レオンのおうちは世界規模
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
ハァ……溜息をつき、ヴィクトールは顔を上げ、当主の目を取り戻します。
もはやレオンの「叡智」を否定することは不可能だと悟ったのです。
「……いいだろう。ならば叡智が言った通り、『謝罪』の後は、相応の『働き』で返してもらおう」
ヴィクトールの言葉に、セバスが深く頷きました。
「賢明なご判断です、旦那様。レオン様は次男というお立場……。無意識のうちにご自分の才覚で、この世界における『確固たる居場所』を築こうとされているのでしょう。……ならば我ら大人がすべき事は、その土台を作る事でございます」
セバスは手元の手帳から、これからの懸念事項を確認し、やるべき事を書き込みます。
「ブルーノ、捕らえた者たちがこちら側に付いた後の話しですが、商会を立ち上げなさい。それを侯爵家とレオン様の隠れ蓑にし、今後何かを『やらかして』も、それはすべて商会経由にしましょう。『商会の新商品』や『商会の秘匿レシピ』として、個人を断定させなくします」
「……なるほど、確かに商会という形ならば、彼らは堂々と動き、動かせます」
ブルーノの瞳に、隠密特有の冷静な計算が宿りました。
「例の泥石鹸の製造指導と配合員を、ブルーノが言うように、彼らを使い各地の孤児院へ派遣しましょう。孤児院を仮拠点にすれば、物流の網を張るのも容易です。派遣員という名目で、堂々と情報収集、さらに情報操作さえも行えます」
マルクスがニヤリと笑い補足します。
「なるほどね。石鹸を教えながら、裏では王都や各国の情報を吸い上げる。……おまけにレオン様の作った『ピカピカ掃除液』を販売すれば、商会として対面も保たれ、こちらも情報収集や操作などしても、拠点として堂々と存在できる訳だから曖昧なままだ。……怖いなぁ、三歳児の一言から、国家規模の諜報ギルドが誕生しちまったよ」
ピューッ♪と気軽な調子で口笛を吹くマルクスに、ヴィクトールは睨みつけました。
「……あの子が『働きで返せ』と言ったからには、逃がすなよ、ブルーノ。……使い潰すまで、賢者の糧になってもらおう」
レオンの無邪気な「そうじお願いする」は、侯爵家直属の巨大な「商会兼諜報組織」へと姿を変えました。
表向きは住宅ピカピカ洗剤を売り、孤児院に派遣される博愛の組織。
しかしその実態は、三歳児のやらかしを隠蔽する盾であり、敵対者を「労働力」という沼へ引きずり込んだ、……世界で最も「ピカピカ」で、恐ろしい組織でした。
「さて……、そうと決まれば、商会の名前を考えなくてはな」
ヴィクトールは、少しだけ胃の痛みが引いたのを感じながら、新たな三文芝居の舞台を組み上げ始めました。
「……『木漏れ日商会』」
ヴィクトールが、窓から差し込む柔らかな光を見つめながら呟きました。
そこにはちょうど木漏れ日を浴びて、ニコと顔を見合わせながらキャッキャと笑い合うレオンの姿があります。
その光景は誰が見ても平和の象徴そのものです。
しかしその商会の中身が、捕らえた暗殺部隊を筆頭に労働力として利用され、諜報網を張り巡らせた組織になるとは思わないでしょう。
「いい名前ですね。あの方の無邪気さを守る盾として、これ以上の隠れ蓑はありません」
セバスが満足げに頷き、書類にその名を記しました。
「……で、閣下。名前が決まったところで現実的な話に戻りますけど……」
少し冷めた目でお茶をすすりながら、マルクスが切り出しました。
「教会に対して、ウマみは少ないですか?」
その問いにヴィクトールは、……悩みます。
「どうだろう?実際やってみないとわからないが、ただ教会という権威は高まると思う。だが清廉潔白を謳う割に、歴史という名のカビだらけだ。……レオンの『泥石鹸』を欲しがる強欲な派閥がまさにカビという訳だ」
ヴィクトールは狩人の眼差しに変わります。
「木漏れ日商会が孤児院に支援すれば、民衆の注目は商会に集まる。教会のカビどもが邪魔をすれば、教会の強欲さとして浮き彫りになる訳だ。カビどもを庇えばどうなる?逆に商会が――ひいては我が家の地位が磐石になり、……教会は『名と権威』だけの看板でしかなく、実質的には、すべて木漏れ日商会のものになるだろうな。……ウマみか、確かに少ないな」
ヴィクトールはニヤリと笑いました。
「なるほど……教会という看板を借りた美味しい商い……、木漏れ日部分は持っていくと……、あくどいですね、閣下。まぁカビどもを庇えばということですね」
マルクスもニヤリと笑います。
「……さらに教会のネットワークを使えば、国境を越えた物流と資金洗浄が容易になります。……ですが最大の利点は、レオン様が今後どれほど大きな『やらかし』をしても、商会内で処理することでわからなくなるでしょう」
