レオンの「コトコト・ポチャン♪」の調合
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
次の日いつもと違ってとても賑やかです。
なんと、そこにはエドワードだけでなく、見知らぬ二人の「おじさん」───ベネディクトとゼロンまでが同席しています。
身分の高い賓客が急遽加わったからでしょう。
いつもは香ばしいパンにぷるぷるの卵、そして温かい具だくさんスープ、それだけでも美味しいのですが、今朝はそれに加えて、みずみずしい「真竹のサラダ」と、じっくり火を通された「鶏の蒸し焼き」まで並んでいます。
(マルコ、夜のうちに作ったのかな……?)
レオンは不思議そうに、頭を傾げます。
それというのも、昨日のカオスなやり取りが原因でした。
ヴィクトールが口走った「ゴミ燃やし兼調理場」というモノを、実際にやって見せなければ話が進まなくなり、急遽作って実演したのです。
今朝のメニューはその成果であり、エドワードたちはそのご相伴にあずかる事になったという訳でした。
新鮮な竹の子も竹を取るついでに収穫し、朝一番のサラダに並んでいます。
レオンはマルコに感謝して、自分の真竹サラダをフォークで口へと運び、シャクシャク、と小気味よい音をさせ、初夏の恵みを身体中に感じていました。
そんな美味しい食事の席ですが、大人たちの空気はどこか妙な緊張感に包まれています。
隣に座る兄のアルベルトは、昨日の一件(勘違いから壺を強奪した大失態)があるため、借りてきた猫のようでした。
豪華な料理も気まずそうに、視線を彷徨わせてながら食べています。
またヴィクトールも溜息をついて、どこかうわの空なようでした。
エドワードは隣に座るカトリーヌに視線を向けて、申し訳なさそうに微笑みます。
「カトリーヌ、突然押しかけてすまなかったね。朝食までご馳走になって……」
エドワードの言葉に、カトリーヌは微笑みながら首を横に振りました。
「いいえ、お気になさらないで、殿下。また素晴らしいお料理が堪能出来ましたもの」
そう言って、美しい瞳の奥で「本当は何か隠し事でもあるのかしら?」と、父であるヴィクトールやエドワードたちの顔を品定めするように見ています。
レオンが首を傾げながら、もぐもぐと口を動かしていると、上座のヴィクトールが、コホンと一つ咳払いをして口を開きました。
「レオン、紹介しよう。こちらが大司教のベネディクト閣下。そして、こちらは薬師のゼロン殿だ。……お前が作った『バーム』のことで、少しお話があってな」
「あら!レオン、ご挨拶なさい」
カトリーヌが優しく促すと、レオンはサラダをペロリと飲み込み、「う?……ごきげんよぉ、レオンです」と幼児らしくペコリとお辞儀をします。
その愛らしい姿に、ベネディクトは「ああ……エレーナの面影が……」と穏やかな眼差しでみつめます。
ゼロンは優雅に微笑みながら、目に好奇心が宿っていました。
そんな二人の視線を遮るように、アルベルトが「うっ……」と小さく呟き、胃を押さえています。
ヴィクトールはそんな息子をスルーしながら、レオンに本題を切り出しました。
「レオン、後でゼロン殿に、バームを作っているところを見せてくれないか?」
「バーム作るの?……いいよぉ」
レオンがおっとりと返事で頷くと、ゼロンの目は輝きます。
大人たちが自分の「やらかし」に、どれほど振り回されているかなど、幼いレオンは知る由もありません。
ただバームをおじさんに作って見せるんだとのんびり考えて、次のシャクシャクを口へと運んでいました。
予備の厨房では、小さな踏み台に乗ったレオンが、ニコに見守られながら大きな鍋を真剣に覗き込んでいました。
鍋の中では、溶けたタロウ(羊脂)とラードが混ざり合い、無色透明な油の海がボコンボコンと泡を立てています。
「坊っちゃま、火から下ろしましたよ。さぁ、どうぞ♪」
ニコの合図に、レオンは「ん!」と力強く頷きました。
調理台の上には、カラカラに乾いたヨモギとドクダミの葉がたっぷり入った粗い麻布の袋が用意されています。
レオンは袋の上に小さな両手を置いて、上からもみもみと全身を使い、力いっぱい揉みほぐしました。
袋の中で、カサカサ、パキパキと小気味よい音がしています。
「おつかれ、ばいばーい……!」
しっかり揉みほぐした麻の袋を、最後にニコが揉みほぐして、用心のため一緒にお鍋の油の中へ「ポチャン」と入れました。
