美味しいは、疲れが消える
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
デザートを待つ穏やかな空気の中、ヴィクトールがふとマルコに問いかけました。
「マルコ、今日の趣向は見事だ。この竹の子の料理法は、……一体どこから得たのだ?」
マルコは穏やかに微笑み、のほほんと座る小さな主へと視線を向けました。
「恐れながら旦那様。……これらはすべてレオン様から伺った叡智にございます。竹の子の調理法も、皮で肉を包んで蒸し焼きにするアイデアも、すべてレオン様のご指示です」
「「……えっ?」」
アルベルトとカトリーヌの手が止まりました。ヴィクトールもまた、手にしたグラスを置き、三歳の息子を振り返ります。
「レオンが……これを? マルコたちに命じて作らせたというのか?」
「はい。私はただレオン様の叡智を形に致しました。蒸し焼きは使用人の手によるものです。」
ヴィクトールたちは目を見開き、一斉にレオンを振り返ります。
注目の的となったレオンは、短い足をブラブラさせながら、不思議そうに首を左右にフリフリと振りました。
「……スープしらない」
レオンの無垢な否定に、一瞬の静寂の後、マルコが楽しそうに付け加えました。
「左様でございます。スープだけは、レオン様の素晴らしい発想に感服した私から、お礼として捧げた創作料理でございます。……それ以外は、すべてレオン様のご発案にございます」
「おにわの竹、おいしいって、おしえてあげたの!」
えっへん、と胸を張るレオン。
「信じられない……、十歳の私だってそんなこと思いつかないわ」
カトリーヌが溜息をつき、アルベルトは感心したように弟の頭を撫でました。
ヴィクトールはかつて「エグい」と切り捨てた竹を、見事に使いこなした息子の横顔を見つめて苦笑いをします。
「……どうやら我が家には、稀代の美食家が生まれたようだ」
夜の帳が下りる頃、食卓にはスープと笑い声の温かさに包まれていました。
昨夜の美食の余韻が、ヴィクトールの心身を驚くほど軽くしていました。
朝の澄んだ空気の中、彼は導かれるように例の竹林へと足を向けます。
しかしそこで目にしたのは、優雅な散策とは程遠い、活気あふれる奇妙な光景が広がっていました。
竹林のそばに土山?みたいなモノの周りで、使用人たちがいます。
地面にはいくつかの穴が掘られ、そこへ何かを丁寧に埋めて土を被せていました。
「……何をしているんだ?」
ヴィクトールが声をかけると、そこにはマルコだけではなく、なんとアルベルトとカトリーヌもいたのです。
唖然としたヴィクトールに、マルコは額の汗を拭い、見たこともない晴れやかな笑顔で答えました。
「旦那様、おはようございます。実は昨夜の蒸し焼きですが……あちらで燃やしているゴミの穴の熱を利用して作ったものです。周りに穴を掘り余熱を利用し、じっくりと熱を通したのです」
「ゴミを焼く……余熱だと!?」
貴族の常識では考えられない「野外調理」の事実に、ヴィクトールは絶句しました。
オーブンではなく、地面の熱……それがあの驚くほど、しっとりとした肉の質感の正体だったのです。
「父上、こうやって埋めるんです。宝を埋めるようで楽しいなぁ!」
アルベルトが誇らしげにやって見せ、カトリーヌも楽しそうに続きます。
「次はこれをお願いね。ハーブとじゃがいもの包みなの。後はコレよ、りんごなの。蜂蜜とバターが入っているわ。浅めにお願いね。あぁ、もう待ち遠しいわ!」
二人の兄姉はレオンから教わった「庭の調理法」にすっかり夢中です。
呆然とするヴィクトールに、マルコはさらに追い打ちをかけました。
「本日は、豚の香草蒸し焼きにございます。昨日の鶏よりもさらに脂が乗り、この地熱での調理に最も適した素材を選びました。今まさにレオン様のご指示通りの深さに埋めたところでございます!」
ヴィクトールは、……昨日自分が「見事だ!」と絶賛した料理のルーツが、目の前の「ゴミを焼く穴」の隣にあるという事実に、笑うべきか感心すべきか分からなくなりました。
しかし土の中から漏れ出す微かな香草の香りと、子供たちの輝く笑顔を見ていると、不思議と嫌な気はしません。
「……ふふ、あやつめ。次は豚か」
ヴィクトールはついに声を上げて笑い出しました。
疲れが消え去ったのは、真竹の効能か、それともこの型破りな家族のおかげか……。
「マルコ、私の分も忘れるな。……それと、……そのシャベルを貸せ。どれ、私も一つ、埋めてみるとしよう」
厳しい当主までもが袖を捲り上げ、一家総出の「宝隠し」が始まったのです。
しかしその前に、……ヴィクトールは恐る恐る土の蓋に触れてみると、驚くほど熱を持っていました。
「マルコ、まだこんなに熱いのか……」
「はい。昨日の午後に熾した火の力が、土の蓋のおかげで眠り続けております。ちょうど夕飯時は、豚肉の中で肉汁が落ち着き、香草の香りと一体化している最高の瞬間です。まさに至高の一品にございます!」
ヴィクトールはゴクリと生唾を飲み込みます。
今日の晩御飯がとても楽しみだ……。
今日はニコと一緒に、レオンはトコトコと菜園に向かいます。
──美味しい料理は幸せにする。
ポテポテと歩いてると、使用人たちから笑顔でお礼を言われました。
レオンはのほほんと見ています。
みんな元気になったのかなぁ……?