ブルーノが淡々と付け加えたその言葉に、一同は考え込みました。
「……つまりレオンが何をやってもわからない。何か作っても商会の誰かになる訳だ。最悪……、神が具現化したとしても、それは教会のせいにして、こっちはニコニコと木漏れ日の中で、ただ笑っていればいい……」
ヴィクトールはようやく、今日一番の晴れやかな顔になり、……意味もなく窓の外の息子に手を振りました。
しかし……、そこにレオンはいません。
「……レオン、見ていろよ。お前が望んだ『働きで返してもらう』場所は、父様たちが最高な形で用意してやるからな♪」
ヴィクトールの胃を苛む案件、……レオンの『やらかし』は木漏れ日商会にすべて委託され、場合によっては教会の権威すらも飲み込む、変幻自在なスライム商会が誕生しました。
その夜ディナーの席に運ばれてきたのは、まるで宝石を散りばめたような一皿でした。
【真竹のジェノベーゼ和え】
茹で上がった真竹の白と、バジルソースの鮮やかな緑と立ち上るバジルの爽やかな香りが、食卓を包み込みます。
「わあ……!」
一番に声を上げたのはレオンでした。
マルコの腕によって魔法をかけられた真竹を見て、満面の笑みを浮かべます。
「レオン、コレは何だい? とても綺麗だけど……」
兄アルベルトが、不思議そうに皿を覗き込みました。
「これね、おにわの、たけのこ!」
レオンが幼い声で無邪気に答えた瞬間、食卓に沈黙が訪れました。
「お庭の……?」
「竹の子……?」
アルベルトと姉カトリーヌは、思わず絶句します。
観賞用の庭園に生えている竹を食べるなど、二人には想像もつきません。
しかしレオンが小さなフォークを使い、「シャキシャキ!」と実においしそうに食べる姿を見て、二人は意を決して口に運びました。
「……っ、おいしい!」
カトリーヌが目を丸くしました。
初めて体験する……弾けるような瑞々しい食感、バジルの清涼感が真竹の甘みを引き立てます。
アルベルトもまたその意外な美味しさに目をキラキラと輝かせ、次々とフォークを動かします。
その様子を父ヴィクトールは一人、複雑な面持ちで見つめていました。
彼はかつて真竹を食べ、その強烈なエグ味に閉口した経験があったのです。
「とうさま、おいしいよ」
レオンに促され、ヴィクトールは恐る恐る、小さく切った真竹を口にしました。
「っ?!……エグくない。いや、これは……見事だ!」
息子と料理長の腕が生み出した奇跡の一皿は、疲れた父の心を解きほぐし、家族の新しいお気に入りとなったのです!
真竹の衝撃が冷めやらぬ中、マルコが次の一皿を恭しく運び入れました。
それは先ほどとは打って変わって、熱を帯びた竹の皮に包まれた野趣な料理です。
「こちらは、真竹の皮で包んだ鶏肉の香草蒸し焼きでございます」
すまし顔のマルコが丁寧に皮を解くと、閉じ込められていたタイムとローズマリーの力強い香りが、湯気と共に一気に弾けました。
「くんくん……やっぱり、いいにおい!」
レオンが鼻をひくつかせ、身を乗り出します。
竹の皮は天然の蒸し器となり、鶏肉を驚くほどしっとりと焼き上げていました。
肉の脂を吸い込んだ竹の皮からは、野性味のある微かな香りが移り、そこにタイムの爽やかさとローズマリーのほろ苦いアクセントが加わります。
「お肉がふわふわ……! それに、この葉っぱのいい香りがお庭の竹と合ってるわ」
「皮を使って蒸し焼きにするなんて。捨てるところがないんだね」
ヴィクトールは、添えられたローズマリーの枝を見つめ、再び一口運びました。
先ほどのジェノベーゼの「動」の鮮やかさに対し、こちらは「静」の深い味わい……。
「……竹の皮にこれほどの使い道があるとは!エグ味を封じるだけでなく、香りを閉じ込める器にまで……」
ヴィクトールの口元に、ようやく柔らかな笑みが浮かびました。
洗練された貴族の食卓に現れた庭の恵みによる魔法は、バジル、タイム、ローズマリー——三種のハーブと真竹が織りなす香りの旋律……。
しかし食卓を飾るのは、ジェノベーゼと香草蒸し焼きだけではありませんでした。
マルコはさらに、温かな湯気を立てるスープです。
【黄金色のコンソメ:真竹の姫皮を浮かべて】
「こちらは、真竹の最も柔らかい姫皮を散らしたコンソメスープです」
透き通ったスープの中に、繊細な真竹の皮がゆらゆらと揺れています。
一口啜れば、鶏の出汁に真竹のほのかな若草の香りが溶け合い、体に染み渡る優しさです。
「……ふわふわしてる。お口の中で溶けちゃうみたい!」
カトリーヌが声を弾ませます。
強い香りの料理の間に挟まれるこのスープは、まさに食卓の休息でした。
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