閑話:じゃがいも収穫前……。─ある日のレオン─
いつも応援ありがとうございます。
大変お待たせいたしました。
5月15日より、いよいよ第2章の連載を開始いたします。現在レオンたちの活躍を執筆中です。
再開まであと少しだけお時間をいただきますが、感謝を込めて本日は閑話をお届けします。
新章へ繋がるレオンたちの日常の風景を描いたエピソードです。
ひとときのほほんと、のんびりお付き合いいただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
バラが最後のひと花を重たげに揺らす傍らでレオンの菜園は、じゃがいもの茎葉が腰の高さほどにまで茂っていました。
「……ぐんぐん♪」
レオンはポテポテと歩いて、密集する葉にそっと小さな手を沈めました。
アタマの中から湧き出るモノと、指先の感触が重なります。
『地上部が大きく育てば育つほど、土の下ではデンプンが蓄えられ、黄金の塊が育っていく。茎が黄色く倒れ始めたら、それが地上から地下へ、命のバトンが渡された合図』
「……まーだ、まだまだ♪」
じゃがいも収穫まであと少しです。
楽しみでムフフなレオンの目には、まだまだ緑の部分があちこちにあります。
でも部分的に黄色い場所を、料理長のマルコと一緒にじゃがいもの出来をみていました。
「……レオン様、まん丸です」
土の中のじゃがいもは、なかなかの大きさに育っています。
連なる芋も、ゴロゴロとあるようです♪
ほわ~んと頬を抑えるレオンと、何を作ろうかと思案するマルコ二人は、ニンマリと顔を緩めます。
二人は互いに顔を見合せて、……さらにニンマリと深めました。
もう一度寝んねして貰うために、土の布団をかけ直します。
数日過ぎて……、これから訪れる雨の気配を含んで、乳白色に霞んでいました。
「ニコ、お空がどんより、……ざんねん」
レオンが小さな手をかざして見上げます。
足元の菜園では、生命の輝きを爆発させていました。
中央に鎮座する桃とリンゴの苗木は、レオンが一生懸命運んだお水のおかげで、若々しい葉を力一杯に広げています。
その根元では野いちごが、ルビーのような赤い実を点々と灯し、甘い香りを振りまいていました。
「レオン坊ちゃま。雨が降る前に見てまわりましょう」
ニコが笑い北側に目を向けると、いつの間にかレオンの背丈に近づくトウモロコシが、東側へ目を向ければ、トマトが黄色の小さな花をポツポツと散らし、足元では枝豆の柔らかな葉が、虫除けのバジルと一緒に揺れています。
レオンがトマトの根元のバジルをそっと撫でると、目が覚めるような香りが弾けました。
ラベンダーの清々しい香りが風に乗り吹き抜け、足元に広がるカモミールが白い小さな花を可愛らしく揺らしいます。
バラのアーチにはピンクから黄色へと衣替えを終えたバラたちが、よりいっそう鮮やかに色づきました。
雨が降り……、水分を含んだ土が太陽に温められ、独特の濃い香りを放つ菜園に、二人の姿がありました。
いくつかのジャガイモの葉は黄色く枯れて、収穫の合図サインを送っています。
長靴を履いて畝の前に立ち、レオンは真剣な表情で土を見つめました。
「ブルーノ、このお芋さん、お外に出たいって」
傍らでブルーノも真剣な表情で頷きます。
「……坊ちゃま。『お山(土寄せ)』がいかに効いているか……確めましょう」
ブルーノがイモを傷つけないように、株元から少し離れた場所を指先で優しく掘りおこします。
湿った黒土の中から、驚くほど大きな丸い塊が顔を出しました。
「わぁ!この前のおイモさんより、おおきなまん丸!」
レオンが手を叩いて跳び跳ねます。
ブルーノはその一塊を手に取り、掌の上に乗せました。
「……これは!……なんという重さだ」
ブルーノの手の上にあるのは、歪みのない見事に整った球体でした。
「坊ちゃま……見てください。五月にあなたが仰った通り、高く盛った『お布団(土寄せ)』の中で、この子たちは誰にも邪魔されず、日光にも当たらず……ただひたすら、己を丸く膨らませることに集中していたようです」
ブルーノの声が、わずかに震えています。
連なる芋もおなじくらい大きく、まん丸して、今から収穫が楽しみです。
とりあえずこの1株のじゃがいもを取り出し、味見することにしました♪
雨上がりの土はまだまだ重くて、長靴にまとわりついてきます。
一株だけと決めて引き抜いたジャガイモは、驚くほど白く瑞々しい肌をしていました。
キッチンで泥を洗い流し、皮付きのまま蒸したイモを潰します。
バターとりんご酢を入れて、爽やかな酸味が湯気に乗って鼻をくすぐりました。
そこにカリカリに焼いたベーコンと、新玉ねぎのシャキシャキした歯ごたえを混ぜ、最後にちぎったクレソンの苦みが、ボウルの中で鮮やかに弾けます。
隣の鍋では、琥珀色のコンソメの中で卵がふんわりと花開いて、トーストしたパンの香ばしい匂いが部屋を満たしました。
「「「「いただきます!」」」」
レオン、ブルーノ、ニコ、マルコはパクッと、ポテトサラダを食べてみます。
すると、……一口目は土の記憶が残るイモの甘みに、バターのコクが優しく包んでいて……。
「おいしい!」
レオンが幸せそうに、満面の笑みを浮かべました。
口いっぱいにニコは頬張り、モグモグしながら同意します。
そんなニコのようすを呆れ顔で見るブルーノですが、スプーンを持った手の動きは速く、パクパク食べています。
「……二人ともがっつき過ぎだ。まったく……、しかし本当に美味しいですよ、レオン様。収穫が今から楽しみです」
マルコのとても嬉しそうな顔に、レオンの顔も嬉しげに綻びました。
「今日も土はしっとりさん。ホリホリしたらダメな日」
レオンが残念そうに言って、小さな長靴の先でトントンと土をノックします。
しかし残念ながら、おイモさんからお返事がありません。
じゃがいもは雨上がりの湿った土で掘ると痛み易いので、土が乾くまでのんびり待たなければならないのです。
「お日様にしっかり乾かして貰いましょう。その日が待ち遠しいですね」
マルコは膝をつき同じ目線で、土の中に眠るお宝に思いを馳せます。
マルコの頭の中では、すでにこのじゃがいもは色んな料理に変わっていました。
ホクホク焼きをまず一品、素材の甘さを活かしたスープもいいし……。
「マルコ、きめた?」
「そうですな……レオン様が一生懸命運んだ『冷たいお水』をたっぷり飲んだじゃがいもです。とびきりな一皿は既に決めました」
「とびきりの一皿……? マルコ、おしえて!」
レオンが身を乗り出して、マルコの袖を引っぱります。
「ふふ、それはですね……」
マルコは声を潜め、耳元で秘密の計画を打ち明けます。それを聞いて、……顔を合わせて二人はニンマリと笑いました。
「早くかわいてほしいなぁ」
空に向かって両手を広げるレオンに、マルコは笑い声を上げます。
収穫まであと少しです!
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