すべて解決!「バッチリなの♪」
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
岬の奥、人目につかない小さな桟橋に、真っ白な帆をたたんだ小型のピンネースが繋がれていました。
レオンが船に乗りたいと言い出した為、マルクスはシーエッグに、一人馬車に乗って向かったのです。
レオンを抱えたまま軽やかにデッキへ飛び移るヴィクトールに、騎士たちは戸惑いつつも、護衛の配置につきます。
真っ白な帆がふわりと海風にはらむ姿を見たレオンに、お絵かきしたくてウズウズです。
「とうさま! ……ボク、お絵かきすっごく上手なんだよ。あそこに、ガォーさん、描いていい?」
レオンが指を差して聞くと、ヴィクトールは帆とレオンを交互に見比べ、小さく肩をすくめて苦笑しました。
「……帆が汚れるのは構わんが、ガォーさんが帆の上で迷子にならないようにするんだぞ」
騎士たちが、帆の端を少しだけヤードからほどき、帆の一部をデッキの上に広げます。
レオンは騎士から手渡された木炭を握りしめ、小さな足取りで帆の根元へと駆け寄ります。
船の揺れを感じながら、四つん這いになり、お家で待っているガォーさんを思い浮かべながら、レオンは夢中で描きました。
波に揺れ時々に騎士に支えて貰い、紙からはみ出すほどに描かれた、歪なまる顔につぶらな瞳、その割に荒々しく跳ねるようなたてがみ。
「とうさま! 見て、ガォーさんよ!」
騎士たちが手際よくロープを締め直し、マストを上げます。
「さあ、ご令息の『風』を掲げよ!」
ヴィクトールが帆を見上げると、そこには不格好ながらも、確かな生命力を宿したライオンの絵が描かれていました。
「……ガォーさんか? なるほど、ならこれは『ガォー船』だな」
「お馬なガォーさんは、お家にいるの。だから、ボク、ここにガォーさんしたの!」
自分の描いた絵が海風を受けて、力強く帆が膨らみ動くと、まるで帆の上でガォーさんが吠えて威嚇しているように見えます。
船長や騎士たちも、そのあまりも愛嬌のある勇ましさに顔を綻ばせ、一人が「では、ガォー船、出港でございます!」と声を上げました。
帆がガタンと風を孕み、船がゆっくりと岸を離れていきます。
海面がすぐそこまで迫り、船が波を切り裂くたびに、しぶきがレオンの頬を叩きました。
「うわぁー、ガォーさん、はやあぁい!!」
ヴィクトールは喜ぶレオンの小さな肩を抱き、ガォーさんの帆が空を切り裂くのを眺めながら、思わず口元を緩めました。
「……オイ、お前たち。この船の舵取りをしっかり頼むぞ。かなりやんちゃに振り回されるからな」
ヴィクトールがレオンを見ながら肩をすくめると、騎士たちは「承知!」と言いながら笑いました。
レオンは自分の描いたガォーさんを振り返り、シーエッグへ向かう冒険の幕開けに、期待で胸を弾ませています。
商業エリア、シーエッグにある石鹸工房では、熱気と、灰のツンとした匂い、そして廃油独特の油臭さに満ちていました。
この工房の旧運営陣は、先の「泥石鹸騒動」で隣国との内通や詐欺で捕縛され、現在は侯爵家が買い取り、研究工房として運営しています。
ヴィクトールはマルクスを従え、職人たちが大釜をかき混ぜる様子を、真剣な眼差しで見つめていました。
その首にしがみついたままレオンは、目を丸くして製造工程を「ほへー…」と眺め、だんだんと顔をしかめます。
(ローズマリーが入っても、廃油の香りで重たくてキツい……)
「閣下、ご覧の通りでございます。ここでは街から集めた廃油と木灰、そしてこの土地の泥、海から集めたものを混ぜ、庶民向けの頑固な汚れ用『泥固形石鹸』を作っております。サボンソウに比べれば、コストは百分の一以下です」
マルクスが誇らしげに説明するのを、ヴィクトールは深く頷きながら聞いていました。
「フム。これならサボンソウをすべて身体用に温存し、洗濯用はこれで大丈夫だろう。供給面の懸念は完全に払拭できそうだ……」
大人がそんな難しいお金や供給の話をしている間、レオンの視線は別のところにくぎ付けでした。
大釜からドロドロに煮立った石鹸液を、四角い型へと流します。
職人たちは釜の底に残った「重い泥の塊」を見て、やれやれと首を振りました。
「ちぇっ、また底に泥のカスが溜まっちまった。これじゃあ型枠に流し込めねえ。ほら、そこのゴミ山に捨てちまえ!」
工場の片隅には、固まらない『ドロドロ』の液体を入れたバケツと、水に溶けずに底に残った『泥カス』のお山がありました。
それを見たレオンの頭は、お屋敷での記憶がバババッと繋がり始めたのです。
『お父様はベタベタやスベスベをお掃除道具にしたいそうよ』
『ベタベタあぶない。やりなおし!』
『防具がダメになるだろう。これは高いんだぞ!』
(……あ。そっか!)
