クサいさん撲滅大作戦!
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
あれから数日、相変わらずブルーノは忙しそうです。
レオンが「ウンショ、ウンショ」と、ジョウロから溢れた水で服をびしょ濡れにしながら菜園へ歩いていると、兄のアルベルトが駆け寄ってきました。
「レオン、びちょ濡れじゃないか! ニコはどうしたんだ?」
「おしごと。ボク、お水やるの」
ニコを待てずに水やりを始めた弟に、アルベルトは溜息をつきながらも、濡れた体へ優しく自分の上着をかけてやりました。
「兄ちゃんが持ってやる。一緒に行こう」
しかし、上着に顔をうずめたレオンは、ふと服の匂いが気になります。
「……にぃさま、……ちょっと、クサい」
幼子は時に残酷なほど正直です。爽やかな兄を自負していたアルベルトは、最愛の弟からの一撃に石像のように固まりました。
「えっ……? ク、クサい……!?」
思わず袖をクンクンと嗅ぎますが、自分ではよく分かりません。
「あ、あれだ! 最近、騎士団の訓練が厳しくて……その、汗をたくさんかいただけなんだぞ!?」
アルベルトは冷や汗をかきながら、必死に弁明します。実は最近の騎士団は、ブルーノの驚異的な肉体改造に触発された団長が、「負けてられん!」と例年以上に張り切っていたのです。
レオンは小さな鼻をひくつかせ、もう一度上着の襟を嗅ぎました。
(おしごとのにおい……。でも、にぃちゃにはピカピカがいいなぁ)
レオンは兄にジョウロを持ってもらい、並んで菜園へポテポテと歩きました。
次の日……。
「うぎゃぁぁぁあ、やめろ!」
トコトコトテトテ……。
「まてまてなの! クサいさん、バイバイよっ!」
豪華な屋敷の廊下に、幼いレオンの元気な声と、トコトコと絨毯を叩く足音が響き渡ります。
レオンの手には、「ミントアルコール」のボトルが握られていました。
「ひっ! 来るな、レオン! それを向けて……シュッとするなと言っているだろう!?」
アルベルトは端正な顔を恐怖に歪ませ、長い足を必死に動かして逃げ惑います。
しかし背後からは無慈悲な「シュッ! シュッ!」という霧の音が迫り、鼻腔を突き抜ける強烈なミントの香りが、彼の精神を容赦なく削っていきます。
大広間に逃げ込んだアルベルトは、巨大な円卓を盾にしようと身を翻しました。
「まてまてーっ!」
レオンは短い手足を精一杯動かし、トテトテ、ポコポコと、一生懸命追いかけます。
「レオン、落ち着け! 兄ちゃんは臭くない! クサいさんはいないんだ!」
「ううん、シュッてするの! にいちゃは、スースー、ピカピカになるの!」
逃げるアルベルト、追うレオン。
シュッ! とひと吹きされるたびに、アルベルトは「うああああっ!」と情けない声を上げます。
「やめろ、頼むから……っ! その清涼感はキツいんだ……!」
ついに廊下の隅に追い詰められたアルベルトは、壁に背を預けています。
目の前には満面の笑みでボトルを構える天使のような弟の姿がありました。
「捕まえたなの! ……クサいさんバイバイ!」
アルベルトの絶叫が、屋敷中に虚しく響き渡ります。
「それで……今回の騒動の原因はなんだ?」
ヴィクトールが眉間に深いシワを刻み、溜息まじりに問いかけます。
視線の先には、猛烈なミントの香りに包まれたアルベルトと、満足げなレオンの姿がありました。
「恐れながら旦那様。アルベルト様が少々……その、汗臭かったのが原因だそうです。レオン様が『シュッ』と、ミントアルコールを吹きかけられました」
「汗臭い……? アルベルトが?」
ヴィクトールは思わず、我が身の匂いも気になり脇に目をやります。
そんな主人の様子を、セバスは生暖かい目で見守っていました。
「クサいさん」と呼ばれたアルベルトからは不快な臭いは消え去り、代わりに突き抜けるような爽やかなミントの香りが漂っています。
「旦那様、そんな事より朗報にございます。追いかけっこのおかげで、窓ガラスや鏡、燭台の曇りがピカピカになり、掃除の手間が省けました。とても素晴らしい事です。」
セバスが光り輝く窓を指差して太鼓判を押すと、レオンはムンと胸を張りました。
「にいちゃ、ピカピカ! まどもピカピカ!」
一方、文字通りピカピカに『除菌』されたアルベルトは、魂が抜けた顔で天井を仰いでいます。
「……なるほど、レオンは偉いな」
ヴィクトールは引き攣りながら労うと、レオンは「ボク、エラい子よ!」と満面の笑みを浮かべました。
「鼻と目が痛い……。スースーしすぎて、頭まで凍りそうだ……」
床に突っ伏したまま、アルベルトが涙目で呻きます。さすがに哀れに思ったヴィクトールが声をかけると、ボトルを握りしめたレオンが得意げに言いました。
「にいちゃ、クサいさんいっぱい。 だから強めなの」
