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小さな賢者は隠しごと 〜三歳のレオンは、のほほんと照らす〜  作者: マシュマロ羊


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光に寄り添う闇

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。

お待たせいたしました。

ひとときのほほんとよろしくお願いします。

のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)

 







「……早いな。契約で繋がった者たちはわかるが、そうではない者たちも意外に多い」


 長い時間と労力がかかる。

 そう覚悟していたエドワードは、完全に肩透かしをくらっていました。

 気づけば商会の基盤は完成し、事態は信じられない速さで進展しています。

 驚くべきは、ここにいる裏の住人たちの優秀さです。実務能力も、立ち回りも、常軌を逸していました。

 ――実際、彼らは裏社会でも頂点に近い、本物の実力者ばかりだったのです。


 ここ数日、ブルーノが行っているのは対話による勧誘でした。

 怒鳴ることも、脅すことも、それどころか暴行に及ぶことすらなく、彼はただ言葉を交わしているだけです。


(コイツ、悪魔か……?)


 ブルーノは悪人たちの耳元で何かを囁いては、彼らの欲望を焚き付け、望み通りの計画を最短ルートで実行に移していきます。

 その手際は、まさに魂を買い取る悪魔そのもの……。


 だからこそ、その原動力が単なる「レオン不足」によるものだと知るエドワードは、頭を抱えてしまいます。

 そこには大義も、野心も、悪意すらありません。

 ただ『小さな主君』に早く会いたいがための暴走です。

 あまりにも、あまりにも身勝手で情けない行動原理に、エドワードは強烈な頭痛に襲われるのでした。




 利害や契約で繋がっていた者たちは、金払いの良さや面白さに釣られてあっさりと流され、気づけば商会でブルーノの忠実な腰巾着に成り下がります。


「ワッハッハー! こんな楽しい計画、乗るしかねぇよ。むしろ乗らせて下さいと拝み倒すぜ!」


 彼らは今や、商会キャラバン隊の立ち上げを最前線で支える存在となっています。


 一方で、世に恨みを抱き、引け目を感じている者たちもいました。

 しかし、最初は「考えさせてくれ」と渋っていた者ほど、胸に熱い決意を秘めて侯爵領へと旅立っていくのです。

 旅の途中で逃走するのでは、というエドワードの予想は見事に外れ、皆、きちんと領地へ辿り着き、工房の手伝いや修練に励んでいます。




 ブルーノの行っている事は、いつか国を背負う自分にとって、知っておくべき知識ではないのか――エドワードはそう思いました。

 だからこそブルーノにもう一度、計画の終着点を聞いたのです。

 今日は隣にベネディクトがいます。

 腕を組み佇む姿は、多忙を極める身でありながら、この計画の行き着く先が気になるのでしょう。


 地下牢の暗がりの中でブルーノが語る計画は、単なる組織論を超えて、一つの「救済」の形を帯び始めていました。


「……捕らえた者の中には、天涯孤独な者ばかりではなく、田舎の家族を養うために泥を啜り、悪に手を染めた挙句、使い捨てられた者もおります」


 ブルーノはそこで言葉を切り、鉄格子の隙間から差し込む僅かな光を見つめました。


「彼らを抑制し、繋ぎ止めるのは恐怖ではなく『郷愁』です。国内の地理に明るい者は行商として、国外から流れてきた者はその土地勘を活かしキャラバンを組ませる。故郷へ帰りやすい背景を作り、それに伴い仕送りを届けやすい仕組みを作る。それだけで彼らは、二度と裏切らぬ忠実な盾になるでしょう」


 ベネディクトはその言葉の裏にある、深い洞察に小さく息を呑み目を見張りました。

 一度深い闇を見た者ほど、差し伸べられたわずかな光がどれほど尊いかを知っているからです。

 ただ闇の中に漂うよりも、光に寄り添う闇として生きる道……。


「孤児院出身の者たちは、その孤児院を仮拠点とし、周辺にある特区の孤児院に石鹸の製造指導をします。しかも配合技術は彼らにしか扱えぬものです。かつて自分が守られた場所を、技術の指導員、兼守護者として今度は自分の手で守る。彼らにはその資格と力があります」


 ブルーノの瞳が少しだけ熱を帯びました。


「孤児院の先生方は、教え子が立派な職に就いたと喜び、子供たちは背中を見せてくれる『兄貴分』に憧れ、目標にするでしょう。……元が悪人だろうと、純粋な子供たちの視線に晒されれば、無様な真似はできません。彼らは背中で語る大人にならざるを得ないのです」


