穏やかの中の思い
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
深夜、書斎の重厚な扉の向こうでは、ヴィクトールとガツに加え、役割を終えたセバス、バルト、そして静かにちびりと呑むシク五人で、酒を飲み交わしていました。
ガツが空になったグラスをテーブルに置き、膝に肘を乗せて前屈みになり、ヴィクトールを真っ直ぐに見据えます。
「なあ、ヴィクトール。お前らは気づいているのか? ここでの料理は、どんな国よりも――遥か先へ進んでいる」
その言葉に、バルトが片眉を上げ、セバスは静かに目を伏せました。
「俺は海を渡り、いくつもの国を見てきた。輸入先駆者と自負する国々でさえ、トマトはただの観賞用だと切り捨て、そのポテンシャルに気づいてすらいない。だが、どうだ。……あのクッキーの口どけ。あれほど柔らかく、口の中で儚く溶ける焼き菓子なんて、どこの国でも味わったことがないぜ」
ガツは力説しながら、傍らのシクへと視線を向けます。
「……シクも食ったろ? コロッケのコクの入れは絶妙だった。確かに坊っちゃんの発想はスゴいが、それを受け入れ、仕立て上げる技術を持ってこそだろう。ここ料理人たちの柔軟さは驚きだ。古い伝統に縛られず、ただ旨さを追求する……その執念には、正直脱帽するしかねぇ」
シクは静かに頷き、小さく口を開きます。
「……美味しいは、正義。……ここ、自由。だから美味!」
シクの端的だが核心を突く言葉に、セバスが穏やかに微笑みました。
「恐れ入ります、ガツ様。レオン様という希代なる美食家を導き手に、ニコをはじめとする料理人たちは日々、食材との対話を深めております。私共の給仕も、その美味を最大限に活かすための舞台装置に過ぎません」
バルトもまた、満足げにグラスの淵を指でなぞります。
「セバスの言う通りだ。……旦那様、明日の『大遠征』の準備も整いつつあります。料理人たちは、地熱という新たな力をどう引き出そうかと、興奮で眠れぬ様子です」
ヴィクトールは、自分を支える才ある者たちを見渡し、深く息を吐きました。
「ああ。……レオンの閃きを、これほどまでに熱く形にする者たちが我が家にいる。この光景こそが、我ら侯爵家の真の誇りだ」
ヴィクトールは五人分のグラスに最後の酒を注ぎます。
「……明日も楽しみだな。レオンの『たんけん』が、またどんな美食の歴史を塗り替えてくれるか。その証人として、皆で山へ登ろう」
明日は食の楽しみを違うカタチに変え、この侯爵家に新しい文化をもたらすのでしょう。
カチリ、と硬質な音が静かな書斎に響きます。
新たな食の歴史に刻むことへの、静かな祝杯でもありました。
翌朝、侯爵家の一行はレオンが見つけた「お宝」を目指し、初夏の陽光が差し込む山道を歩いていました。
先頭を行くのは、地図を広げたバルトと、周囲に鋭い視線を配るアルベルトです。
二人は時折言葉を交わし、安全で開けたルートを選びながら進んでいきます。
その後ろでは、ガツがレオンを肩車していました。
レオンは彼の頭に両手を乗せ、楽しそうに揺られています。
「とってもキラキラなの。毒もいっぱい。ボク、とっても残念なの」
レオンが真剣な顔でそう言うと、ガツは肩に乗る小さな体重を感じながら、低く笑いました。
「フーン、キラキラな『お宝』ねぇ……。なんだろうな?」
その隣を歩くシクが、伏せ目がちに首を傾げます。
「レオン様、そのキラキラは、石ころ?」
「う~ん、よくわかんない。なんだろう……?」
レオンが首を捻り、小さな指先で空をかきます。
どうやら「キラキラ」は視覚的な情報というより、レオンの直感が捉えた何かのようです。
シクは「ふむ」と小さく呟き、レオンのピコピコ動く足が枝に当たらないよう、そっと手でガードしました。
──鼻につく匂いに、シクは険しい表情で前方の森を睨みます。
「今度、アルベルト様と、『あっち』な場所で、護衛する」
「……俺も行こう。自然相手では馬鹿にできねぇ。それにテオたちを激励しなきゃな」
レオンはガツの頭をぺちりと叩き、不思議そうな顔で覗き込みました。
「……ガツ? 肩をパチンするの?」
「なんだ、そりゃ?」
