レオンの願いが叶うとき
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
ゼロンが執務室に戻ると、応接用のソファーでは、エドワードとベネディクトが揃って、足の裏に例のデトックスシートをペタリと貼り付け眠っています。
「……まだ帰んなくて大丈夫なのか?」
ゼロンは眉を顰めて二人を見つめました。
国を背負う重鎮二人が、他家のソファーで昼寝をするなど、如何なものか……。
そんなゼロンの気持ちを、デスクにいたヴィクトールが片眉を上げて、静かに口を開きました。
「連絡はしたから、大丈夫だろう」
どうやら最低限の根回しは済んでいるらしい。
ヴィクトールはふう、と小さく息を吐くと、真摯な表情を浮かべてゼロンに向き直りました。
専門家としての見解を求めているのでしょう。
「地下牢で聞こえていたが、一体これをどう売り出すつもりです? 返事はそれからです」
ゼロンは低く、拒絶を含んだ声で告げます。
ただの見解なら今すぐにでも言えます。
しかしあのわずか3歳の幼児が、感覚だけで成し遂げた奇跡の製法、そしてこの壺に詰まった無限の可能性を、政治道具や安易な金儲けに利用されるわけにはいかない──研究者としての強いプライドが、ヴィクトールを真っ直ぐに見据えさせました。
立ち上げるという新たな商会が、どれほどの覚悟と安全網を持ってこのバームを取り扱うつもりなのか。
それを詳しく聞き出すまでは、専門家としての切り札を明かすつもりはありませんでした。
────しかし。
(……『温かな闇』、か。実に見事な大悪党(死神)の企みだ。これほど合理的で、かつ誰も傷つかない更生の手だてを私は知らない)
この商会は、単にレオンの奇跡を売るためだけの場ではない。
社会から弾き出され、使い捨てられるはずだった自分たちのような闇の住人を受け入れ、裏社会の技術を正当な生産の力へと変えていき、そして、レオンという小さな光を守るための「絶対的な盾」であり、巨大な揺りかごなのだと、ゼロンは理解しました。
ゼロンは深く息を吐き出すと、ヴィクトールを真っ直ぐに見据え、不敵な笑みを浮かべます。
「なるほど、実に見事な土壌だ。その『温かな闇』がレオン坊っちゃまを守る盾になるというのなら、私も専門家として、この机の上のバームの価値を、喜んで証明して見せましょう」
ゼロンはヴィクトールに向かい、ニンマリと『毒師』らしい凶悪な顔を覗かせました。
……そんなゼロンに対して、ヴィクトールもまた静かな冷笑を称えるのです。
……二日経った今日、レオンの願いが遂に叶います。
普段は使われていない広めの客間は、レオンの「みんなを元気にしたい」という願いから、「おつかれバイバイ特設ルーム」が誕生しました。
中央の受付デスクと調合デスクを挟んで、右側が【男子部屋】、左側が【女子部屋】と分けられています。
そして小さな椅子にちょこんと腰掛けたレオンの前には、油性分にヨモギとドクダミをじっくり溶かし込んだ特製バームの壺がありました。
今日のレオンは使用人のお疲れをバイバイさせるための、お医者さんです。
レオンが受付の長机に座るゼロンに手を振ると、使用人の名前を古布に流麗に書き込みながら、おだやかな微笑みを返してくれました。
「ふむ、君は厨房のジャン君だね。ふくらはぎがパンパンだ。……両足用に【足裏:2枚(黒)】の処方だ。基本の1枚のほかに、持参した古布を1枚出しなさい」
「君は窓拭きのマリー君。肩が固まってるね。そうだな……、【肩:2枚(左右)】と【腰:1枚】の3枚フル処方だ。持参した布を2枚出しなさい」
ゼロンがサラサラと名前と追加のハーブ(カスタマイズ)を書いた古布が、レオンたちの調合デスクに回ってきます。
それを見たレオンはスプーンでバームを2回すくい、すり鉢に入れました。
「ジャン、あしパンパン。 ニコ、黒いの(竹炭)まぜまぜね!」
「了解です。レオン坊っちゃま」
ニコがレオンから貰ったすり鉢に、竹炭を2匙入れて混ぜ、古布に乗せます。
「レオン、お仕事がとっても上手よ」