 ブルーノはそう言うと、ふっと口元を不敵に歪めました。

 エドワードは腕を組み、その光景を想像します。

 かつての暗殺者たちが、子供たちの前で「真っ当な職人」として振る舞い、影では絶対的な守護者として君臨する姿を……。


「……輝きが強まれば、その分だけ影は濃くなる。だがそれは冷たい虚無の闇ではない」


 エドワードの言葉に、ブルーノは静かに頷きました。


「ええ……、子供たちの笑顔や故郷の安寧を守るための、温かな闇です。それこそが盾となる商会()を、守り続ける土壌となることでしょう」


 ブルーノ(死神)が語るあまりにも優しく、そして合理的な報復と更生の形……。


「……まったく、恐ろしい男だ」


 エドワードの言葉は最大級の賛辞として、冷たい石壁の間に溶けていきました。


「……まぁ、全員が『郷愁』や子供の笑顔で改心するほど、おめでたい奴らばかりではありませんが……」


 ブルーノがそこで言葉を切り、唇の端を吊り上げました。

 その瞬間、……地下牢の空気が凍りつく。

 穏やかな仮面が剥がれ落ち、かつて裏社会にその名を轟かせた「死神」の、冷酷で研ぎ澄まされた気質が顔を覗かせます。


「更生の余地がない不純物は、別の方法があります。一生……、光の当たらない場所で、商会のために実験台にでもなっていただく。……それだけのことです」


 ゾッとするほど静かな声……。

 その純粋すぎるまでの合理性と、光を守るためならどんな深淵にも手を染める危うさ……。


「……つまり、お前みたいなヤツか?」


 エドワードは、耐えきれず口を滑らせます。

 するとベネディクトから、するどく冷たい眼差しが向けられていました。


(死神を煽るような真似をするな!)


 言葉にならぬ叱責が、視線だけでエドワードを刺し貫きます。


「……いや、すまん。忘れてくれ」


 エドワードは気まずそうに、そそくさと目を逸らしました。

 ブルーノはといえば、その追求を否定することも肯定することなく、ただニヤリと嗤うだけです。


「私がどのような存在であれ、レオン様が笑い健やかに過ごせるならば……私は喜んで最も汚い部分を引き受けましょう」


 この男は引退してなお『守るべき主』を得て、技術と胆力がさらに研ぎ澄まされている。

 その迷いのない言葉に、エドワードは改めて思い知ります。


「さぁ、大司教、エドワード様。……ここから先は、あまり品の良い景色ではありませんよ」


 ゆったりとブルーノが音もなく一歩踏み出すと、繋がれた暗殺者たちが、反抗的に睨みつけます。

 ベネディクトとエドワードは、無意識に唾を呑み込みました。

 あたりは重苦しい沈黙が落ちていきます。









 ─────ドッゴォォォンッ!!


 重厚な地下牢の鉄扉が、凄まじい勢いで開放されました。


「ブルーノーーー!!」


 静寂と緊張が支配された空間に、アルベルトの声がダイレクトに突き刺さり、先ほどまでの切迫した反動で、エドワードとベネディクトは肩を跳ねさせ、怒りの怒声を上げました。


「うるさいぞ!アルベルト! ここをどこだと思っておる!!」


「アルベルト!声がデカいんだよ!心臓が止まるかと思ったわ!」


 突然の乱入者に、捕らえられていた犯罪者たちも固まり、「増援か!?」「……うるせぇぞ!」と、戸惑いと怒りが入り混じったざわめきが広がります。

 しかしブルーノだけは違いました。

「死神」の目がアルベルトを捉えるやいなや、弾かれたように詰め寄ります。

 顔は先ほどの余裕ある嗤いから、焦燥と不安へと染まっていきました。


「……アルベルト様。レオン様に何か?」


 アルベルトは膝に手をつき、荒い息を整えてから、顔を上げました。


「やらかした! レオンが()()やらかしたんだ!!」


 その言葉が地下牢に響き渡った瞬間、エドワードの顔からスッと血の気が引きました。

「様子を見なくて大丈夫か?」「父親や大人がいるから大丈夫だろう」と、無理やり納得させていた安寧が、砂の城のように崩れ去ります。


「ヴィクトールは何をしていた! 周りの大人たちは飾りか!?」


 エドワードの怒声が響く中、ベネディクトの頭を支配していたのは別の考えでした。


(……『やらかし』は、遺伝するのでしょうか?)


 かつてエレーナの尻拭いに奔走した日々が蘇り、ベネディクトは愕然とします。

 いっそこの場から逃げ出そうか……。

 大司教の仮面を捨てて真剣に悩む彼に、焦りきった一同は誰も気づきません。


 アルベルトは顔を上げ、涙目になりながら首を振ります。


「無理だ! 誰にも止められねぇ! 今度は――規模が違うぞ」


 ブルーノの瞳の奥で、何かがパチンと弾ける音がしました。

 商会の計画や犯罪者たちは、この瞬間から背景へと変わります。


「……レオン様!やはり、私がお側にいなかったばかりに……ッ!」


 ブルーノは振り返ることもなく、地下牢の出口に向かって駆け出しました。

 残されたエドワードとアルベルトは、その背中を呆然と見送ります。


「……殿下。申し訳ありません。今さらブルーノが行っても、起こった出来事は変えられません」


「ああ……。嫌な予感はしてたんだ。当たって欲しくなかったが……」

 

 自分たちを恐怖のどん底に叩き落とした「死神」が、狼狽しきって持ち場を放棄し離れていく。

 その異様な光景に、地下牢の犯罪者たちは困惑と、そして得体の知れない期待を込めて見つめていました。

 自分たちの想像を遥かに超える「深淵」が、……この地のどこかで口を開けている。

 彼らは本能でそれを悟り、ニヤリと唇を歪めました。





読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

たくさんのブクマやポイント嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

とても励みになり、がんばろうと思いです。

メールもとても嬉しくネタになることも♪

誤字脱字報告ありがとうございます。(о´∀`о)

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