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小さな賢者は隠しごと 〜三歳のレオンは、のほほんと照らす〜  作者: マシュマロ羊


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木漏れ日の影に、死神は笑う

いつも応援ありがとうございます!

プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。

でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و

少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。

これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

 






 商会の地下、重厚な薬品の匂いと狂気が満ちるゼロンの調合研究工房では──。


 シオンたちの手によって「納品」されたカイルが、ゼロンによる洗礼を受け、恐怖と激痛に声を枯らし絶叫していました。

 そのすぐ傍らで、化け物たちは信じられないほど緊張感のない世間話を繰り広げています。

 カイルにとって世界の終わりでも、彼らにとってはただの「暇潰し」の背景に過ぎません。


「ひぎぃッ……あ、ガ……ッ!?」


 骨の髄まで響く痛みに、凍りつくような非道な手際で、ゼロンの手は迷いもなく『実験』を進めていきます。

 尋問のプロと自負していたカイルは、いまや天才の知的好奇心を満たす極上のサンプルでしかありません。


 心などもはや解体され、残るは精神崩壊のみ──。


 カイルを覗き込むゼロンの至福に満ちた双眸は、準備した魅惑の調合の仕上がり具合を、心底愉しげに見つめています。


 その阿鼻叫喚のすぐ横では──。


 透かし彫りの扇でパタパタと仰ぐイナリと、退屈そうに髪を弄るぴょんたが、テーブルに用意された温かなお茶を片手に、のんびりと話をしていました。


「ねぇ、レオン様いないとヒマだよねぇ。ガツとシク狡くない? 僕たちもレオン様のいる領地へ行こうよぉ♪」


 胸元を大胆にはだけた派手な衣服を揺らし、ぴょんたが子供のように唇を尖らせます。


 ゼロンの手元で泣き叫ぶカイルなど、完全に素通りして意識すらしません。


「そうですね。確かにレオン様がいらっしゃらないと、この王都は退屈が過ぎます」


 扇を閉じて腰に差し、イナリは漆黒の長髪をまとめた翡翠の簪を『チリン……』と涼しげに鳴らします。


 切れ長の青い目をわずかに和ませ、すぐにふっと妖艶に微笑みました。


「でもですね。勝手に行けば……間違いなくブルーノさんから『制裁』が入りますよ?」


「えぇ~、なんかそれ嫌だ! あの人何気にえげつないからなぁ……」


 戦場を芸術のステージと言い切り、他人の血飛沫を愛でるあの狂気のぴょんたが、その名前を聞いた瞬間、本気で嫌そうな顔をして身を震わせます。


「なら、大人しく我慢しましょう。そろそろガツから状況について、あちらの定期報告がありますよ」


「ちぇー。……ま、たぶんあっちでも、レオン様は色々と『やらかし』てるよね、絶対!」


「フフ……、それはもちろんでしょう。私たちの主なのですから」


 愉しげにクスクスと嗤い合う二人──。


 その会話を、カイルは朦朧とする意識の中で聞いて仕舞いました。


(レオン様……? ガツ……シク……ブルーノ……?)


 いま自分を蹂躙しているのは、王都を裏から支配する怪物たちです。


 そんな彼らが、まるで神を慕うかのように狂信と親愛を込めて呼ぶ『レオン様』という存在──。

 そしてあの狂気に溢れた男さえ怯える、『ブルーノ』という名の男──。


(この怪物たち以上に、また上がいるっていうのか……!?)


 深淵の極み──本当の頭脳と心臓は、ここにはいない。


 絶望という底なしの深みに嵌ったカイルは、精神のすべてが粉々に砕け散ったのです。


「……? おや、少し意識が飛びかけましたね。……イナリ、そこの香水を少し……」


「ハイ、ハイ、ゼロン。……ほら、お得意様? しっかり起きて『教育』を楽しんでくださいね?」


 チリン、と冷たく格調高い鈴の音が、何も映らなくなったカイルの鼓膜へ、……無常に震わせました。





 **********************






 風車の巨大な羽が、ゆっくりと空を切り裂くような音を立てている、ここは、海を見渡す風車の見張り台です。


 アルベルトはレオンを抱き上げて、高台の柵に歩み寄りました。

 眼下に山の草木が生茂り、その先にはヴァルハラ湾の青い海が煌めいて広がっています。


「レオン、見てごらん。これが海だ。俺たちが守り、育てる場所だ!」


 アルベルトは誇らしげな声でレオンに伝えると、キラキラと目を輝かせ、どこまでも広い海をじっと見つめていました。

 カトリーヌが背後からそっと近づいて、レオンの小さな耳元へ囁きました。


「ねえ、レオン。明日の視察は海側の商業エリア、シーエッグへ行くの。外港もあるから大きな船が見れるわよ。それに珍しい食べ物もあるかもしれない」


「……でも、ボク、『あっち』……」


「やっぱり『あっち』がいいのか?」


 顔を下に向け、手をもちょもちょ動かし、レオンはどこか迷っているようです。


「レオン、あそこを見て!木々のあいだを走っているレールと、小さな鉄の箱が見えるかしら?」


 カトリーヌが指差した先。急峻な斜面を縫うようにして、木製のレールが伸びている……。


「あれに乗れば、海まであっという間よ。ここでしか楽しめないし……、明日、父様が視察に行くでしょう?一緒について行けば、乗れるわよ?」


「……ボク、乗りたい、かなぁ」


 おずおずと顔を上げるレオンは、瞳をキラリと光らせ、冒険心に火をつきました。

 アルベルトとカトリーヌは顔を見合わせ、ニンマリとほくそ笑むのです。


 ──翌朝。


 ヴィクトールが上着のボタンを留めながら、執務室から出ると、行く手を阻む小さな影がありました。


「とうさま! ボク、ガタゴト、したい!」


 やる気満々のレオンは、ヴィクトールのズボンを掴んで離しません。

 ヴィクトールは一瞬だけ、背後の使用人たちに視線を投げます。

 トンネルという「隠れ道」もあるのですが、期待に満ちる息子の眼差しにダメとは言えません。


(……やれやれ。アルベルトとカトリーヌが、吹き込んだか……)


