レオンの『あっち』は、一筋縄ではない。
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
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レオンが工房で「やらかして」いる頃、アルベルト一行は彼が向かった「あっち」の領域へ足を踏み入れていました。
湿地特有の猛烈な蚊に襲われ、苛立ちを隠せないアルベルトの首筋へ、シクが手際よく「ミントアルコール」をプシューと吹き付けています。
「……成敗」
「……レオンの真似か?」
アルベルトの問いに、シクは無表情のまま、しかし目元をわずかに細めて愉快そうに弧を描いていました。
──鬱蒼とした緑の奥地。
そこは侵入者を拒絶するように沈黙しています。
地面か、あるいは灼熱の沼地か――……。
生い茂る草木と薄暗さのせいで、足元の境界は判別がつきません。
視界の先に、不気味に蠢く大小の奇妙な山の中心部では、胎動を刻むように泥を吹き出していました。
別の場所では灰色の膜が、ボコッ、ボコッと鈍い音を立て、岩の隙間からはシューシューと蒸気が噴き上げます。
その熱と湯気が容赦なく肌にまとわりつくのです。
鼻を突く土臭さと、硫黄臭──。
息を潜める傍らで沼の粘膜を弾くたびに、中から「何か」が這い出しそうな気配に、言いようのない嫌悪が胸を覆います。
偽りの大地を踏めば、ズズ…と地獄の底へと引きずり込まれるだろう。
それはかつて彼らが忌わしき罠に足を取られ、無力に沈んだ苦々しい記憶を、否応なく呼び起こす光景でした。
「うげぇー、まじかよ!!スケールが嫌すぎる!!!」
心底嫌そうな顔で叫ぶガツと、シクは力なく項を垂れます。
「……帰りたい。ネバネバ……うんざり」
バルトは淡々と、沼地の危険性や吐き出される毒の有無、そして安全な判断方法……。
気まぐれに沼地が出現する事を説き、足をつく前に必ず、棒を使って確認する事など、底なしな上に、温度の高さも伝えます。
「とにかく油断大敵!踏み外したら最後、地獄へ一直線です!!」
「……肌に付いた泥は最悪だ。尋常ではない熱さが離れず、まとわりつくんだから」
バルトとアルベルトの説明に、愕然となる一行へ、容赦なくレオンが言った事を伝えました。
「とにかくレオンは、プシュプシュと言っていた。プシュプシュが、スゴらしい」
アルベルトは近づけるだけ距離を保ちつつ、レオンの言う『プシュプシュ』を探ります。
テオたち配合員予定の者たちは、棒を持つ手が震えました。
しかし自然の作った泥山を眺め、恐る恐る棒で突つくと──。
見た印象は硬めに見える山ですが、棒が触れた途端、脆く崩れ去ります。
さらにプシュッと、中から液体を吐き出され、慌てて飛び退のき後退すると、今度は背後の底なし沼に嵌りそうになりました。
「……?うおぉー……ッ!!!」
「えっ?……うわっ!!」
とにかくやたらと、動かない方が良さそうです。
レオンがこだわった理由も泥だからでしょうか……。
しかし目の前にある根源的な恐怖の前に、そんな詮索はどうでもいいのです。
「あのガキ、何考えてんだ!これをどうしろって言うんだよ!!」
湯気を吸えばヒリつかせ、地面かと思い突くと、沈んで行く棒の先に絶望します。
「……もう、何もかも嫌だ」
ジャックはブチ切れ喚き散らかし、ガウリは泣きそうな顔で同意します。
「……やっぱりな。嫌な予感したんだよ。まったく天才ってのは、変人ばかりだな」
光景を眺めながらガツは首の後ろをかき、王都にいる天才の顔が思い浮かぶ──。
その言葉に、配合員予定者たちはどこか腑に落ちたような顔をしました。
その様子にガツが「どうした?」と尋ねると、テオは黄昏たように、ボコボコと弾ける泥沼を見て答えます。
「ゼロンさんとレオン様、類友ですよね。『トラップ・プリンス』なレオン様はたぶん、泥より罠の精度を上げたいだけかもしれません」
どこか疲れ果てたような配合員予定者たち……。
そんな周囲をそっちのけで、シクは青ざめた顔で辺りを見渡します。
「レオン様の言うキラキラは、……どこ?」
目的を達成しようと、気持ちを奮い立たせるシクと、疲弊していく仲間たちの様子に、アルベルトは気まずそう顔を浮かべ、申し訳なさげに切り出しました。
「すまん。罠の配置にレオンは関係ない。……落とし穴を掘った時に考えたんだ。これほど理想的な落とし穴はないと……。だから無意識にモデルにしたんだと思う。……それは俺だけじゃない」
アルベルトの無邪気な、容赦のない告白に、彼らは深いため息をつくしかありません。
──レオンはただ純粋に、泥そのものにこだわっていた。
そして自分たちを追い詰めているこの沼地こそが、「忌々しい罠」のモデルで、今、目の前に広がっているという事です。
「……知りたくなかった」
テオがポツリと呟き、他の者たちも呆然と立ち尽くします。
──バシィィィン─……!!!
