叡智降臨?大人たちは恐怖する
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。(次は18:30です)
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
「突っ伏している暇ないですよ!今後を踏まえて、今のうちに手を打っておかないと ……」
マルクスが呆れたように声をかけ、セバスも手際よく書類を整えながら同調します。
「左様でございます。今回は運良く切り抜けましたが、次回も同様に運が味方するとは限りません。備えこそが兵法の最大の防御、侯爵家当主としての矜持をお見せください」
二人の容赦ない正論に、ヴィクトールが重い腰を上げようとした、その時でした。
「……あっ」
背後でブルーノが、何かを思い出したような声を出しました。
その短い一言に、ヴィクトールはビクッと肩を震わせます。
「……えっ? ちょっと待てブルーノ。まさか古傷以外に、まだ何か爆弾が残っているのか?」
「……ジャガイモの件なら、すでに報告を受けて把握していますよ」
マルクスとセバスが、先回りするように釘を刺します。しかしヴィクトールだけは無言でブルーノを注視していました。
ブルーノにしては珍しく言い淀み、言うべきか、あるいは墓まで持っていくべきか葛藤している様子……、ジッと3人が睨みつけます。
……やがて意を決したように口を開きました。
「……レオン様に、捕らえた暗殺部隊や密偵をどうすべきか、お伺いを立てたところ……」
「「はぁっ?!」」
マルクスとセバスの声が、完璧に重なりました。
「お前は三歳のレオン様に、国際問題になりかねない捕虜の処遇を相談したのか?!」という驚愕と、「何を聞いてるんだ」という呆れが混ざり合います。
ヴィクトールはこめかみを指で押さえ、絞り出すような声で尋ねました。
「……それで、レオンは何と言ったのだ? 模範的な子供らしい答えだったのか?」
「はい。『悪いことしたら、ごめんさいするんだよ』と……」
その言葉を聞き、ヴィクトール、マルクス、セバスの三人は、一様に「ああ……」と安堵の息を漏らしました。
「良かった……、中身はちゃんと三歳児だったんだな」「教育が行き届いている証拠だ」と、一瞬だけ執務室に温かな空気が流れます。
しかしブルーノの報告には続きがありました。
「……ですが、その直後にこう仰いました。『損した分は、働きで返して貰うんだ』……と」
執務室が、凍りつきました。
「……それ、本当に三歳児のセリフか?」
マルクスが引き攣った笑いを浮かべます。
「……『謝罪』は精神的な区切り、そして『労働』は経済的な補填……。あまりにも合理的、かつ徹底した実利主義。三歳にして、既に『搾取の構造』を理解しておられる……」
セバスが、戦慄を覚えたように眼鏡を押し上げました。
ヴィクトールは再び、ゆっくりと机に突っ伏します。
「……ブルーノ。お前がさっき言った『影の部隊』の再編……。それは、……レオンの言葉を受けてのことか?」
「……はい。『おうちの、そうじ、おねがいするの』と、レオン様は非常に晴れやかな笑顔で仰っておられました」
「……あの子、怖い。将来が、色んな意味で怖すぎるぞ……」
マルクスが震える手でハーブティーを飲み干す横で、ヴィクトールは思いました。
レオンの「そうじ」は「掃除」するだけなのか?もっと深い意味があるのかと……。
汚れた者たちを捕らえ、その「汚れ」を燃料に変え、回すシステムを構築しようとしている。
「……セバス、もう一杯。……今度は一番強い酒をくれ……」
侯爵邸の執務室に三歳児の影が揺らぎ、いよいよ意味深に、……色濃く落ち始めていました。
ヴィクトールは顔を伏せたまま、震える声で呟きました。
その背中には父親としての後悔と、……絶望がべったりと張り付いています。
「……私のせいか。やはり三歳の幼児に罠の設置や作戦会議を間近で見せたのが、教育上、最悪の影響を与えてしまったのか……。情操教育どころか、効率的な組織運用のノウハウを覚えさせてしまった……」