 ヴィクトールは隠しきれない苦笑を浮かべ、体躯を屈めて、レオンをひょいと抱き上げました。


「始め遅いが、だんだんと早くなる。大丈夫か?怖くても途中下車は出来ないぞ?」


 スタスタと向かいながら聞くと、鼻息荒く「だいじょうぶ!」と、レオンは応えます。

 無邪気な返事をする息子に、片眉を上げて呆れるヴィクトールでした。


「……まあいい。落ちるなよ、レオン」


 突然現れたヴィクトールに慌てふためき、制止の声を上げようとした騎士たちを、ヴィクトールは片手で制します。

 彼は慣れた手つきで貨物用のモノレールに乗ると、レオンをしっかりと膝の上で抱え込みました。


「では、行くぞ!」


 ガタン、と重い駆動音が響きます。


 風車の動力源が力強く唸り、モノレールは急勾配のレールを滑り出しました。

 柑橘の香りと潮風が顔に当たり、レオンが歓声を上げています。

 風車の高台からアルベルトとカトリーヌが、その姿を見下ろしました。


「……お兄様、気をつけて下さいましね?」


 アルベルトはレオンのいう『あっち』へ行きます。

 その場所は、独特な匂い、不気味な音、そして灼熱の沼が幾つも点在し、地面との境がよくわからない、鬱蒼した奥地にありました。


 ガツとシクから「一度、詳細な確認をしよう」と言われ、テオ、ジャック、ガウリと数名加わり、レオンの『あっち』へ向かいます。


「俺は案内だけで、その沼地に行くのは彼らだ。現地で詳しく説明するのも、バルトだし、俺はただの見学者さ」


 アルベルトは肩を竦め、カトリーヌを見ました。

 

 モノレールがガタゴトと音を立て、山腹をゆっくりと進みます。

 視界には「ヴァリエール家の歴史」とも言える段々畑の光景が飛び込んできました。

 ヴィクトールは膝に乗せたレオンを支えながら、ゆっくりと過ぎる様子に目を細めて説明します。


「見ろ、レオン。あれがザクロだ。秋になれば宝石のような実がつく。その奥にはカリンだ。青い実がついてるな」


 レオンが指差された先には、潮風に葉を揺らすザクロの木々が並び、その奥では薄い産毛に覆われた若い西洋カリンの実が、騎士たちの手によって、丁寧にチェックされていました。


 海からの強風避けに植えられたオリーブの銀葉の下で、騎士たちが剪定鋏を手に、真剣な眼で枝の向きを調整しています。

 彼らの鍛え上げられた体躯は、武具を纏わなくても、研ぎ澄まされた緊張感は保ったままです。


「とうさま、騎士さんたち、がんばってるの」


 レオンの無邪気な声に、ヴィクトールは短く応えます。


「あぁ、剣を振るうだけが騎士ではない。この土と実りを守る事も、彼らの大切な務めなんだ。お前が美味い果実を食えるのも、彼らがこの斜面を大切に管理してくれるからだな」


 モノレールがさらに急勾配を下り、ぶどう棚の緑のトンネルをくぐると、木漏れ日がレオンの頬に斑模様を描き、少しずつ、果樹特有の瑞々しい青葉の香りがひろがります。


 洞窟拠点の入り口近くで、休憩中の騎士がカリンの枝先を整えていました。

 洞窟拠点の騎士たちは、「当主」と「幼子」がモノレールに乗って来たことに驚きます。

 そしてヴィクトールと目が合い、慌てて作業の手を止め、厳粛な面持ちで敬礼したのです。


 騎士たちの汗と、潮騒と、そして若々しい果実たちの匂い……。


 モノレールがガタンと減速して終着点に止まるまで、レオンのキラキラと輝く瞳には、戦う騎士たちの「慈愛なる守護者」、ヴァリエール領ならではの風景を、しっかりと焼き付けます。


「とうさま、楽しかったね!マルクス、まだかな?」



 海風を浴びて頬を上気させたレオンを見て、ヴィクトールはふっと肩の力を抜きます。

 風と機械音に満ちたこの視察も、ヴァリエール家にとっては当たり前の日常でした


(……すっかり忘れていたよ、エレーナ)


 今も昔も変わらぬ数基の風車と、潮風に吹かれ実る果樹園、そして荒々しい岬と砕ける波飛沫……。

 ふわふわのレオンの頭を撫でながら、マルクスを待つヴィクトールの視線は、領地の景色を眺めるのです。








読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

たくさんのブクマやポイント嬉しいです( * ॑꒳ ॑*)

とても励みになり、がんばろうと思いです。

メールもとても嬉しくネタになることも♪

誤字脱字報告ありがとうございます。(о´∀`о)

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