「坊ちゃま、早速第2弾を埋めて参りました!」
「晩御飯が楽しみです!」
とても晴れやかな顔を見ると、やはり美味しいは、間違いなく元気になるようです。
みんなの疲れが癒えたのなら、レオンは嬉しいと思いました。
「ねぇ、ニコ。とうさまのお休みはいつだろう?」
レオンは何となく聞きます。
ブルーノは忙しそうで、最近会えません。
そろそろじゃがいもを収穫したいけど……。
ニコは上を向いた状態で、レオンの質問を考えています。
トコトコと歩くレオンに向かい、申し訳なさそうにニコは言いました。
「レオン坊っちゃま、……旦那様の休憩は、レオン様といらっしゃる時ではないかと……?」
レオンはふと休みって何んだろう?と、思ったのです。
その夜の晩御飯を、みんな固唾を飲んで待っています。
芳醇なるメインディッシュ:豚の香草蒸し焼き
マルコが運び込んできた大きな竹の皮の包みを切り開くと、昨日も濃厚な脂の甘い香りとハーブの爽やかな香りが立ち上ります。
「さあ、こちらが皆様が埋められた豚の香草蒸し焼きにございます!」
今朝からじっくりと地熱に抱かれた豚肉は、フォークだけでホロリと崩れるほどの柔らかさで、口に入れれば……蓄えられた肉汁とハーブの香りが溢れ出します。
「レオン、見て! 私が埋めたじゃがいもとりんごよ。おいしそうでしょう?」
とても楽しげにカトリーヌが、自分の手で埋めた包みをレオンの皿へ取り分けました。
じゃがいもは豚の脂を吸い込み、ホクホクとした食感の中にハーブの香りが凝縮されています。
りんごも蜂蜜とバターがとろりと溶け合い、まるで極上のコンフィチュールのようです。
「レオン、お味はどう? ちゃんと浅めに埋めたから、甘みがぎゅっとしてるはずよ!」
レオンは熱々のりんごをフーフーと冷まし、一口食べると「あまーい! おねーさま、てんたい!」と満面の笑みを見せました。
今夜のパスタは、真竹を贅沢に使ったペペロンチーノです。
昨日のジェノベーゼとは異なり、ニンニクのコクと唐辛子の刺激が、真竹の持つ野性味のある甘さを引き立てています。
そしてレオンには、特別な一皿を差し出しました。
「真竹とたっぷりのバター、そしてほんの少しの醤油で香りをつけたパスタです」
真竹の甘みがバターのコクで引き立ち、子供でも食べやすい優しい味わい……。
「しゃきしゃき、おいしい! バターのにおい、だいしゅき!」
レオンがフォークを上手に使って頬張る姿を見て、ヴィクトールは目を細めました。
「父上……、この調理法は便利ですね。火を目隠しにして、周りの地面に埋めておく。それだけで、こんなご馳走になるなら、遠征先や野営でも、温かくて美味しい食事が楽しめますね。兵たちの士気も上がるに違いありません!」
ヴィクトールは、息子の着眼点に深く頷きました。
戦場や野営で煙や火の手を上げるのは、敵に位置を知らせる自殺行為です。
「……ああ。特別な設備がなくとも、隠密性を保ったまま、兵士たちに温かく栄養のある食事を提供できる調理法は便利だな。レオンに料理のレパートリーでも教わるか?」
最後に出されたのは、竹の子の根元に近い味の濃い部分を、すりおろして仕立てたポタージュスープでした。
「昨日よりも身体が軽いのは、真竹のおかげでしょうか?」
「……かもしれんな」
アルベルトの疑問にヴィクトールは、昨夜の眠りと今朝の目覚めを思い出しながら、温かなスープをゆっくりと喉に流し込みました。
食卓を囲む家族の顔からは、ここ数日の疲れが消えています。
不要品として捨てられたものが、燃料となり食材そのものを引き立てる。
レオンがもたらす『お庭の魔法』は、ただお腹を満たすだけでなく、家族の心に新しい活力を吹き込んだのでした。
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