熱い油に浸かった瞬間、麻の網目からヨモギとドクダミの濃い緑色の薬効成分が、ジュワァァァ……と美しく波紋のように広がっていきます。
同時に懐かしく、馴染みのある深い薬草の香りが厨房を包みます。
「わぁぁ! みどり色、しゅわしゅわーって!」
「大成功ですね、レオン坊っちゃま! 袋に入れたおかげで、油も跳ねなく、葉っぱのカスもない綺麗なバームができますよ」
ニコに褒められて、レオンは踏み台の上で「えっへん!」と小さな胸を張りました。
「10日、寝んね。お薬さん、がんばれーなの」
レオンはお鍋の中身にエールを送りました。
水分を一切含まない油のベースは、10日間の熟成期間の間にゆっくりと固まりながら、ハーブの力を限界まで吸い上げて、極上のとろけるバームへと進化していくのです。
「ニコ、みんなにペタンするの、楽しみ♪」
「はい、きっとみんなは、腰も肩も軽くなって、飛び跳ねて喜びますよ」
未来の特盛大盛況を約束された特製バームのお鍋を見つめながら、レオンは満足そうに「エッヘン♪」と胸を張るのでした。
予備の厨房の片隅で、ゼロンは静かに佇みながら、羽ペンでササッと手元の紙に何かを書き記していました。
ふと考え込むように手を止めると、再びその工程をじ───と見つめ始めます。
その鋭くもどこか求道者のような目付きは、職人そのものでした。
ひと通りの作業が一段落したところで、ニコが穏やかな微笑みを浮かべて尋ねます。
「いかがでしょうか?」
すると、それまで険しい顔で凝視していたゼロンが、フッとニッコリと優しく笑いました。
そして、小さな創造主であるレオンに向かって、そっと右手を差し出し、握手を求めてきたのです。
レオンはキョトンとして、ゼロンの顔を見て、差し出された手を見て、また顔を見て……それから、そっと自分の小さな手を出しました。
ゼロンの大きな手のひらに包まれたその手は、あまりにも小さく、温かく、そして可愛らしくて──ゼロンは胸がいっぱいになり、思わず目頭が熱くなって泣きそうになりました。
「とても素晴らしい。あの麻布をそのまま入れるなど、良くぞ思いつかれた……!」
ゼロンは、まるで宝物でも見つけたかのように、とても嬉しそうで晴れやかな顔をしてレオンを称賛します。研究者として、これほど無駄がなく美しい抽出法に出会えたことが、心の底から嬉しかったのです。
「……ところで、あの、不気味なものは……?」
感動の握手を交わした後、ゼロンがふと表情を戻し、厨房の隅を指差しました。
その指の先にあるのは、別枠で置いてある、あの地下牢で大騒動を巻き起こした例の「黒ベト(デトックス液)」です。
指を差されたニコとレオンは、一瞬だけ顔を見合わせました。
そしてレオンが「それ、しっぱいなの」と教えると、ニコが苦笑しながら言葉を添えて説明します。
「はい。吸着力が強すぎて肌を痛めてしまうので失敗作なのですが、捨てるのも勿体ないですから、今は壺の蓋をする『密封ノリ』として使っているのですよ」
それを聞いた瞬間、ゼロンは限界まで目を丸くしました。
あの世の終わりのような絶叫を響かせ、体内の老廃物を根こそぎ引きずり出す恐怖の暗殺兵器(勘違い)が、まさかの「ただの強力な接着剤」として再利用されている──。
あまりのスケールのズレと贅沢すぎる使い道に、ゼロンは一拍置いてから、お腹を抱えて「はははは! 素晴らしい!」と大笑いしました。
その後、実演としてあらかじめ作った冷めたバームを丁寧に壺へと小分けにしていきます。
仕上げに、例の黒ベトをノリ代わりに使い、古布でとめ蓋をがっちりと密封し、10日間の熟成のために土の中へ寝かせる手順までをしっかりと確認しました。
「ではこちらの完成品は、私が責任を持って持ち帰らせていただきますね」
ゼロンは「完成品の壺」を愛おしそうに抱え、大満足の笑みを浮かべ、予備の厨房を後にしました。
その背中に向かって、レオンはのほほんとした様子で小さな手をパタパタと振ります。
「バイバーイ、おいちゃーん!」
まだ二十八歳のゼロンは、そのおいちゃん呼びに、微かによろけました。
そんな彼の様子など気にする風もなく、レオンは「えへへ」とニコを見上げて無邪気に笑うのでした。
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