『泥パック』の結果はいかに?!
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侍女長は優雅に微笑むと、泥の入った小鉢と筆を手に取り、控えさせる侍女たちへ視線を送りました。
「せっかくなので──まずは私どもが『塗り手』となり、男性陣の皆様のお顔で手技(技術)の習得と効果の検証をさせていただきますわ。塗りの厚みや、油紙の密着具合……人に施す練習には絶好の機会ですものね」
「……なるほどねぇ。自分たちの技術磨きの実験台ってわけだ。侍女長さんは本当に『食えない』お方だ」
マルクスが苦笑しながら椅子に腰を下ろすと、侍女長の手によって手際よく顔面に温かい泥が塗られていきます。
その隣では、ガツが筆の冷たさに背筋を伸ばしました。
「おいおい、容赦ねぇな……。だが、自分で塗るよりこっちのほうが気楽でいいなぁ……ハハハ……『お気楽とんぼ』なお前さんも、顔中泥だらけにされて身動きできねぇか」
「お互い様ですね、ガツさん。あなたもなかなか、……その泥がお似合いですよ」
顔面を泥と油紙で覆われたシュールな姿でニシシと笑うガツと、呆れたように溜息混じりに話すマルクス。
ある意味、……初対面な二人は至近距離で腹を探り合う横で、ニコは数名の侍女に手際よく顔をこね回されていました。
「ニコ殿、もっとおでこの際まで塗り込みますわね。……ええ、お肌の経過観察が楽しみですわ」
「あ、あの……僕、完全に練習台ですよね!?」
(遠くで見ているシク:「……ニコ、お疲れ」)
「……フフフ♪」
ただの練習台から一転、そばかすのあるニコを見た瞬間に、侍女長やメイドたちの目が「これは美白・美肌効果(色素沈着への効果)を確かめる最高の検証対象……!」とロックオンされていたのです。
そばかすは良くも悪くも顔の印象を変えます。
「泥の『美肌』や『お肌のトーン』への影響を確かめるには、まさに打ってつけの検証対象ですわ。……筆の走らせ方を変えて、少し入念に塗らせていただきますわね♪」
「えっ!? あ、あの、侍女長さん、なんだか目がすごく真剣なんですけど……!?」
筆で丁寧に泥を乗せられ、油紙をぴったり密着させられていくニコでした。
その隣では20代代表として、テオが捕まっています。
「あら、テオ様。お若いとはいえ、日頃の職務でお肌も疲れていらっしゃいますでしょう? こちらへお掛けになって」
「え? い、いや……って、侍女長、なんで俺まで椅子に座らされて……うわッ、冷た……いや、温かい!?」
テオは困惑する間もなく、メイドたちによって手際よく顔面に泥を塗られ、油紙でペタッと『フタ』をされ身動きが取れなくなりました。
その様子をセバスは、眼鏡の奥を光らせて手帳に筆を走らせています。
「……なるほど。『20代男性の肌における油紙の密閉効果』ならびに『そばかすへのアプローチ』……素晴らしい実地データです」
「あら?……違うわよ。真に必要なデータは、40代からですわ。椅子にお座りになって」
「フフ……、わかりました。お願い致します」
「えぇ。よろしくてよ」
セバスと侍女長は互いに微笑み合い、『検証』
をペタペタと始めるのでした。
それから10分ほど経過すると……。
「そろそろ時間ですわね」
侍女長が洗顔をするよう声かけすると、女性たちがぬるま湯を男性たちに渡します。
「……では皆様、『洗い流し』をお願いします」
侍女長の掛け声を合図に、男たちは一斉に『洗い流し』をし、布を押し当て拭いました。
するとあちらこちらから驚きと感嘆の声が上がります。
騎士たちの潮風に晒され日焼けした肌は、引き締まった健康的な小麦色のツヤ肌(極上の男前)へと一変していました。
洗顔後に互いに顔を見合せ、自分の顔を触って呆然とする騎士たちの横で、同じように呆然と鏡を覗き込む男性使用人たち。
日々の忙しさや屋敷内の乾燥、夜勤などで、どことなく顔色が青白く、目の下にうっすらクマができて「お疲れモード」だった肌が、泥の保温・血行促進効果で顔色にパッと健康的な赤みと透明感が戻っています。
目の下のどんよりした影も綺麗に消失し、肌のキメは整ったことで、清潔感と気品に満ちあふれていました。
そんな男たちの劇的な変わりように、侍女長は満足げに胸を張ります。
「フフ……完璧な検証結果ですわね。潮風や日差しで傷んだお肌の修復効果も実証されましたわ♪」
その隣でセバスが、静かに眼鏡を持ち上げながら声をかけます。
「ふむ……完璧な仕上がりですね。屋敷に仕える者たるもの、常に清潔感と洗練された佇まいを維持するのは当然の嗜みです」
「は、はいッ! セバス様! 毎朝これで顔を洗いたいです!」
熱血指導を受けた使用人たちが敬礼する横で、マルクスはドン引きしながらポツリと呟きました。
「……うわぁ、使用人たちの美意識まで一気に書き換えられちゃってるよ……」
「……見た目が『不死者の執事』だな。そういや、旦那を見てねぇな?」
シワがすっかり消え去り、瑞々しい肌艶で「年齢不詳」の美貌を取り戻したセバスを見て、ガツも思わずポツリと呟き、ヴィクトールの存在を思い出しました。
「……『闇の魔王』のご降臨さ。つうかあんたも大概だよな!」
頑固な脂気が抜けて一皮剥けたガツの姿は、威圧感まで増したのか、もはや『封印から解き放たれた魔王』そのものです。
マルクスが呆れたように、ガツを見て言うと……。
「クックックッ……、そういうお前もバッチリ『闇の参謀』様だ」
「……もう少し捻りがほしいんですけどねぇ」
ブツブツ文句を言うマルクスに、片眉を上げてガツは笑うのでした。
「……塗り方、温度、油紙の密着効果、そして肌への劇的な改善。手技(技術)は完璧に習得いたしましたわ。これで私どもの『極上の美』も約束されたようなもの」
「ええ、実に見事な実地データが得られました」
ツヤツヤの仕上がりとなったセバスが手帳をパタンと閉じ、侍女長と顔を見合わせて満足そうに微笑み合いました。
一方で……。
「……テオさん」
「何も言うな、ニコ。言うと自分を傷つけるだけです」
そばかすの周りの肌がワントーン明るく透明感が増し、手に吸い付くような「モチモチ感」になったニコ。
そばかすは消えずとも、むしろ可愛らしくチャーミングなアクセントに変化しています。
テオは泥の消炎・保温効果ですっきりと鎮静し、カサつきと赤みが消えて「つるん」とした健康的な若々しい肌を取り戻しました。
しかしあまりにもガツ、マルクス、セバスの、カリスマ的存在感と劇的な変化に、置いてきぼりにされてしまった二人は……。
「僕たち、完全に最高の実験台にされましたよね……?」
「……まあ、肌がつるつるになったから良しとしましょう……」
美肌化して「ゆで卵」になったニコと、つるつるになったテオは、「僕たち、魔王城に捕まった犠牲者ですよね……?」と言わんばかりに遠い目をするのです。
出来上がりに顔を輝かせる女性陣と、一皮むけて妙に爽やかになった男たち……。
隠しバルコニーでは、どこかシュールで満足げな空気が漂いました。
「……カリスマ負け、……若気の至り、残念」
しかし遠目で見守っていたシクだけは、若者代表の敗北に、静かに頭を垂れるのでした。
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