表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな賢者は隠しごと 〜三歳のレオンは、のほほんと照らす〜  作者: マシュマロ羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/73

報告は、教会の泥でも……

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。

お待たせいたしました。(次回は20:00です)

ひとときのほほんとよろしくお願いします。

のんびりお付き合い頂ければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)

 






 セバスはドアを開け、控えていた侍女に「胃に優しい」軽食とハーブティーを依頼しました。

 執務室を支配していた緊張感が、ようやく休息へと変わります。

 マルクスは足を伸ばしてくつろぎ、ヴィクトールは限界を迎えたように、机の上でぐったりと突っ伏しています。

 一同が思い思いの安らぎを得ようとした時に、窓から庭園の様子を伺っていたブルーノが、「……ッ?!」と息を呑み、反射的に窓枠へ足をかけました。

 しかしその肩をセバスの手が制します。


「……案じ召されるな、ブルーノ。あちらをご覧なさい」


 窓の下ではびしょ濡れになったレオンに、慌てて駆け寄るニコの姿がありました。

 ニコは大きなタオルでレオンを包み込み、困った様子で拭っているようです。


「……あれはレオン様なりの甘えなんですよ。自分が無茶しても、ニコが必ず来てくれる……そう信じきった行動です」


 セバスは慈しむように目を細め、二人のやり取りを見つめています。

 昼下がりの中、服をぐっしょり濡らして笑い合う二人……。


『ニコが来るから大丈夫』


 それは言葉にすらならない、本能に刻まれた絶対的な信頼でした。


「……そうか。……そうだな」


 ブルーノは窓枠にかけた足を静かに下ろしました。

 自分のような研ぎ澄まされた戦闘能力や、命を賭した護衛技術も、あのニコにはない。

 しかし……、ニコが持つ「レオンの甘えと信頼」には到底及びません。

 ヴィクトールもまた、机に突っ伏したまま片目だけでその光景を眺め、……今度は穏やかな溜息をつきました。


 びしょ濡れのレオンとニコの姿は、大人たちの穏やかな癒しになりました。








 ヴィクトールは、タオルに包まれて笑う小さな背中を見つめながら、ようやく身体を起こしました。

 窓越しに見える光景はあまりに微笑ましく、先ほどまでの物々しい報告が嘘のようです。


「……報告には聞いていたが、あの光景を見ると、……納得せざるを得ないか」


 ヴィクトールは独り言のように呟き、視線をブルーノへ向けました。


「……ブルーノ。確認だがレオンがニコを守ったと聞いたが、……それは本当か?」


 鋭い眼でブルーノを見つめ、問いただします。

 レオンがいくら早熟であろうとも、肉体的には三歳の幼子です。

 それなのに武装した相手に立ち向うなど、無理があり過ぎて、父親としての心配と不安、そして軍人としての疑念が混ざり合います。


「…………事実です」


 しかしブルーノはヴィクトールの葛藤など気にせず、短く、はっきりと答えました。


「頭突き一発……。相手の鼻に叩き込み、気絶させました。……さらに追い打ちで高濃度ミントを顔面にふりかけておられます。あまりの粘膜刺激に、賊は気絶したまま震えていました」


 ブルーノにはあの時の光景が、今も鮮明に浮かびます。ニコに抱かれながら、庇うニコを守ろうとし、小さな身体で吠えた声、誰よりも一生懸命で頼もしい主君……。

 それを思い出すと、冷静なはずのブルーノの胸に、言葉にしがたい高揚感が蘇ります。


 マルクスが「マジかよ……」と頭を抱えました。


「頭突きに追い打ちミント……。ニコを守るために頑張たんだな。敵からしたら、幼子から脳震盪を起こす攻撃がくるとは思わないよ。……鼻も折れるし、悪夢以外の何物でもないな」


 ヴィクトールは再び胃のあたりを押さえ、窓の外でニコの手を引く「小さな戦術家」を凝視しました。


「……ニコを守るためか」


 父親としての誇らしさよりも、胃の痛みが上回ります。今回は大事なくても次回はわかりません。

 出来ればそんな機会は、二度と起こってほしくないのです。








 執務室の空気が、再び重い現実の色に染まりました。

 ニコに包まれていたレオンの愛らしさと、彼がもたらす巨大な利権……、そのギャップに大人たちは目眩を覚えるばかりです。


「まず泥石鹸の推進報告をします。配合比率の繊細さと感覚的要素が高すぎて、誰も理解できず頓挫しています」


 溜息をつきマルクスは頭を抱えます。

 これから世界規模で展開予定の、泥石鹸による衛生革命……。

 各国の孤児院へ、製法を知る「指導者」を派遣し、配合する計画が動いていました。

 しかし要であるその指導員の配合育成が、スタート地点から頓挫しているのです。


「……一度レオン様に領地に来て頂き、直接指導、または手本を見せて頂かないと、……無理ですよ。配合手順、温度、分量比率、そしてあの絶妙な『まぜまぜ』加減……。文字にしても、再現できませんよ。あの三歳児の感覚を、コピーできる人間がどこにいるんです?」


