みんなでものづくり♪
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
「違うクサイさん」という言葉に、ヴィクトールはたじろぎました。
「まだあるのか、レオン……。この石鹸から漂う油の匂いか?」
レオンは工房の片隅で、冷えて固まる燃えかすの灰を見つめています。
彼は小さく首を振り、廃油の樽と、職人たちが使っている「炭の山」を交互に見ました。
「とうさま、石鹸、廃油と灰、そして泥をまぜまぜね? う~ん……、灰を、ちがう?木炭『クサイさん』に、ドンッとくっつくの!」
レオンは炭を一つ拾い上げると、ブンブン振り回します。
「炭、お外でつくるの。泥、上に置くの。で、一緒にやくのよ。炭と泥がお手てつないで、クサイさんやっつける!」
どうにか立ち直ったマルクスは、羽根ペンを動かしながら口を挟みました。
「レオン様、それは木材と泥を一緒に、つまり焼くということでしょうか? 」
レオンは「あい!いっしょ。おそとでよ」と、裏庭を指差します。
ヴィクトールは眉間に皺を寄せて、額の汗を拭いました。
(……これは、ヤバいな。……だんだん理解が追いつけなくなって来たぞ……)
「できた炭でお汁つくるのよ。焼けた泥も力かしてくれるの。『重たいクサイさん』二人でパクパク食べるから、ナイナイね」
「……つまり『クサイさん』がいない石鹸が、出来上がるということか?」
「しょう!あとね。キレイキレイもアップしゅるの!」
エッヘン、と胸を張るレオンが可愛くてたまらない──。
ヴィクトールは眩暈すら覚えるほどの感動を胸に抱きます。
「材料」ばかり注目していたヴィクトールに対して、レオンは工程そのものを設計していたのです。
実際にレオンは、ゴミを焼いた熱で調理し、地熱を利用した調理もしています。
他には地熱の流れを読み湯処を作るなど……。
(ハハハ……、失敗作の再利用、新製品開発、コストカット、効果の増大のうえ、収益のアップときたか。……今回は凄まじいな)
それらすべてをお遊び感覚でやってのける息子の叡智に、ヴィクトールの親バカ性能が臨界点を超えました。
「レオン、お前は本当に……!」
ヴィクトールは感極まってレオンを抱き上げ、そのまま勢いよくクルクルと回ります。
「う?…うわぁーい!」
突然のクルクルにレオンは、大喜びではしゃぐのです。
ヴィクトールはレオンの耳を塞ぐように抱き寄せると、ゆっくりと職人たちを見渡します。
先ほどまで慈愛に満ちた父親の姿は消え、氷のような冷ややかな領主へと変貌し、低く、地を這うような声で伝えました。
「……お前ら、よく聞け。今あったことは忘れろ!もし漏らせば、……家族共ども、それなりの地獄を味わう事になるだろう。……わかったな?」
ヴィクトールがうっすらと微笑みを浮かべ、獲物を狙う猛獣のような鋭い瞳で、脅し文句を告げたのです。
マルクスも涼しげに微笑み、剣の柄に手を置いて念押しします。
「いいですか、皆さん。無為に広めることは許されません。……お分かりですね?」
背後に控えた騎士たちからもカチリ…、という金属の擦れる音がし、職人たちは青ざめ、呼吸すら忘れたように深く首を垂れました。
ヴィクトールは返事すら求めず、満足げに鼻を鳴らすと、腕の中で無邪気に笑うレオンを抱き直します。
ヴィクトールの腕の中でレオンだけが、何が起きたのかも知らずに「くるくる、もっとやるー!」と無邪気に笑い声を上げていました。
領主として非情に振る舞いながらも、幼い息子を傷つけまいと、大切に慈しんでいるのがわかります。
我が子を何者からも守ろうとするヴィクトールの姿を、父親としての誓いと願いを、職人たちは見たのです。
「……閣下」
年配の職人が、ふと声を漏らしました。
余りにも天才的な息子を持つ、親としての恐怖……、誰にも盗ませず、決して危険な目に遭わせず、ただ健やかに育て上げたいという、そのあまりに純粋な祈り……。
まぶたを閉じて、泣きたくなる気持ちを抑えます。
「……閣下、俺たちはこれで、おまんまを食べている身……。親が子を思う気持ちは、子を持つ者なら分かります」
職人たちは深く、重々しく首を垂れました。
「お坊ちゃまの健やかな成長を願う、閣下の『親心』……両方とも、俺たちは責任を持って守り抜きましょう。……俺たち職人の意地を、どうか信じてくだされ!」
その場にいた職人たちの目には慈しみと力強さがあり、同じ親として、あるいは一つの職人集団としての「誓い」でした。