レオンは父親を叩き下ろして貰うと、トコトコと『泥カス』の前にしゃがみ込み、小さな指でツンツンと触り始め、隣りのバケツも覗き込みます。
「レオン、 急にどうした?服が汚れるぞ」
ヴィクトールが不思議そうに声をかけると、レオンは立ち上がり、汚れた手を突き出し、満面の笑顔で振り返りました。
「おとーさま! これ、ゴミじゃないよ! お宝なの!」
「……お宝ですか?」
マルクスが目をパチクリさせると、レオンは「そう!」と大きく頷き、液が入ったバケツを指さします。
「あのね、『ベタベタ』あぶないから、『やり直し』ね。でも、これ『ドロドロ』お水のアワアワよ。そのままドボンして、ゴシゴシしたらいいの」
レオンはモップをかけるフリをして、一生懸命教えました。
「なっ……!?」
マルクスが息を呑み愕然とします。
「固まらないから失敗作(不良品)」と思い込んでいました。
しかし最初から液体なら、広大な屋敷や城の床をモップがけするのに、これほど便利な商品はありません。
「あとね!」
レオンはさらに調子を上げて、足元の『泥カス』のお山を指さします。
「これ!ヌルヌルザラザラなの。お鍋ゴシゴシしたら、ツルツルのピカピカよ!ニコとマルコが、よろこぶの!」
「な、鍋の焦げ落とし……、研磨洗浄か!?」
ヴィクトールの目がカッと見開かれました。
遠征のおり、鍋の焦げ落としに経験があったヴィクトールは、あれが楽になるということを瞬時に理解します。
しかし、レオンの快進撃は止まりません。
最後に、職人が切り分けていた完成品、綿や麻といった生地の「洗濯用泥石鹸」に近づき、それを両手で持ち上げました。
「いちばん凄いのは、これ!」
「レオン様、それは庶民用の安い洗濯石鹸ですが……」
職人が恐る恐る言うと、レオンはきっぱりと首を横に振ります。
「ちがう! これ、あぶらいっぱいね。にぃちゃ、騎士のクサイさんいっぱい。ボク、めっ!した。これ、バッチリなの!」
レオンは満面の笑みで、「にぃちゃのおみやげなの♪」と喜びました。
それを聞いていたヴィクトールは、アルベルトに制裁をしていたレオンを思い出していました。
(たしか発端は、アルベルトの武具だったか……。)
胸当てや篭手など革製品は、どうしても匂いが染み付いて、こもりがちになります。
「これ、あぶらだもん!クサイさんないないして、ツヤツヤしゅるの。お馬さんの道具、ツヤツヤよ。お馬さんもクサイさんいなくて、バンザーイしゅるの♪」
「革製品を……油分で補給しながら、泥で擦り洗うのか……?」
「う?ドロさん、クサイさんと、おててつなぐのよ?」
ヴィクトールがレオンに問えば、首を傾げてのほほんといつものように、なんでもない事のように答えるレオン。
その知識と閃きがいかに凄く、神がかっているのかを全く理解していません。
静まり返る工房の中で、ヴィクトールは完全に沈黙していました。
マルクスは手元の書類をバサバサと落とし、職人たちは開いた口が塞がりません。
ただ「サボンソウの代用品」の様子を見に来ただけの視察でした。
それが、一緒に連れてきた息子の「ぼーっとした観察」によって、【住宅用液体洗剤】【厨房用磨き粉】【革用ソープ】という、衛生業界をひっくり返す3大製品が爆誕してしまったのです。
しばらくの沈黙の後、ヴィクトールは自分の額を押さえ、諦めたように、深く、深ーーく溜息をつきました。
「やれやれ……。家事の専門性どころの話ではないな。……マルクス、すぐにこの『上澄み液』と『底の泥』、そして泥石鹸のサンプルを確保し、木漏れ日商会へ送って欲しい」
「は、ははっ! 直ちに!!」
大慌てで動き出すマルクスと職人たち……。
その喧騒の真ん中で、レオンは「ほへー…」と観察しながら、鼻を摘みました。
(……でも、まだ問題やまやまなの)
自分の手が泥で汚れたのも気づき、眉間に皺を寄せるレオン。
本当の快進撃は、ここからが始まりでした。
「とうさまぁ、でも違うクサイさんいるの!」
ヴィクトールの受難はまだまだ続くのです。
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