お隣にいるカトリーヌが、レオンの頭を優しく撫でます。
「つぎ、マリー。 かたカチカチなの。ブルーノ、ミント、2かな?」
「はい、ミントは強いので、2匙でも爽快感は強いですよ」
ブルーノがすり鉢にミントを入れ、レオンは混ぜました。
レオンのデスクの周りには、カスタマイズのハーブがあります。
ミント、ローズマリー、カモミール、ラベンダー、そして野いちごの葉、最後に竹炭。
どれもレオンの菜園産です。
そして穴に詰めて焼いた竹炭もあります。
これらを使って、使用人を『おつかれバイバイ』するのです。
名前が書かれた古布に完成バームを乗せ、レオンが「お願いね!」とトレイを差し出すと、男子部屋用はブルーノが素早く運び、女子部屋用はカトリーヌが「さぁ、どうぞ」と優雅にデリバリーして行きました。
それぞれの部屋では、メイドや男手たちがテキパキとお湯を準備し、足裏予定の使用人たちは、椅子の前で温かいハーブの足湯に、15分間じっくりと浸かります。
ぽかぽかに温まり、吸い込む毛穴が開いたところで、使用人たちは湯から上がり、自分の足裏にペタリと貼りました。
女子部屋ではメイドたちが「マリー、肩に貼るわね」「ありがとう、お返しに腰に貼るわ」と気兼ねなく貼り合いっこをしています。
そしてそのままソファや簡易ベッドへゴロンと横になり、部屋を満たすハーブの心地よい香気も手伝って、今日お休みの使用人たちは、……しばらくすると眠ってしまいました。
(……おやすみなさい)
トコトコ、ポテポテ……♪
しばらくして、お昼寝タイムが終了します。
むくりと起き上がった料理人のジャンが、両足の裏のシートを剥がして声を上げました。
「うおっ!? ドロッドロじゃないか!」
シートの裏は、体内の老廃物を吸い尽くした竹炭で真っ黒になり、一瞬怯える彼らに、ゼロンが静かに声をかけます。
「慌てるな。……受付で私が名前を書いた【照合古布】で、足裏をサッと拭い取りなさい」
使用人たちは恐る恐る自分の名前の書かれた布で、足裏をゴシゴシ拭うと、黒い炭の汚れは綺麗に取れました。
あとに残ったのは、極上の保湿成分と、ヨモギ・ドクダミの薬効成分、そしてお好みで足したハーブの効果です。
「……な、なんだこれ!? 足の裏が赤ちゃんみたいにしっとりツルツルだ! それにまるで足に羽が生えたみたいに軽いぞ……!?」
「私の鉄板だった肩も、信じられないくらい軽い! 腕がグルグルに回せるわ!」
「あんなに痛かった腰の痛みが、消えている!」
廊下に出てきた男女の使用人たちが、お互いのツルツルの足裏や軽くなった体を報告し合い、大歓声を上げて喜んでいます。
痛みの酷かった者たちなど、嬉しさから号泣です。
使用人の顔には生気が戻り、ピカピカの晴れやかな笑顔がたくさんありました。
その様子をゼロンは、手元の紙に猛烈な勢いで羽ペン走らせ、観察結果を記していきます。
(……素晴らしい。ラードの油分をあえて残すことで、ヨモギとドクダミ、そして各種ハーブの薬効が皮膚の奥まで持続的に浸透していく。炭の吸着力でデトックスしつつ、治験者たちの疲労を完全にリセットするとは……。やはりレオン様、あなたは神の申し子だ……!)
じっと手元の「治験データ」をまとめながら、興奮でプルプルと震えるゼロン。
カトリーヌも「本当に素晴らしい効果ね」と満足そうにレオンのふわふわな頭を撫でました。
レオンはトテトテとゼロンに近づき、ズボンをキュッと引っ張って、満面の笑みを向けました。
「ゼロン!……みんな、おつかれバイバイできたねぇ♪」
「はい、レオン様。本日は素晴らしい『おつかれバイバイ』の日でございました。明日もまた……、よろしくお願いしますね」
一人の天才薬師の狂気的な忠誠心と、頼れる仲間たち、そしてお屋敷の使用人たちのあふれんばかりの笑顔に囲まれて――。
「おつかれバイバイ特設ルーム」は、今日からハーブの香りが漂う癒しの空間になり、のほほんと終日まで大盛況を続けるのでした。
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