表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな賢者は隠しごと 〜三歳のレオンは、のほほんと照らす〜  作者: マシュマロ羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
114/117

在りし日の姿……?!

いつも応援ありがとうございます!

プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。

でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و

少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。

これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

 





 精神疲労からぼぉっと意識を霞ませていたヴィクトールは、顔の皮脂がじわじわと持っていかれるような、謎の突っ張り感に眉をひそめました。


「……そろそろ落とし時か?」


 ──時刻は深夜。

 屋敷の皆が寝静まり始めた頃です。

 乾き始めた泥の不快感に重い腰を上げると、セバスが用意しておいてくれた濡れ布を手に取りました。

 そっと顔に湿った布を押し当て、張りついた泥をじわじわとふやかしていきます。

 力を入れずにそっと泥をぬぐい取り、洗面鉢に張ったぬるま湯で静かに顔をすすぎました。


「ハァー……」


 部屋へ戻ったヴィクトールは、ピッチャーからコップに水を注ぎ、乾いた喉を潤します。

 窓の外からは、相変わらず『シュゥゥゥー……ッ』と大地の脈動のような音が聞こえていました。


『ヴィクトール、こんなに生き生きとした大地の息吹を感じられる場所はないわ!』


(……レオンはその大地の息吹を使い、料理を作ってみせたよ。もちろんニコが助手になってね)


 若かりし頃を思い出しながら、亡き愛妻エレーナに心の中で語りかける――。


 最近はその頻度が上がり、愚痴から悩み、そして相談にまで至っていました。


(すまない、エレーナ。私が不甲斐ないばかりに、死んだ君にまで相談する私を許してくれ)


 今までサボっていたツケが、今まさに押し寄せてきていることを痛感するヴィクトールでした。


(……本当に、今日は疲れた。もう駄目だ……)


 鏡で己の顔を確認する気力すら残っていません。

 限界を迎えたヴィクトールは、吸い込まれるようにベッドへと倒れ込み、泥のように深い眠りについたのでした。





 ◇ ◇ ◇






 ──翌朝。


 ヴァルエール侯爵家の朝は早く──。


 アルベルトは朝早くから騎士団に交じり、汗を流して訓練に励んでいました。

 領地の騎士たちは、複雑な地形に対応するため、ありとあらゆる乗り物を乗りこなす知識と技術が求められます。そのため領内にいる間、アルベルトは騎士たちから熱心に指導を受けているのです。


「……相変わらずですね? 今日くらい休んでもいいんですよ?」


 ちょうど訓練場の前を通ったマルクスが、アルベルトに声をかけました。

 いつもなら朝食が終わる頃に姿を見せるマルクスが、今日はすこぶる早めの出勤です。


「う~ん……、しかし昨日は見てただけだし、俺自身は何もしてない。それで休んじゃダメだろう」


 汗をかいた顔を服の裾で拭い、アルベルトは暑そうにパタパタと服を揺らして風を送ります。


「……まったく、クソ真面目ですね! してるしてないじゃなく、行ったか行ってないかですよ。いいですか? 何事にもメリハリが大事なんです。息を吐いた後に、もう一度息を吐くような真似は難しいでしょう。昨日は精神的にキツかったと思いますよ」


 マルクスは呆れたようにアルベルトを窘めると、周りの騎士に声をかけて、彼を連れ出しました。

 向かった先は、海側に面した傾斜にある果樹園です。


「せっかく身体を動かすなら、こちらがおすすめですよ。屋敷からここまで歩き、潮風を感じながら広大な景色を眺め、気分転換にたわわに実る果実の様子を見る。もちろん傾斜ですから下半身の鍛錬にもなりますし、果実の見極めなど五感を刺激します。ついでに朝食のフルーツをお願いしますね!」


 マルクスは言うだけ言うと、またスタスタと屋敷へと戻っていきました。

 彼はいつも掴みどころがなく、飄々としながらも鋭い一手を放ちます。

 それはアルベルトにとって見本であり、憧れの理想像でした。

 アルベルトはマルクスの後ろ姿を見送りながら、知らず知らずのうちに自分を追い詰めていたことを自覚します。


 ──昨日、あの地獄のような灼熱の沼地で目にした、ガツやシク、そしてテオ、ガウリなど配合員予定の者たち──。


 初めて向かった危険な場所で、ギャアギャアと文句を言いながらも、彼らの反射的な身体の動かし方はキレがあり、回避の技術や俊敏さ、意識を四方八方に飛ばして迂回する立ち回りなど、一等最初の立ち振る舞いに魅了されました。