「いやいや、閣下。責任を感じる必要はありませんよ。レオン様、あの時めちゃくちゃヤル気でしたからね!」
マルクスが情け容赦ないツッコミを入れます。
「『ここ、スベスベにするの!』『おじさん、踊っちゃうの!』って、キラキラした目で敵の自滅をシミュレートしてたじゃないですか。あれは英才教育とかいうレベルじゃなくて、本能ですよ」
ヴィクトールの肩がさらに小さく丸まります。
しかしそこで重い一撃を放ったのは、やはり「実体験者」であるブルーノでした。
「……いえ。あれは、単なる『やる気』や『教育の影響』などという言葉では、片付けられません」
ブルーノは自分の右脚を支える桜の皮の感触を確かめ、深い思考に沈んだ瞳で言いました。
「……あの「損した分は……」の瞬間は、三歳の幼子ではありませんでした。あれは永年のながれを持つ『叡智』、あるいは『賢者』そのもの……。私たちの練り上げる作戦を、無邪気な一言で埋め、さらにその先にある『捕虜の再利用』まで提示された。……レオン様の中に眠るそれは、もはや私たちが理解する範疇を超えています」
執務室に、……沈黙が流れ落ちます。
「『ごめんなさい』で心を折り、『次のお仕事』で肉体を縛る……。旦那様、これは立派な統治者の資質ですよ。……ただそれを3歳児がやっているという事実が、国家の転覆より恐ろしいだけかと」
セバスがどこか誇らしげに、しかし残酷な現実を突きつけ、新しいお茶(ヴィクトールには特別に強い薬草入り)を置きました。
「……つまり私が育てていたのは、可愛らしい息子ではなく、将来全人類を『効率よく働かせる』若き支配者だったということか……?」
ヴィクトールは青ざめ皆を見ますが、誰も返事をせず、目さえ合わせようとしません。
……運ばれてきた茶の苦味を噛み締めました。
窓の外ではニコに甘えて「えへへー」と笑っているレオンがいます。
その笑顔の裏で、……国際暗殺部隊を「労働力」としてカウントする知略な計算が同居している事実に、……大人たちはただただ、震えることしかできません。
先ほどレオンが使用人にお願いしたミントとカモミールで作った冷たいお茶が、使用人たちの間に配られました。
「坊っちゃまの言った通り、フタがあると煙が外に逃げないな」
使用人たちは感心した様子で、穴を土でふさぎました。そして隙間から火を入れ、様子を見守りながらレオンのお茶を飲んで一息つきます。
一段落つくと、先程の使用人が余熱で熱くなった地面のすぐ隣に、小さな穴を掘り始めました。
「……本当に熱いな」
「フフ……、さて坊っちゃまの楽しみを準備しましょうか」
彼らは厨房へ向かい、料理長のマルコから真竹の皮と、ニンニク、パン粉、塩、鶏肉を貰います。
そしてレオン坊っちゃまの畑から、タイムとローズマリーを摘みました。
混ぜ合わせて鶏肉に詰め込み、最後に大粒の白い塩を鶏肉とじゃがいもにパラパラと振りかけ、最後にハーブの茎をソッと乗せました。
竹の皮で包まれるその姿は、秘密の宝のようです。
「さて、穴の中へ……」
使用人がその包みを大切に抱え、余熱たっぷりの土の中へと沈めました。
……数時間後。
レオンはニコや使用人たちと一緒に、掘り起こされた包みを見ます。
竹の皮が開いた瞬間、……蒸気と共に立ち上がったのは、爽やかなハーブの香りと、竹の皮の香り、そしてジューシーなお肉の匂いです。
「……あつい!けど……、おいしそう♪」
表面にまぶした塩が馴染んで、鶏肉はツヤツヤと輝いています。添えられたじゃがいもにも、ハーブと竹の皮の香りが移っていました。
レオンがフォークでひとくち運ぶと、表面の塩気が味を引き締め、その後にハーブの爽やかさが追いかけてきます。
「……成功。今日のごはんはウマウマよ♪」
レオンは満足げに、隣で静かに熱を蓄えている大きなフタを見つめました。
ニコや使用人たちも、今日の晩御飯が楽しみで仕方ありません。
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