どうやらクサいさん撲滅のため、濃い目で噴射したようです。セバスが持つ銀のトレイには、ヴィクトールの困惑顔が鮮明に映り込んでいました。
意識が朦朧とするアルベルトは、「レオン、……せめて、もう少し……薄めて、くれ……」と遺言のように呟くのが精一杯です。
するとセバスはふと思いついたように、レオンに問います。
『水垢』の落とし方や、布シミなど……。
ヴィクトールは止めますが、セバスは止まりません。その間にアルベルトは父を置いて、逃げ出しました。
トテトテ、トコトコ……♪
そしてレオンはカトリーヌを探しに行きます。
ヴィクトールはいつになれば、頭痛の種がなくなるのかと悩みます。
つまりレオンだけが『やらかす』のではなく、周りも『やらかし』て、『誘発装置』のようになり、気づけば大フィーバーを起こしている……。
ヴィクトールがそんな風に考え込んでいると……。
「シュッ……!」
レオンはカトリーヌを伴っていつの間にか戻ってきており、目の前の窓へ容赦なくお姉様の『劇物』を吹きつけていました。
白ワサビ酢を吹きかけた瞬間、頑固な水垢がシュワシュワと気泡を立てて分解されていきます。セバスが手際よく拭き上げれば――。
「……パーフェクトでございます! 曇り一つございません」
「まぁ……!? まるでガラスが消えたみたい」
カトリーヌは驚きで目を丸くしました。
自分が作った「劇物(目潰しの毒)」に、まさかこれほどの清掃能力があったとは……。
仕上げにレオンがミントアルコールを「シュッ!」と吹きかければ、ツンとした刺激臭は消え去り、陽光に輝くピカピカの窓と爽やかな香りだけが残りました。
「ねーさまスゴい! ビカビカのシュッシュなの!」
レオンが満面の笑顔で抱きつくと、カトリーヌは上機嫌に胸を張ります。
「オーッホッホッホ! 私にかかれば、水垢なんて敵ではありませんわ!」
「フム。毒物と思っていたが、これほど実用性があるとは……商会立ち上げに使えそうだな」
磨き上げられた窓からの景色を遠い目で眺めたヴィクトールは、諦めたように呟き、逆にセバスは大変満足そうに頷きました。
「左様でございますね。レオン様が以前作られた、あの『罠』の洗浄液を足せば完璧かと」
二人の視線の先では、レオンとカトリーヌがじゅうたんの染みに白ワサビ酢をつけ、「トントン♪」と楽しそうに染み抜きをしていました。
そして水で濡らし固く絞ったタオルで、トントンします。
絨毯を剥がさずに染みが落ちる光景に、ヴィクトールは「ほぉ、これはいい!」と目を見張ります。
「レオン、あの罠を清掃用品として使ってもいいかな?」
ヴィクトールが尋ねると、レオンはキョトンと首を傾げました。見かねたカトリーヌが助け船を出します。
「レオン、お父様は『ベタベタ』や『スベスベ』をお掃除道具にしたいそうよ」
すると、レオンは首をフルフルと横に振りました。
「……あれワナ。おそうじ、ちがう」
「しかし、みんな汚れが落ちると喜んでいたぞ?」
ヴィクトールが膝をついて目線を合わせると、レオンはきっぱりと言いました。
「ベタベタあぶない。やりなおし!」
その言葉に、ヴィクトールとセバスは思わず顔を見合わせます。
「なるほど……汚れを落とすだけでなく、その後の安全性や使い心地まで追求するとは」
感心して腕を組むヴィクトールの横で、セバスは「……さすがレオン様です」と感動に身を震わせました。
一方、カトリーヌは不思議そうに「ベタベタ?」と首を捻ります。
さっき歩いた廊下は、驚くほどピカピカに綺麗なのに、レオンは違うらしい……。
絨毯が乾燥した事を確認したレオンは、ミントアルコールをシュッとして、トントンしました。
たぶんこれで、匂いも油汚れも大丈夫です。
レオンはそれより、近くで見た父の顔で気になりました。
(とうさま、……おめ目クマさんなの……)
その夜……。
トコトコ……トッ、ト……。
執務の疲れから、寝室で泥のように眠るヴィクトールの足もとに、小さな影が忍び寄ります。
「とうさま、おつかれさま、ペッタン……」
キョロキョロしながらレオンは、自分の肌で「痛い」と証明済みの特製シートを、容赦なくヴィクトールに「ペタッ」と貼りました。
「うん、おつかれバイバイ♪」
やり切ったレオンは、ニッコリと笑います。
ヴィクトールは連日の疲れから、ぐっすりと眠って気づきません。
「あふっ……」
レオンはアクビをして、イソイソとヴィクトールの布団へ潜り込みました。
ポカポカに暖められた布団の中は、幸せがいっぱいなのです。
次の日の朝……。
「な、なんだぁ!これはぁ────?!(泣)」
ヴィクトールの爽やかな?雄叫びが、寝室に響き渡りました。
そんな騒ぎなど何処吹く風で、幸せそうにスヤスヤとレオンは眠っています。
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