バルトが思わずアルベルトの頭を思いっきり叩き、現場の空気がほんの一瞬だけ引き戻すことができました。
「……痛っ! なんだよ、バルト!」
「……バカ者が! 今それを明かしてどうするのです! 彼らの精神を追い詰めてどうする気ですか!」
バルトの呆れ返った叱責と、アルベルトのどこか呑気な謝罪に、もはや恐怖通り越して乾いた笑いを漏らすしかありません。
「……シク、坊の言う『キラキラ』はカタチじゃねぇ。だが、……とりあえず泥を採取しよう。どこかいい所はなかったか?」
未だウロウロと歩き回り、『キラキラ』を探しているシクに、ガツは聞きました。
顔色が悪い癖に、目的を忠実に実行しようとするシクは、足元を用心しながらあちこちと移動しているのです。
「……泥山がたくさんある辺り、ボコボコ勢いない、周りの泥山から取り易い、……はず?」
コテッと首を傾げ、一瞬眉間に皺を作ったシクに、ガツは訝しげな眼差しを送ります。
バルトはシクが示した場所を思い浮かべ、だいぶ昔の古参の沼地であり、噴出も少ない落ち着ついた所だと思い出しました。
「……なるほど、あちらの泥山であれば、足場も落ち着いてますし、不意の噴出もありません。シク、よく見つけましたね」
バルトは少し表情を和らげ、シクの判断に感心したように頷きます。
「ですが、油断は禁物です。見た目が落ち着いても、中身は同じです。高温であることはもちろん、あの泥を素手で触るなど言語道断です。少しでも肌に触れれば、ただでは済みませんよ」
バルトの警告に、テオたちはゴクリと唾を呑み込み、慎重に木製のスコップや採取用の桶を構え直しました。
シクが先頭で足場を確認しつつ、前に進みます。
比較的落ち着いた場所とはいえ、相変わらず似た光景が広がっていました。
やはり生い茂る緑と、鈍く光る黒茶けた泥の大地です。
足元には特有の泥沼が絶えずボコッ、ボコッと重い音を立てて泡を弾き、その表面では灰色の膜が気まぐれに破れています。
岩の隙間からはシューシューと音を立て、熱い蒸気が噴き出し、あたり一帯に立ち込める土臭さと硫黄臭が肌をヒリつかせました。
頭上を覆う薄暗い木々の隙間からは直射日光が遮られ、緩くと立ち上る湯気が湿った空気と混ざり、ジメジメとした独特の静寂と緊張感をもたらします。
テオは流れる汗を手で拭いながら、疑わしげな目を向けました。
「……シクさん。さほど変わった様には見えませんが?」
「期待した俺がバカだった。……帰りたい」
ガウリは小さく悪態をつき、口元を引き攣らせます。
バルトはそんな彼らの様子を横目で一瞥して、静かに警戒して顔を引き締めました。
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