朝陽に舞うサーモンピンクの衝撃
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
カトリーヌは目の前に立つ小さな存在に、感極まったように熱い溜息をつきました。
湯浴み上がりで、泥石鹸の恩恵を受けたミルク色の肌は、ほんのり桜色に上気し、ふわふわの亜麻色の髪からは、柔らかな香りが漂っています。
そしてカトリーヌとお揃いの、繊細なレースを贅沢にあしらったサーモンピンクのドレス。
「ねーさま、ボク、おとこよ?」
レオンが不思議そうに首を傾げると、幾重にも重なったシフォンのスカートが、ミニバラの花びらのように愛らしく揺れました。
周囲のメイドたちも頬を染め、口元を両手で押さえながら、喉の奥で歓喜の悲鳴を上げています。
「ええ、知っていてよ。でもレオン、可愛さに性別なんて関係ありませんわ」
カトリーヌは震える指先で、レオンの髪に結われたリボンを丁寧に整えました。
鏡に映る大人びた黒髪ソバージュの美少女と、天使が受肉したような亜麻色の美幼女――もとい、美少年。
ラベンダー色の瞳と蒼い瞳が並んだその光景は、もはや一つの完成された芸術品です。
カトリーヌは満足げに微笑むと、レオンの手を引いて歩き出し、サーモンピンクの裾が仲よく揺れています。
ダイニングの扉の向こうで、コーヒーを片手に待っている彼らは、この「究極の可愛さ」を前に一体どうなってしまうのでしょう。
カトリーヌはかつてないほどの高揚感を胸に、運命の扉を開いたのでした。
ダイニングの扉が左右に開かれると、朝の柔らかな光と共に現れました。
カトリーヌに手を引かれてトコトコと、……繊細なレースと柔らかな生地に包まれたサーモンピンクの妖精……。
湯浴み上がりで桜色に上気した肌、そして亜麻色のふわふわな髪に結ばれたリボン。
──ダイニングの空気はピシッと固まりました。
「……レ、レオン……か?」
ヴィクトールの喉から、掠れた声が漏れます。
その瞳は驚愕で見開かれ、手にしたカップが大きく傾きます。
膝の上にタラー……とコーヒーが零れ落ちますが、今のヴィクトールに気づくことすらできません。
「お待たせいたしましたわ。……さあレオン、ご挨拶を!」
カトリーヌが楽しげに促すと、レオンの蒼い瞳がキュピン!と輝きました。
その瞬間、カトリーヌは「ハッ!」と青ざめます。
淑女の挨拶をさせるつもりが、レオンの脳内では、以前カトリーヌに教わったあの【あざと可愛い挨拶】が発動したのです。
主の傍らで哀悼の意を捧げていたセバスも冷静さを失い、標準の微笑みを消しさり固まっています。
アルベルトにいたっては脳内を『可愛い』一色に塗り潰されていました。
パーティーでは知略と偽装を繰り返し、飄々と渡り歩く彼ですが、今は盛大なバグを起こしています。
(なんだ?これは……。弟か?……いや、天使だ。俺はいつから、天使を兄弟に持ったんだ……?)
騎士としての言葉も矜恃も失い、口を半開きにして呆然と立ち尽くすしかありません。
マルコとニコも、運んでいた皿を持ったまま、目を見開いて石化していました。
しかし──もっとも深刻なダメージを受けたのは、やはり当主ヴィクトールです。
先ほどまで「地下牢の人材」をどう商会に登用すべきか、計略的計算を巡らせていた彼の脳内は、いまやサーモンピンク一色にスルリと上書きされていました。
機能を停止したまま、大きく見開かれた琥珀色の瞳の奥で、理性が音を立てて崩壊する真っ只中です。
レオンがヴィクトールの元へフワフワと歩み寄る間に、男たちはそれぞれのやり方で限界を迎えていました。
「じーっ……」
サーモンピンクのリボンの下から、蒼い瞳がじっとヴィクトールを見つめます。
三秒に一回のゆっくりとした瞬き、眠気を健気に我慢するような愛くるしい眼差しです。
「……っ!?」
ヴィクトールの心臓がドクンと大きく跳ね上がります。
レオンはトコトコとさらに近づくと、ヴィクトールの逞しい腕に、小さな両手で「ぎゅっ」としがみつき、その桜色の頬を服の袖に「すりりー♪」と寄せたのです。
「とうさま……。おはよぉ……?」
……狂おしいほどの沈黙がダイニングを支配します。
ヴィクトールは震える手で、がばりと自分の顔を覆いました。
「セバス……、今のレオンを!今、この瞬間、この角度のまま!永久に保存する方法を考えろ!この可愛さをそのままにしておくのは、世界の損失だ!!」
「……御意に!」
当のレオンはのほほんとカトリーヌを見上げ、上手にできた挨拶を褒めてもらおうと、蒼い瞳をキラキラと輝かせています。
「ねーさま、ボク、できた♪」