 マルクスの真剣な訴えに、ヴィクトールは深く溜息をつきました。

 実際……、「ふにゅっ」とした質感を出す、液と土が仲良くなる「ネリネリの間」をつくる、香りがお空にとぶくらいで完成……。

 ヴィクトールだって、わかりません。

 毎回、毎回、量も違うのです……。


「……それに付随する話なのですが」


 セバスが届いたばかりの封書を、トレイに載せて差し出しました。


「ベネディクト大司教から、問題が起こったと手紙が届いております」


 その内容は人間の業を煮詰めたような醜いものでした。

 教会という聖域の中にあっても、欲深い者たちいるようで、彼らは石鹸の製造だけでなく、販売ルートまで確保しようと考えたようです。

 つまり事実的な独占です。


「さらには……『一般市民に安価で売るなど、神に触れる聖なる泥を安売りも同然。これは選ばれし貴き者にのみ許すべき奇跡である』と、主張する派閥もあるようです」


「……ハッ!神の泥、か」


 ヴィクトールが自嘲気味に鼻で笑いました。


「……そういう奴らこそ、あの『ベタベタ地獄』に放り込めばいいんですよ」


 マルクスが毒を吐きますが、誰もそれを否定しません。

 大人たちは「レオンが生み出したモノ」を奪おうとする俗物と戦わなければならないからです。


「……セバス、大司教にはこう返せ。『汚れを落とす石鹸に、汚れた者が関わること自体ありえないと……。間違っても利権はコチラ側にある。教会全体がそういう考えなら、なかった事にする』とな。……マルクス、領地への件は検討する。だが、その前にやるべき『掃除』の対象が増えそうだ」


 ヴィクトールの静かな怒りが、暗い政治の地図へと向けられた。









 その頃小さな膝を泥に突き、ニコの隣でレオンが一生懸命手を動かしています。


「プチッ……。ニコ、これ」


「上手ですね、レオン坊っちゃま。……プチッ、あぁ、本当に次から次へと……」


 ニコは額の汗を拭いながら、腰を押さえました。

 二人の前には、抜いても抜いても終わりの見えない、緑の海が広がっています。


「……ニコ、いたい?」


 レオンが手を止め、心配そうにニコの腰を見つめます。ニコは慌てて笑顔を作りました。


「大丈夫ですよ。芽吹きの季節はみんなこうなんです。ほら、あっちでも戦っていますよ!」


 視線の先では使用人が竹を運んでいるのが見えました。背中は丸まり、時折「ハァ……」と重い吐息が漏れています。


(みんな、たいへん。……ん?あ、あれ!)


 ……レオンは目を見開き、プチプチと草を抜く音と、土の匂いが遠のいき……。

 レオンは突然立ち上がり、汚れたズボンを叩くのも忘れて、トコトコと走り出します。


「坊っちゃま?」


 ニコの声が聞こえないのか、レオンは使用人のもとへ向かいました。


「……それ、ちょーらい!」


 レオンは使用人が持っている竹の子を指さします。

 それは美味しいモノです!


「……これですか?」


 そう言って使用人は竹の子を渡しました。

 追ってきたニコにも竹の子を渡して貰い、レオンはニコニコです。


「……レオン坊ちゃま、これは?」


「おいちーの♪」


 それを聞いたニコは「コレがおいちー?」と、頭を捻ります。

 レオンは厨房へ向う途中に菜園へ寄り、料理長のマルコに会いに行きます。



 






 トコトコと小さい可愛らしい足音が聞こえます。


「マルコ、これ、おいしーの!」


 裾を引かれマルコが振り返ると、レオンが立派な真竹を抱えていました。

 隣には困り顔のニコが、やはり竹の子とバジルを抱えています。

 マルコは困ったように眉を下げて言いました。


「レオン様、それは『真竹』です。竹の子の中じゃあ……エグ味が強く、とても食べられたものではありません」


 しかしレオンは、キラキラした瞳で首を振ります。


「だいじょうぶ! コレいれて?」


 小さな手で差し出したのは、真っ白な灰でした。


「灰、ですか……?」

 

 マルコは驚きましたが、不思議な知恵を持つレオンの言葉に従ってみることにします。

 灰を加えて真竹を湯がき、じっくりと時間をかけてアクを抜き冷まします。

 するとあんなに強かったエグ味が消え、真竹の清々しい香りと、素晴らしい歯ごたえがありました。







読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

たくさんのブクマやポイント嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

とても励みになり、がんばれます。

メールも嬉しく、ネタになることも♪

誤字脱字報告ありがとうございます。(о´∀`о)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