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小さな賢者は隠しごと 〜三歳のレオンは、のほほんと照らす〜  作者: マシュマロ羊


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去来した密かな野望─共犯者は歓喜する─

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。

お待たせいたしました。

ひとときのほほんとよろしくお願いします。

のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)

 





 カトリーヌが向かったのは、自室の奥にある鍵付きの大きなクローゼットでした。

 彼女の脳裏には、以前レオンが完璧で愛らしいカーテシーが焼き付いています。


(あの時のレオンは、本当に可愛かったわ……!)


 もしこの子が「妹」だったなら、お揃いのドレスを着てパーティーに出られたのにと、密かに思っていました。男の子のレオン相手では、ネクタイの色を合わせるのが関の山で、圧倒的に「楽しみ」が足りないのです。


「夢を見るくらいは、自由ですものね」


 独りごちながらクローゼットの奥を探り、彼女は内緒で仕立てさせていた「あるもの」を取り出しました。

 それはカトリーヌが今着ているお気に入りの、型もレースも全く同じ、レオンサイズの可愛いドレス──。

 湯浴み上がりで髪もふわふわしている今こそ、絶好の好機です。

 男の子にドレスを着せるのは不作法かもしれませんが、カトリーヌには「お世話」という完璧な口実がありました。

 貴族社会には、魔除けや健やかな成長を願って、幼い男児に女の格好をさせる、古くからの慣習もあります。

 健康優良児のレオンには不要かもしれませんが、カトリーヌの「ストレス」には間違いなく効果的です。


「これはあの子の健康を祈る、お姉様としての慈愛ですわ!」


 大義名分を得たカトリーヌの心は、楽しみで弾んでいました。

 そのオーラを敏感に察知したメイドたちが、キラリンと目を輝かせて集まってきます。


「お嬢様、そのお召し物は……もしやレオン様に!?」


「まあ! なんて素敵な名案ですの! 私、一番可愛い髪飾りを探してきますわ!」


 あの日、レオンのカーテシーを見た瞬間、屋敷中の使用人たちも「ドレスを着せたい」という思いは、同じだったのです。

 カトリーヌ()とメイドたちは共犯者のような笑みを交わしました。


 そんな外の騒ぎなど知る由もなく、レオンは湯船の中で「あ、あわわわ!」と無邪気に温まっています。





 厨房ではニコが手際よく、朝食の準備を整えていました。

 温かなお豆のスープにウィンナー、そして野菜を練り込んだ丸パンが三つ。

 人参、よもぎ、玉ねぎと、鮮やかな色が並んでいます。


「よし、これを運ばないと……」


 ニコがトレーを持ち上げようとすると、バタバタとメイドがかけ込み、厨房の扉を勢いよく開けました。


「ニコ、ごめんなさい! お嬢様からの伝言で、朝食はやっぱり、いつもの食堂でいただくんですって。レオン様も一緒よ」


「えっ? レオン坊ちゃまは、まだ湯浴みをしているはずじゃ……」


 戸惑うニコに、傍らで仕込みをしていたマルコが、窓の外の空を見上げながら声をかけました。


「ニコ、時間が経つのは早いぞ。アルベルト様やヴィクトール様も、そろそろ朝の訓練を終えて戻ってくる頃だろう。たぶん一緒に朝食を取るんじゃないか」


 水浸しのレオンを運び込み、メイドたちに預けて着替えの段取りをして……。その間に屋敷はすっかり「朝の主役たち」を迎える時間になっていたのです。


「ああ、もうそんな時間……! すぐに旦那様たちの分も用意しないと」


 ニコは慌てて新しい鍋を火にかけ、香り高い

 コーヒーと熱い飲み物の準備に取りかかりました。

 メイドには用意していた温かい飲み物を手渡します。


「これ、君たちに。冷えないうちに飲みなよ」


「ありがとう、ニコ! ……ふふ、今頃あちらは、準備で大忙しね」


 メイドは含み笑いを残して、厨房から去り、ニコはその笑みの意味を知る由もなく、戻ってくるアルベルトたちのために香りを立ち昇らせるのでした。










 侯爵家のダイニングには、朝の清々しい光とともに、香ばしく、どこかほっとするようなコーヒーの香りが漂っていました。

 湯浴みを終えたばかりのヴィクトールとアルベルトは、レオンとカトリーヌの登場を待っています。

 アルベルトが皿のフルーツを口に運ぶ傍らで、ヴィクトールはコーヒーを片手に、ブルーノから届いた報告書に目を落としていました。

 現在のブルーノは、隠密として裏社会の動向を探り、同時に商会の立ち上げも進めています。


「父上、ブルーノはまだかかりそうですか?」


「ん? いや……ほぼ完了に近いようだ。ただ、各国の拠点づくりや人材の選別に手間取っているらしい。だが……」


 ヴィクトールは、ブルーノが裏社会のゴミ溜めから引き上げた名前のリストを指でなぞり、重苦しい溜息を漏らしました。

 傍らに控えるセバスも哀しげな影を落とします。


「天才薬師と名を馳せたゼロニアが、裏社会にいたことにも驚いたが、それだけではないようだな。暗殺部隊には、……そういう訳ありの『天賦の才』が多すぎる。裏にどれだけ優秀な人材が流れ、使い潰されていたんだ」