その決定的な天使の一言に、男たちが揃って「……うっ」と胸を押さえ、一斉に撃沈しました。
カトリーヌは、自分が授けた可愛いがまさかこれほど効くとは予測しておらず、額を押さえて溜息をつくしかありません。
朝食も終わり……、今日の予定である『もふもふパラダイス』を決行しようとカトリーヌが話を切り出します。
するとヴィクトールは猛反対し、さらにはアルベルトまで参戦してお出かけ阻止へと動き出しました。
「カトリーヌ! お前は、一体何を言っているんだ!」
ダイニングの空気は一変し、ヴィクトールの怒声が響き渡ります。
膝の上にコーヒーの地図を作ったまま、その表情はヴィクトール本来の厳格な当主の顔に戻っていました。
「カトリーヌ、絶対にダメだ! 危険すぎる!」
アルベルトもまた、主君を守る守護騎士のように断固拒否を突きつけます。
こんな破壊的なサーモンピンクのレオンを衆目に晒すなど、国家機密を漏洩するより遥かに恐ろしいことでした。
「……お父様たちもご一緒すればいいではありませんか?」
「そういう問題じゃない!」
「とにかくダメだ、カトリーヌ! 断じて許さん!」
男たちの鉄壁の拒絶を前に、カトリーヌは肩をすくめると、そっと矛先を「本日の主役」へと向けます。
「……レオン。あなたはどう? お姉様と一緒に、お外へ行きたい?」
突然話を振られたレオンは、キョトンとした顔で首を傾げます。
そして少し寂しそうに、ポツリと呟いたのです。
「ボク……おそと、でたことない……」
「「…………グッ!!」」
ヴィクトールとアルベルトの胸に、目に見えない鋭い槍が深く突き刺さりました。
──そうなのです。
思い返せば三歳のレオンは、これまでずっと屋敷の奥に大切に置かれたままでした。
外のまばゆい光も、街の賑わいも、この子はまだ何一つ知らず生きていたのです。
ヴィクトールは深いため息をつきました。
近々、一家で領地へ向かう予定もあります。
その長旅に出る前に、一度くらいはレオンに、「外の世界」を経験させておくべきかもしれません。
「……ふう。……分かった。ならば、一緒に行こう」
「やったぁー! ボク、おそと、はじめて♪」
レオンの蒼い瞳がパァァァッと輝き、ドレスの裾を揺らして喜びを全身で表現します。
その無邪気な笑顔を見せられては、もはや反対できる者など、この場に一人もいませんでした。
「ただし、馬車での移動だ。レオン、初めての外出だから疲れるかもしれないが……」
そこでヴィクトールは、レオンの現在の格好を見てハッと口を噤みました。
当然、男の子の服に着替えさせようとしたのですが──。
レオンがさらに小首を傾げて、あどけなく呟きます。
「……ボク、はやくおそと、いきたいな?」
その破壊力に、ヴィクトールはもはや言葉を失いました。
着替えさせる時間すら惜しくなった彼は、無言のままレオンをそっと抱き上げ、……なんとサーモンピンクのドレス姿のまま、馬車へと連れ出したのです。
「だ、旦那様、せめてズボンだけでもお着替えを!」
そのまま出て行こうとするヴィクトールを、セバスは慌て止めました。
地図の付いたズボンでは、侯爵の威信に関わるからです。
パッカパッカ、ガッタゴット……♪
レオンはヴィクトールの膝の上にちょこんと座り、窓の外に広がる王都の景色を食い入るように見つめていました。
「とうさま、ひとがいっぱい! お店もいっぱい!」
行き交う人々、色とりどりの看板……。
初めて見る外の世界は、レオンにとって楽しみに満ち溢れています。
ヴィクトールは腕の中で、弾むように喜ぶ我が子をしっかりと抱きしめながら馬車を走らせました。
玩具店に到着するなり、カトリーヌは自分の趣味を全開にして店内に飛び込みます。
「私のベッドを占拠するくらいの、最高に可愛い子を探さなくては!」
棚から棚へと目にも留まらぬ速さで移動しながら、もふもふぬいぐるみの「最高な手触り」を鋭く物色し始めました。
一方、アルベルトもレオンのために、任務さながら鋭い目つきでぬいぐるみを物色しています。
「……これがいいか? いや、こっちの方が強そうだ(?)……レオン、これはどうだ?」
そんな子供たちの様子を見つめながら、ヴィクトールは大きな溜息を一つ吐き、腕の中のレオンを抱き直してゆっくりと移動していきました。
「わぁ……とうさま、いっぱい、もふもふ……!」
レオンの大きな蒼い瞳は、目の前の「もふもふパラダイス」に釘付け!
ヴィクトールは、愛しい息子の弾んでいる様子を腕いっぱいに感じながら、静かに微笑んでいたのです。
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