 仲良くしているシクはその中でも群を抜く逸材で、気づけばあの危険な沼地を縦横無尽に徘徊していて――……。


「……はぁ」


 比べるのは間違っていると分かっていても、負けたくないと思ってしまう自分がいたのでした。





 ◇ ◇ ◇






 一方、屋敷では使用人たちが、主人らの朝を出迎える準備を始めていました。

 ぐっすり寝ていたヴィクトールは、のんびりと朝を迎えるつもりでしたが、そうは問屋が卸しません。


「……セ、セバス、ヤバくないか?」


「はぁ、毎回のことながら……さすがレオン様です」


「い、いや違うぞ。たぶんアルベルト様の奇跡ミラクルも上乗せしてだなぁ……」


「……どちらにしろ、こちらも秘匿事項として……少しの間ご親戚の方というのはいかがでしょうか?」


「その猿芝居に乗りたいが、無理があるぞ……」


 頭の上で側近たちがグダグダと喋る煩わしさに、ヴィクトールはゆっくりと目を覚まします。

 視界に入ってきた二人は、ヴィクトールの顔を見下ろしながら、なおもブツブツと会話を続けていました。


「……なるほど、20代後半……エレーナ様と一番落ち着いて愛し合っていた頃ですね」


「き、気持ちわるぅー! 『我が妻エレーナは今日も可憐だ』とか真面目な顔で惚気てた頃の、デレデレした顔だ──!!!」


 ニヤリと愉しげに笑うセバスと、心底ドン引きしたように青ざめるマルクス……。


 ヴィクトールは眉を顰めてイラッとし、すぐ横にあった枕を掴むと、二人に向かって勢いよく投げつけました。


「だ、誰がデレデレだ! 私は至極当然の事実を口にしていただけだ! ……だいたいなんなんだ貴様らは! 煩くて目を覚ませば覗き込む上にドアップだし、起き抜け早々人の顔を見て、気持ちわるぅとはなんだ!」


 青筋を立てて怒鳴り散らすと、マルクスは「だ、だってさぁ……」と必死な顔で手鏡を差し出してきました。


 ヴィクトールは二人を睨み付けたまま手鏡を受け取り、覗き込みます。

 そこに写っていたのは、自分にそっくりな若い青年の姿でした。


 ちょうど娘であるカトリーヌが生まれた頃――エレーナと互いに支え合いながら、穏やかな愛を育んでいた時期の自分です。


(……懐かしいな。あの頃はエレーナもいて、毎日が輝いていた……って、……?!)


 鏡の中の青年が、愕然とした表情でヴィクトールを見つめ返してきます。

 顔を引き攣らせれば同じように引き攣り、片手を額にあてれば同じようにあて、引きつった笑いを向けていました。


「……おい、一体なにが起こってるんだ?」


 日頃の泥石鹸によって目の下のクマは消え、肌ツヤもすでに良くなっていました。


 そこへ『泥パック』という猛烈なブーストがかかった結果――シワがふっくらと持ち上がり、くすみが完全に消え去ったことで、20代後半の美青年の面影が強烈に復活してしまっていたのです。


 毛穴は綺麗に洗浄され、肌ツヤと透明感(美白効果)も抜群。


 本人は男性的なニヒルな笑みを浮かべているつもりでも、あまりにも若々しく輝く肌のせいで、まるで危険な色香を放つ「不老の支配者ヴァンパイア」のような風情へと変貌を遂げていました。


 大人の男らしい渋みが消し飛んだ結果、そこにあったのは威圧感を放つ闇の魔王の降臨です。


「……」


 絶句して呆然とするヴィクトールに対して、マルクスがぽつりと言いました。


「た、たぶんですが……閣下の周りだけ、時空が歪んでるような……?」


 指を立ててヘラッと笑うマルクスを、ヴィクトールは馬鹿にしたように鼻で笑い捨てます。


 その横ではセバスが手元の『泥パック』を愛おしそうに見つめながら、愉しい算段を企てていました。


「……最悪だ」


 頭を抱えるヴィクトールに、「いや、若返ってるのに最悪とは?」と呆れ顔の二人。

ヴィクトールはジロリと彼らを睨み付けると、低く響く声で言い放ちました。


「ならばお前らも、すればいいではないか?」


「「……?!」」


 言われた二人は一瞬身を固めた後――互いに顔を見合わせ、何やら真剣な表情でブツブツと考え始めました。


「……マルクス様、効能の調整はできないのでしょうか? つける量や濃度の加減で変化するのか、個人差なのかが分からないとデメリットになりかねません」


「だよなぁ。30前後なら……まぁいいかな。薄めて使えば『ちょっと肌ツヤが良くなる程度』に抑えられるかな?」


 真剣に悩み始めた二人の様子に、ヴィクトールは「そうじゃない」と困惑するばかりです。


 現在進行形で、泥石鹸の件だけでも各国の探り合いと牽制にウンザリしている最中でした。この『お宝の泥』まで市場に出せば、さらに収拾がつかなくなるのは目に見えています。


「……裏交渉で『ここぞ』という時に切る、最高の外交カードでございますね」


 ヴィクトールの心情を察したセバスが嬉しそうに言うと、マルクスと共にニヤリと嫌な笑みを浮かべました。


「よし、決まりだな! 閣下、さっそく『検証』と『調整』の実験に入ります!」


「……ハッ?」


「男女混ぜ合わせて屋敷内から数人募りましょう。もちろん非公開の極秘実験として、データを取らなければなりません!」


「……なら、セバスの王都行きはなしだな」


「ええ、ブルーノに教会への対処はお願いしましょう。この泥パックのデータなくして王都へは戻れません」


「お、おい。ちょっと待て……!」


 ヴィクトールの制止も虚しく、完全に『最強の外交兵器データ収集モード』に入った側近二人は、楽しそうに部屋を飛び出していきました。


 残されたのは、モチモチツヤツヤの美肌を誇る青年ヴィクトールただひとり……。


「……とりあえず、親戚ということにしようかな……」


 深く溜息をつくと、諦めたように再び布団へ潜り込んだのでした。






読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

たくさんのブクマやポイント嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

とても励みになり、がんばろうと思いです。

メールもとても嬉しくネタになることも♪

誤字脱字報告ありがとうございます。(о´∀`о)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