のほほんびより
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
目の前には緑という一色だけで、これほどまでに豊かな階調を描き出せるのかと驚くほど、鮮やかな新緑に染まっていました。
どこまでも透き通った青空から、若々しい光が降り注ぎ、風はバラの甘さと、湿り気を含んだ土の匂いをのせて、心地よくレオンの頬をなでていきます。
(今日もいい天気、……心地いいの)
レオンは六畳の菜園の真ん中で、のほほんとしていると、彼の脳裏に不思議なコトバが浮かびます。
『どんなに豊かな土壌でも、時に休ませなければ痩せてしまう。人もまた同じ。何もしない時間は、心の肥料』
(……リフレッシュ。なにもしないのを、する、ひ)
「レオン坊ちゃま、昨日言われたお休みは、休憩と違いますよね?」
ニコはなんとなく違いを感じましたが、なにが違うのかよくわかず、……モヤモヤしていました。
「……うん、お休み。じふんだけの時間」
「……自分だけの、時間」
ニコは今、……とても不思議なコトバを聞きました。
「ニコ、お休みほしい?」
レオンはポツリと聞きます。
呆然としていたニコは、目をパチリと瞬きました。
「……お休みがほしいかと言われても、分かりません。ただ……なんとなく素敵な時間のようですね」
レオンはウンと頷きます。
「……つまり休憩が長ければ、疲れはとれる。……レオン坊ちゃま、そう考えてるんですね」
レオンはウンウンと頷き、「いたいいたい、ナイナイ、するはず」と頬に指を当て首をコテッと傾げました。
今のお疲れにジワジワでは、遅すぎます。
即効性が必要なのです!
「レオン坊ちゃま!晩御飯が美味しいから、疲れが取れたようですよ」
ニコが楽しそうな笑顔で、使用人たちみんなが真竹の美味さに驚き、今朝もわざわざ早起きをして、取りに行くついでに晩御飯を仕込んだ話をしました。
「みんな、元気……」
レオンは少し顔を引きつらせます。
真竹に疲労回復効果はあったけど、疲れ取りが疲れ増やしになっているようです。
即効性は、みんなの食欲に効きました。
地下牢の重く湿った空気の中、かつて「死神」と呼ばれた男の話が飲み込めません。
鉄格子の向こう側には、使い捨てにされた襲撃者や密偵たちがいます。
エドワードは眉間に深い皺を刻み、ブルーノを睨みつけました
「ブルーノ、お前の言う『日常』とやらを、コイツらが欲しいと思うか!」
使用人と語らい、仕事をする。
現在のブルーノは確かに、『日常』生活をしています。
「……大司教、御足労おかけ致します」
「あぁ、気にするでない。ヴィクトールから、話は聞いているよ。……いろいろとな」
ベネディクトは何とも言えない顔をして、ブルーノを興味深げに見つめていました。
「殿下からも、私の『日常』をお聞きになりましたか?」
彼が知るブルーノは感情を排して、影を歩む冷酷な隠密そのものでした。
それが今では幼い主君の成長を、使用人と共に、庭先で見守る穏やかな日々を送っているのです。
「……そうだな。あのブルーノが、主を『守る』だけでなく、屋敷の使用人たちと笑い合っているの事とか……信じられん」
ベネディクトの呟きに、ブルーノは否定をせず、口角を上げました。
かつて「死神」と言われた殺戮者が選んだのは、大切な主を守るという穏やかな日常です。
「ニコ、今日はのほほんよ」
レオンが短い足を投げ出して、草の上にどっかと座り込みました。隣ではニコが、同じように並んで腰を下ろします。
「わかりました。今日はのほほんします」
ニコは深く頷き、吸い込まれそうなほど高い大空を見上げました。
考えてみれば、いつ以来のことでしょう。
目の前の仕事や、レオンのやらかしへの警戒、大人たちの顔色を伺うこともなく……ただ何も考えず、お日様に背中を焼かれてポカポカと日向ぼっこをする。
そんな贅沢な時間は、ずいぶん昔の忘れ物のようです。
「……気持ちがいいですね、レオン坊っちゃま」
「うん、のほほんびより」
少し開いた口からこぼれるレオンの言葉に、ニコはふっと目元を緩めました。
「……レオン坊っちゃま。難しい言葉、よく知っていますね」
ニコが感心したように呟くと、レオンはどこか誇らしげに、けれど力みのない声で返しました。
「うん、ボクスゴい子よ」
その言い方は、自慢げというよりは、あまりにも「のほほん」としていて、ニコは思わず「ふふっ」と小さく吹き出してしまいました。
空を流れる雲はゆっくりで、風は花の香りを運んできます。
「のほほん……のほほん……」