マルクスは静かに安堵の息を吐き、剣の柄から手を離すと、職人たちに向かって小さく敬意を込めて一礼します。
レオンは、大人の間で交わされた深いやり取りなど知らず、ヴィクトールに抱きつき、「とうさま、あったかいねぇ」と無邪気に笑いました。
ヴィクトールはその温もりを抱きしめ、職人たちに向かって、領主としてではなく、一人の父親として小さく頷きます。
「……さっきはすまなかった」
ヴィクトールが職人たちに頭を下げ驚きますが、それと同時に胸を打たれました。
「脅して窯が作れるとは思っていない。……だが、レオンの考えたものが、領地の為になるのは事実だ。皆の力を貸して欲しい」
その言葉を聞いた職人たちは、緊張感から「プロとしての矜持」へと変わります。
「閣下、レオン坊ちゃんの考える設計図、我々が意地でも形にしてみせましょう。……歴史に残るような、最高傑作ですから……」
職人たちの目つきが、「自分たちの技を証明しよう」という職人の眼差しに変わっていました。
ヴィクトールは、肩の上で眠り始めたレオンを優しく撫でながら確信します。
(ああ、この窯は……必ず成功するだろう)
ヴィクトールは、領主として、父親として、新たな決意を胸に深く刻むのでした。
トコトコ、ポテポテ……♪
工房の裏庭に出たレオンは、あちこちと周辺を見て回ります。
ヴィクトールはガーデンテーブルに紙を置き重しに石を乗せると、レオンを手招きして呼びました。
レオンはトコトコと戻って来ると、職人さんが飲み物を持って来ます。
「今日は暑いですし、坊ちゃんも汗をかいてなさる」
この工房は山側を背にして、門前には海が広がっていました。
潮風のべとつきと工房の熱気に、山側の木陰のみどりは居心地よさそうです。
飲み物を騎士が確認しレオンへ渡すと、コクコクと飲み干しました。
「おいちー♪」
レモンシロップを湧水で割った飲み物は、暑かったレオンにとって至福の味です。
ヴィクトールが礼を言っている横で、レオンも「ありがとう♪」と言って、場を癒します。
「……さあ、レオン。思い描いたものを描いてごらん」
ひと心地ついたレオンをヴィクトールが促すと、テーブル席に向かい、慣れない手つきで羽根ペンを握りしめました。
インクがポタりと紙に落ちて、「あ!」とレオンが小首を傾げます。
「あぁ、気にするな。失敗してもいい。好きなように描いてみなさい」
ヴィクトールが優しく笑うと、レオンは「えへへ」と笑って、ペンを走らせ始めました。
その横でマルクスも同じように紙を広げ、レオンの絵を描き写していきます。
「レオン様、……卵みたいな形ですか?」
「う?……下ホリホリよ。で、上で泥を焼くの。これ、しょのまま、つかうのよ?」
「……なるほど、この傾斜のことですか?」
レオンは紙の上に描いた丸い卵型の中に、指でぐいぐいっと斜めの線を書き込みました。
マルクスが「ふむふむ」とメモを取る横で、レオンは飽きたのか、ペンをポンと置いてしまいます。
「あとは、おいちゃんたちが『シュッ』てしゅるの!」
「シュッ、ですか?」
「あい! 焼いて、泥と炭がおててつないぐから、ねぇ~♪」
レオンは身振り手振りを交えて、「火がこうなって、泥がこうなって」と空中で渦を描いています。
言葉はたどたどしいのですが、指先が描く「熱の通り道」は妙に具体的です。
――なるほど、熱をここに溜め、この傾斜で循環させるのか。
マルクスと職人たちは顔を見合せ、思わず吹き出してしまいました。
「……ははっ、なるほど。お坊ちゃまの設計図は、言葉よりもずっと雄弁ですね」
職人たちは肩の力を抜いて、図面を覗き込みます。
さっきの重たい空気はどこへやら、今は共通の『窯づくり』に、ワクワクと胸を踊らせていました。
「お坊ちゃん、傾斜の『シュッ』は、このぐらいで、……どうだい?」
「しょれ! おいちゃん、てんたいよ!」
「てんたい?……あぁ、天才か! 参ったなぁ……、坊ちゃんに褒められちまったよ♪」
へへっと胸を張る職人に、あちこちからからかいの笑い声が広がります。
レオンは職人たちのやる気を出している自覚のないまま、ただ「泥と炭の仲良し窯」を一緒に作ることを楽しんでいました。
職人たちもまた、忘れかけていた純粋なものづくりの楽しさを呼び起こされていたのです。
ヴィクトールは、そんな息子と職人たちの様子を、穏やかな微笑みで見守るのでした。
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