ガツがキョトンとしたレオンの頬を指先でつつくと、隣のシクが「パチン、痛い」と真顔で突っ込みます。
それにガツが声を上げて笑い、他愛もない空気が一行全体に行き渡っていきます。
その様子を少し後ろから眺めるヴィクトールとカトリーヌは、料理人のニコと穏やかに言葉を交わしていました。
「カトリーヌ、昨日は楽しめたようだな。ニコもありがとう。昨夜の料理も美味かった。どんどん腕を上げているな」
ヴィクトールの言葉に、カトリーヌは淑やかな笑みを浮かべています。
「ええ、父様。皆様、とても元気そうでしたわ。フフフ……、いろんな噂が尾ひれをつけて広がってましたの。ニコのトウモロコシクッキーで、どうやら確信を得たようですわ」
カトリーヌがニコの顔を覗き込むと、ニコは恐縮しながら、「マルコさんのお陰です」と言いました。
それを聞いたヴィクトールは、優しい眼差しで諭します。
「確かにマルコの教えもあるだろう。だかそれをものにし活かすのは、自身の努力次第……。つまりニコの頑張りだ。誇っていいぞ」
「そうよ。ニコは凄いの!誇りなさい!」
「は、はぁ……」
ニコは、照れくさそうに頭をかくのです。
「まったく、ニコは謙虚すぎるのよ。調味料バームだって、ニコのアイデアじゃない。堂々と『僕が作ったんだぁ、凄いだろう!』ってしていいのよ」
ニコに指を突きつけ吠えるカトリーヌに、「なんだ、その頭の悪そうなセリフは……」とヴィクトールは呆れつつも、その目には確かな慈愛が宿っています。
実はニコに関しては、本人の意見を踏まえ配置変えを検討中でした。
ニコ自身も先の襲撃を深く受け止め、自分の立ち位置を見つめ直しています。
『調味料バーム』の権利を木漏れ日商会へと移し、マルコを代表に据えることで、自分という存在を隠蔽したのです。それに──。
レオンを守るつもりが、逆に守られてしまった。
その嬉しさと悔しさが入り交じる複雑な心境が、彼の心の中で静かに燃え続けています。
だからこそ、今度こそレオンのために自分ができることを――そう思う気持ちが日増しに強まり、レオンのやりたいことを一つずつカタチにしていくことこそが、ニコの願いになったのでした。
それを聞いたヴィクトールはニコの肩をポンと叩き、カトリーヌが「なら自信を持ちなさい!」とダメ押しの激励を飛ばします。
そんな和やかな侯爵家一行は、食材や器具を担いだ使用人や料理人たちも後ろに続き、木漏れ日の中を期待に胸を躍らせて、目的の場所へと向かっているのです。
現地に到着した一行は河原に荷を下ろしました。
川を覗き込むと、銀色の魚たちが驚いたように身を翻し、水の流れの中へと消えていきます。
遠くの方では大地の息遣いのような音が鳴り、この山が秘める荒々しい自然の脈動を感じさせました。
それに比べれば、今いるこのエリアは平和そのものです。
鳥たちのさえずりの歌を聴きながら、川のせせらぎと新緑の香りが、歩き疲れた一行の心を優しく解きほぐしてくれます。
レオンは目を輝かせ、その柔らかな緑の風を感じながら、さっそく先頭を切って川へ向かいました。
後を追うようにアルベルトとバルトが続きます。
「レオン、あまり深くまで行くなよ」
「あい、今日は『取っておき』しゅる」
レオンはトコトコと川の畔へ向かい、昨日作った囲いへ辿り着くと、 「ボクの、ちゃぷんよ」と指を差して周囲へ教えました。
その瞬間、穏やな空気が流れ、ちゃぷんと魚が跳ね水面を叩いたのです。
「俺たちのもあるな。今日は拡張して腰まで浸ろうかな」
寄り添うようにあるアルベルトの囲いを眺め思案すると、ガツが興味深げに見ます。
「ほぉ……、こりゃおもしれぇ。坊っちゃん、コツを教えてくれ」
「レオン様サイズ、可愛い、……エッ!」
シクはレオンの囲いに指先を入れ、その温かさに驚きました。
「フム……、まずはレオンの『お宝』の湯処作りを堪能しよう」
ヴィクトールはレオンを優しく見つめ、確認を取ると……。
「みんな、ちゃぷんしゅるの!」
それを合図に皆思い思いの湯処を作り始めるのです。
広大な河原に、侯爵家一行の楽しげな笑い声が響き渡ります。
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