ニコも唱えるように繰り返してみました。
さっきまで重たかった心と体が、レオンの言葉の魔法にかかったように、ふわりと軽くなっていきます。
今の二人にとって、この「のほほん」は、次なる大仕事――みんなを救うための、神聖な儀式でもあったのです。
「……レオン坊っちゃま、そろそろですか?」
「んー……。あと、雲が一個流れたら」
二人は再び、抜けるような青空に目を向けて、レオンが指した雲がゆっくり過ぎるのを、二人はのんびりと眺めていました。
トコトコトテトテ……。
廊下を並んで歩いていると、ヴィクトールがふと足を止め、レオンを見下ろして少し言いにくそうに切り出しました。
「レオン、以前ブルーノにあげたアツアツ液を、また作ることはできるかい?」
父親の問いに、レオンは一瞬だけ瞳を輝かせましたが、すぐに小さな頭を左右にフルフルと振りました。
マルコに旅人の唐辛子さんを、使ってはダメと言われたからです。
「……そっか。レオン、すまないな……」
ヴィクトールは寂しそうに微笑むと、少し肩を落としました。
どこかしょんぼりとしたその姿を見て、レオンの胸がチクッと痛みます。
レオンは思いました。
(みんないたいけど……いちばんお疲れさまは、毎日がんばってる、とーさまね)
きっと父親もあちこちが「いたいいたい」で、藁にもすがる思いで『アツアツ』を使おうと考えたのでしょう。
「う~ん……」
小さな腕を胸の前で組み、眉間にちっちゃなシワを寄せて、レオンは考えます。
そんなレオンの姿にヴィクトールは、ホッとした表情で見ていました。
しかし数分後……。
「とうさま、いいのあったぁ!」
パンと手を叩くと、レオンはヴィクトールの大きな手をきゅっと掴んでひっぱります。
問題が解決して、レオンの蒼い瞳はキラキラです。
しかしひっぱられているヴィクトールは、見る見るうちに顔を青ざめさせていきました。
(まさか……、寝た子を起こしたのか、私は……!)
ヴィクトールは、自分の不用意な発言で、レオンの恐るべき創造力に火をつけてしまったと、激しいショックを受けます。
戦々恐々としながら連れていかれた部屋で、ヴィクトールは椅子に座るように促されます。
言われるがまま腰を下ろすと、レオンが背後に回り、小さな手でモミモミと肩を揉み始めました。
レオンのとーさまを元気にするためのマッサージです。
「ん……? 揉んでくれるのか!」
ヴィクトールは、『やらかし』でない安堵感から、すっかり表情を緩めました。
我が子の優しい気遣いは、親として十分に癒やしになります。
しかし幼いレオンにとって父の肩は頑丈な岩でした。3歳児の指の力では、びくともしません。
「……う、う~ん? かたい……」
レオンは少し体勢を変え、今度は小さな拳を握って「トントン」と叩いてみました。
可愛いリズミカルな音が部屋に響きます。
しばらくの間、レオンは一生懸命に小さな手を動かして頑張ってみたものの、やはり岩山のような凝りには太刀打ちできません。
「う~ん……」
思うようにほぐせず、レオンは自分の手を見つめて不思議そうに首を傾げました。
そのちょっと悔しそうな様子に、ヴィクトールは笑います。
「フフ……いいんだよ、レオン。気持ちよかった――」
「とーさま、寝んね……」
レオンは床に指を差し、ヴィクトールに言いました。
ヴィクトールは不思議に思いながら寝転がると――次の瞬間、背中にぽんっと心地よい重みが乗り、レオンは広い背中の上を、「トコトコ」と歩きはじめます。
「……っ!? ……お、おぉ……っ!?」
ヴィクトールの口から、衝撃のあまり声が漏れました。
指での局所的な「もみもみ」や「トントン」で弾かれたヴィクトールの頑丈な筋肉に、レオンの体重(3歳児の絶妙な重さ)が「足の裏」という面で乗っかることで、じわぁ……と心地よく沈み込みます。
「とーさま、どう?きもちいい?」
「き、気持ちいい……どころでは、ないな。これは……、レオン、凄いぞ……!背中が、信じられないほど、軽くなっていく、ようだ……」
ヴィクトールはあまりの心地よさに、完全にノックアウトされてしまいました。
これなら『アツアツ』に頼る必要はありません。
(また騒ぎを起こすのかとヒヤヒヤしたが……まさか、こんな極上の癒やしが待っていようとは……)
ヴィクトールは泥のようにとろける意識の中で、背中をトコトコと歩く天使の足音を聴きながら、至福の溜息をもらしました。
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