 本来なら捕らえられた瞬間に死刑となる罪人たちです。

 今回はレオンが『作った罠』で捕らえ、彼らを『労働力』と考えなければ、その才能は永遠に闇に葬られ、世界から消えるはずでした。


「レオン様は、ご自分がどれほど多くの才能と命を救ったのか、……きっとご存じないのでしょうね」


 セバスの言葉に、ヴィクトールは黙って頷きました。


「そういえば、レオンが『じゃがいも収穫』の約束を破ったと、ブルーノに怒っていましたよ」


 アルベルトがふと思い出したように口を開きます。

 血生臭い暗殺部隊の話から、一気に「じゃがいも」という平和な単語へ変わり、ヴィクトールの表情もわずかに和らぎました。


「フン、ブルーノに頼らずとも、この父を頼ればいいものを。昨日からの雨では仕方ないがな」


 ヴィクトールがニヒルな笑みを浮かべて重い報告書を伏せます。

 耳を澄ますと、「トコトコ♪」と可愛らしい足音と、カトリーヌたちの楽しげな話し声が近づいてきました。


「来たか。アルベルト、顔を直せ。レオンたちの前だぞ」


 ヴィクトールは冷酷な当主の仮面を外し、琥珀色の瞳に穏やかな慈愛を宿して、食堂の扉を見つめるのです。






 *****************







 ベネディクトは執務室の椅子に座ると、ミントとカモミール入りのバームの封を切り、古布の上に広げて肩にペタリと貼り付けた。

 ──瞬間に感じたヒンヤリした着け心地が、肩の痛みを和らげていく。


「ハァー……」


 ベネディクトは重たいため息をしみじみとついた。

 つくづく思ってしまう。やはり『やらかし』は遺伝するのだと……。


「……これはヴィクトールも必死にならざる得んな。泥石鹸よりタチが悪いぞ」


 肉体的気持ちよさと癒しを感じながら、精神はゴッソリ削られるというなんとも奇妙な状況に陥っている。

 中毒と依存の高さも然ることながら、確実性と速攻性……、何より実感と多幸感だ。


(──使わない選択肢などないではないか!3歳の幼子が作ったなどと、口が裂けても言えん。そりゃ王家がヴィクトールと結託して、国を挙げて隠蔽に動くわけだ……)


 この恐るべきバームの利権はさておいて、作成者(レオン)を完璧に隠すため、国(王家)と聖教会()は、今現在がっちりと手を組んでいる。

 後は……、新設される『木漏れ日商会』に丸投げして、作成者はあくまでも商会にし、監修に薬師ゼロンのプロフィールを被せる……。

 しかし、その『木漏れ日商会』に配した人員の報告書を思い出し、ベネディクトは頭を抱えた。


(集めた者どもが揃いも揃って元裏住人の訳ありとしてもだ……。どいつもこいつも、単独行動で一軍を翻弄できるほどの自衛特化の化け物ばかり……。他国がバームの秘密を盗もうと商会に手出そうとした瞬間には、……消えている)


 とりあえず商業ギルドには、国と教会から「最優先で承認せよ」と圧力をかけておこう。

 商会の実務部隊には、確実に敵を排除できるスペシャリストばかり……。

 小さな賢者(レオン)を隠すための包囲網は、すでに全土を巻き込んで完璧に完成しつつあった。

 これなら、遠く離れた総本山の教皇聖下に余計な勘繰りをされる心配もない。

 いや、……あの方なら気づいたとて知らんぷりだろう。

 ただ「新設した優秀な商会が作った新薬」として教皇へいくつか献上する為に、ヴィクトールの計画も一緒にしたためて置こう。

 あの方も疲弊した世界を憂い、日々足掻いておられている。


(──小さな賢者(レオン)に、爺は酷な願いを託すのやもしれんな……)


 近い将来……、幼子は成長し自我も芽生え、この世界を見た時、どんな選択肢を下すのか……。


「確かに泥石鹸の二の舞など、少しも踏みたくないわ!私とて毎日胃薬の数を数える趣味はないぞ、ヴィクトール」


 ベネディクトはもう一度溜息をつき、椅子に深く腰掛けた。

 これほど壮大な隠蔽劇の王座にちょこんと座っているのが、のほほんとした3歳児レオンなのだから頭が痛い。

 ベネディクトはすっかり軽くなった自分の肩を回し、商業ギルドを黙らせるため「教会からの特級推薦状」に、素早く羽根ペンを走らせるのだった。








読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

たくさんのブクマやポイント嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

とても励みになり、がんばろうと思いです。

メールもとても嬉しくネタになることも♪

誤字脱字報告ありがとうございます。(о´∀`о)

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