ベネディクトは戦慄する。死神犬の懐き
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
地下牢の湿った静寂の中で、エドワードはふと思い出したように問いかけました。
「そういえばブルーノ。レオンの様子はどうだ? 」
その問いに、ブルーノは少しだけ視線を泳がせ、困ったような笑みを浮かべました。
「それが……最近は準備や調整に手を取られ、屋敷に帰っていないのです」
それを聞いたエドワードは、愕然とします。
あの『やらかし』レオンを、気がつけば騒動の種を仕込んでいる『無自覚』レオンを、コイツは現在放置しているらしい。
エドワードからジーッと見られ、ブルーノも改めて考え込みました。
ブルーノとて心配ではありますが、周りにたくさんの目があるのです。しかし……
((……嫌な予感しかしない))
エドワードとブルーノの脳裏に、同じ言葉が浮かびました。
「大丈夫だ。ヴィクトールがいるし、周りも優秀な大人たちが、それこそ数えきれないほど、レオンの周りにいるだろう?」
エドワードが納得するように言い、ブルーノに同意を求めます。しかし……。
ブルーノの目が、泳いでいました。
あのブルーノが……、エドワードを見て笑ったのです。エドワードは恐怖しました。
そんなエドワードを放置して、ブルーノは考えました。ヴィクトールはむしろレオンの行動に振り回される筆頭ではないだろうか?
周りの大人たちとて、レオンの可愛らしさに毒気を抜かれ、結局は「やらかし」を笑顔で見逃す集団に成り下がってはいないか……?
考えれば考えるほど、二人の表情は深刻なものへと変わります。
そんな二人に、大司教ベネディクトが訪ねてきました。
「……お二方いかがなされた?まるで天災が降ってくるような顔をして?」
二人して顔を引き攣らせ、互いに目で何やら訴えているようです。
「フム……。二人して何をそんなに考え込むのかわらかぬが……」
ベネディクトが、目を細め楽しげに笑いました。
二人の胃は現在キリキリと締め上げられ、レオンが『やらかし』てないか心配です。
「いや、……実は、あの、な……、そう、ブルーノの『レオン不足』症状だ。こいつ……、最近はこの件で付きっきりだろう」
無理やり話を取り繕い誤魔化したつもりが、当の本人がぬけぬけと真面目な顔で呟いたのです。
「……ここ数日、お側にお仕えできておりません。レオン様は……、私がいなくて、寂しがっておられないだろうか……」
一切の冗談を含まない響きが、地下牢の澱んだ空気に伝いました。
かつて返り血を浴びても眉ひとつ動かさず、敵対者を冷酷に淡々と、処理し続けた「死神」の面影などありません。
ベネディクトはかつてブルーノの切れるような殺気を思い出しながら、目の前の男の言動に激しい眩暈を覚えました。
ベネディクトの困惑を余所に、エドワードはブルーノへ隠しきれない軽蔑と呆れ、そして「お前、本当に自分の言葉がどう聞こえてるか分かってるのか?」という冷ややかな視線です。
ブルーノがレオンしか懐いておらず、それ以外の人間――たとえそれが旧知のヴィクトールやベネディクトであっても――、「レオンを守るための盾か、あるいは背景」としか認識していないような男です。
「誤魔化したつもりが、真実だった……」
エドワードは自分が吐いた「レオン不足」という言葉が、今のブルーノに嵌っています。
かえって彼の「ワンコな気質」を浮き彫りにしてしまいました。シラケきった眼差しを向けますが、当の本人はどこ吹く風です。
「寂しいのはお前だろう。レオンは今頃のほほんと楽しそうに、お前のいない菜園を満喫している」
エドワードの容赦ないツッコミに、ブルーノは一瞬、本当に一瞬だけ、捨てられた仔犬のような表情を浮かべます。
その様子をベネディクトは戦慄しました。
かつての死神をここまで骨抜きに、いや、ある意味、質の悪い方へと塗り替えてないか?
「……エドワード。その、レオンというのはエレーナの……?」
ベネディクトの疑問に、エドワードは力なく頷きます。
「エレーナがブルーノを守護者として、レオンをコイツに託したおかげで、この『 死神』は現在子育て中だ。いつも何かしらやらかすんだな」
ブルーノは二人の視線を無視して、捕虜たちの処遇へと意識を戻しました。
「さて、……レオン様が寂しがる前に、この闇の者たちを教育し、商会へ送り出す準備を済ませてしまいましょう」
殺気すら感じさせる爽やかな笑顔で、ブルーノは袖をまくり上げます。
その背中を見ながら、エドワードは確信しました。
レオンが「やらかす」以上に、それを守護し、甘やかし、暴走させるこの大人たちこそが、本当の意味での「爆心地」なのだと……。
その頃……。
飼い主のレオンは木箱の上に立ち、真剣な面持ちで小さな手鍋を覗き込んでいました。
「ひとつ、ひとつ、ひとつ……。よし、これでいいはず」
目の前の器には材料がありました。
レオンはニコに手伝って貰いながら、小さな木べらを使って、小鍋でそれらを混ぜ合わせます。
(……あ、これ、ちょっと柔らかすぎるかな?)
指先に少しつけて冷ましてみると、それは「ペタッ」というよりは「しっとり」とした高級な軟膏のような質感でした。
「いれて……、火バイバイ、して……まぜまぜして……完成!……ニコ」
「テストですね、レオン坊ちゃま」
リネンの布の端切れに薄く塗り広げます。
「ぺたっ、て。これでいいはず」
レオンは満足げに手のひらを見つめました。
指先が少しヌルヌルしますが、それも研究の証です。
「なんか変な感じがします。レオン坊ちゃま」
「効いてる?」
「……まだわかりませんが、垂れますね」
「やっぱり……、しっぱい……」
遠目では、レオンとニコがのんびり座って、おしゃべりして過ごしているように見えます。
「ウフフ、可愛い」
「そうね。相談かしら?」
通りかかる使用人たちは、この二人が怪しい研究をしている事に気づかず、平和な時間が流れていました。
のんびりと様子見をしていると、レオンは空を眺めています。
「……じゃがいも」
「……丸々だったみたいですね。少し掘り出しますか?」
ニコがボーッと空を眺めているレオンに言うと、「もうすぐ、ツユなりそう」と言い首を振ります。
せっかくのじゃがいもが、病気になりダメになるからです。
「「……そういえば!」」
二人が同時に言葉が出し、顔を見合せます。
ぼうとしてたら、閃きがありました。
「……レオン坊ちゃま、休憩最高ですね」
「うん。お休み必要。問題かいけつ?」
とりあえず、やってみないとわかりません。
ニコとのんびりお野菜も見回すと、あんなにとったはずのミントが、わんさかと茂っていました。
「……レオン坊ちゃま、ミント増えましたね」
「とってもげんきよ。……ミント不死身くん」
「……坊ちゃま、難しい言葉を、本当にどこで覚えて来るんですか?不死身って……」
ニコは困惑してレオンに聞くと、頬に人差し指を当て「う~ん?」と考えています。
「……アタマに、ポンッて出てくるの」
「……?頭にポンですか?」
「そう、……ボク、スゴい子だから」
なんの気負いもないレオンの坦々とした様子に、ニコは思いました。
(……これが本当の天才なのかと)
世の中には常識が通じないことがあるものです。
レオンのボク、スゴい子発言は、配慮された言葉だったようです。
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