革紐を6つのボタンにクルクルと巻きつけ、最後に輪っかをポイッとボタンに引っ掛けます。
するとうさぎのお腹の隙間はピタリと閉じられ、どこから見ても可愛いぬいぐるみに戻りました。
「レオン、この紐をクルクルと解けば、中からお宝が出てきますわ。少し難しいかしら?」
「んんー……ボク、がんばる!」
レオンは自分の小さな指先を使い、一生懸命に紐をクルクルしようと練習を始めました。
そのボタンに口を尖らせ、格闘する真剣な横顔があまりに可愛らしくて、またしても周囲に「「「尊い……」」」という沈黙が広がります。
「いち、に……。ハンカチあったぁ!」
広げてみると、もふもふうさぎの刺繍が付いた可愛いハンカチでした。
レオンは満面の笑みでバンザイして大喜び♪
それを見守っていたヴィクトールも、満足げに頷きます。
「ボク、お宝、もってるの!」
背側でピョコピョコ揺れるうさぎと、その中に隠された「クルクルボタン」の秘密に、レオン様は胸を躍らせていました。
店を後にしようとしたヴィクトールは、ふと足を止めオーナーを振り返りました。
その瞳にはすでに数手先を読む、貴族特有の鋭い光が輝いています。
「オーナー。……実を言うと近々、私の知人が『木漏れ日商会』という商会を立ち上げる。その折にこの『ぬいぐるみリュック』を一連の【レナ・シリーズ】として卸してほしい」
ヴィクトールの頭の中では「レナ」の名を冠したブランド構想が、瞬時に組み上がっていました。
レオン様にうさぎリュック、カトリーヌには犬のポシェット……。
最強の布陣を整え、新たな流行という名の嵐の予感を孕んだまま、一行は満足げに玩具店を後にしました。
パッカパッカ、ガタンゴトン……♪
「おとーさま。うさぎさん、もっと『ぽかぽか』にできるかなぁ?」
レオンが首を傾げて呟いたその言葉に、ヴィクトールの背筋に冷や汗が流れます。
冬のお出かけ用に、ポカポカ機能を組み込んだら最高ではないか!
「……アルベルト。レオンの意識を他に移さねば、もふもふがさらに進化するぞ。……途中、お菓子でも買うか?」
「……父上、さすがです。レオンのことだ。次は『移動もふもふ』とか、『追撃もふもふ』とか言いかねませんからね」
カトリーヌは「楽しみですわね」と微笑みながら、レオン様が次に巻き起こすであろう可愛い騒動に、大いに期待を膨らませているのでした。
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