レオンの『やらかし』の種類
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プライベートがバタついているので、しばらく更新が遅く不定期になります。
でもレオンくんたちのお話は大切に書いていきます٩(。•ω•。)و
少しお待たせしてしまうかもしれませんが、のほほんとお待ちいただければ幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
「別の入り口……別の……」
レオンはアルベルトの肩の上で、視線を「死の溜まり場」から少しずつ、緩やかに傾斜する下方へと移していきます。
ガスの噴出する岩壁から伝わる熱は、地中を伝ってどこかへ逃げているはず。
「バルト、あそこ……水が流れてるの、見える?」
レオンが小さな指で指し示したのは、噴出口から数十メートルほど離れた谷底でした。
険しい岩肌の間を縫うように、清らかな川が流れています。その川筋の一部だけ、周囲の岩の色が他とは異なり、赤茶色く変色しています。
「ボク、あの向こう側行きたい」
「……向こう側ですか」
バルトは手に持った地図を見ながら、周りを確認していると……。
――シュゥゥゥーーーー─ッッッ!!
この地に到着した時の音が、盛大に鳴り響きました。
その音をだいぶ近くで聞くと、中に潜む甲高い音が耳を痛くします。
アルベルトは片耳を抑え顰めると、レオンは目丸めてキョトンとし、「おぉ〜、地の絶叫なの」と言いました。
「……難しい言葉を、よくご存知ですね」
バルトが感心して尋ねると、レオンは頬を膨らませて首を横に振りました。
「ちがうの。ボク、てんたいなの」
3歳児には少し難しい発音なのか、レオンは得意げに胸を張ります。
「……てんたい? まぁ、レオン坊ちゃまがそう仰るなら、そういうことなのでしょうね」
バルトは戸惑いつつも、レオンの愛らしさに屈して笑顔で頷きました。
「……バルト、ちょうど昼飯時だな」
そんな二人のやり取りを呆れ顔で眺め、アルベルトはのんびりとお腹をさすってみせます。
クウ……と微かに鳴くその音に、張り詰めた空気を断ち切るには十分な合図でした。
「そうですね……。噴出口が近すぎますし、レオン坊ちゃまもお腹を空かせたでしょうし、風上であるあちらの川辺へ移動しましょう」
「わぁい、お外でゴハン♪」
レオンは両手を上げて喜び、アルベルトも口角を上げ笑います。
一行は山側の騒がしさを背にして、川の流れる方へと降りていきました。
噴出口から離れるにつれ、空気は次第に澄み渡り、代わりに川のせせらぎが心地よい調べが聞こえてきます。
おかげで先ほどまでの緊張が、嘘のように消え去りました。
川べりに降り立つと、ちょうど岩の陰に平らな場所です。
「……ここなら、安全ですね。ガスも風に流されて清々しいですよ」
アルベルトが周囲の安全を確認し、バルトは持っていた荷物を置きます。
「わぁい、お外でゴハン♪」
レオンは両手を上げて喜ぶと、アルベルトは肩からゆっくり下ろしました。
下りたレオンはぴょんぴょんと跳ね、近くの草花を眺めて、トコトコと心の赴くままに動きます。
バルトが置いた荷から取り出したのは、ニコが朝一番で準備した特別なお弁当です。
紐を解いて包み葉を広げると、生姜に似た清涼な香りが鼻腔をくすぐります。
葉の中からドン!と現れたのは、コーン生地の両端を折りクルクルと巻かれた、腕の太さもあるサラダ・ロールでした。
「デカッ!俺はそのままでもいいぞ!」
「にいちゃ、ダメ!」
「ハハハ!領民からたくさんのトウモロコシを頂きましたからね。ニコが『レオン坊ちゃまから教わったクルクルです!』と言ってましたよ」
バルトは腰のナイフを抜きその極太ロールを、一口大にトントンと切り分けていきました。
断面からしっとりした蒸し鶏の白、クレソンの深い緑、そして和えられた角切りトマトの鮮やかな赤が、濃厚なヤギチーズソースと絡み合い、美しい見た目も然ることながら、食欲がそそり立ちます。
「うわぁ、ウマウマ、絶対!」
レオンは待ちきれず一つ掴み、アルベルトも切り分けられた一切れを指で摘むと、口へと放り込む……。
アルベルトの目がカッと見開き、頬を膨らませもぐもぐと食べました。
レオンもあむあむと、自分のペースで食べて行きます。
噛み締めると葉の清々しい香りがフワリとし、ヤギチーズとラードの超濃厚なコクをまとって一気に開花しました。
水っぽさのない若いトマトは噛み始めで弾け、ニンニクの刺激的な辛味にレモンの酸味を溢れさせ、蒸し鶏の旨味や玉ねぎのシャキシャキ感で、口の中は幸せいっぱいです。
「……これはいいですね!手も汚れないし、幾つでも食べれそうだ」
バルトも一切れを口に運び、目を細めて堪能します。
「にいちゃ、これ、おいちいね! 」
レオンは自分の分を口いっぱいに頬張り、満面の笑みを浮かべました。
川のせせらぎを聞きながら、ニコのゴハンに舌づつみを打って、三人はのんびりと休息をしていたのです。
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───本邸では。
ヴィクトールが英雄の名を前にしてまだ呆然と立ち尽くしているというのに、当のセバスは微塵の動揺も見せずにコーヒーを淹れ直しています。
ヴィクトールは、その対比にこそ深い敗北感……いえ、むしろ「救い」のようなものを感じていました。
「……セバス。お前、驚かないのか」
ヴィクトールが絞り出すように問うと、セバスは優雅にカップの縁を拭いながら、涼しい顔で答えます。
「驚きはいたしますが、閣下。昨今のレオン様の『やらかし』の規模を鑑みれば、伝説の英雄お一人が隠蔽工作に加わってくださるのは、むしろ『人手が足りるようになって良かった』というべき事態かと存じます」
「……お前、狂っているぞ」
「お褒めに預かり光栄です」
シクがミント水を飲み干し、氷がカランと音を立てました。
彼は初めてヴィクトールの目を見つめて、静かに口を開きます。
「……ガイム様、レオン様のこと、気に入ってる。だから、守るために動いた。驚く暇があったら、これから『英雄の手足』の運用を考えたほうがいい」
シクの言葉は淡々としていましたが、そこには英雄の意志を代弁するような重みがありました。
この書類に押された刻印は、過去の追悼ではなく、未来を切り拓くために、英雄が自ら「盾」になるという宣言なのです。
「……わかった。運用に関しては、ブルーノと……商会の連中に一任する」
そう呟いた瞬間、ヴィクトールの胃の痛みは嘘のように消え失せました。
もう何を隠そうと、悩む必要はないのです。
伝説の英雄が直々に隠蔽してくれるなら、レオンが何をしようと、それは英雄の盤上の上での出来事……。
レオンが帰って来ても、もう何も怖くありません。
かくして、領主邸にはかつてないほどの平穏(ただし英雄の影付き)が訪れたのでした。
「……うん、元気になった」
シクはそう呟いて、出されたクッキーを一口食べました。
「……トウモロコシ?」
「えぇ……、余りにたくさんありましたので、ニコが粉にしたもので作りました。レオン様仕様ですが、サクサクして美味しいでしょう」
セバスが微笑みながら自慢げに言うと、シクも目をやわらげ「……美味、ニコ天才♪」と言って、また一枚手に取ります。
ガツも「どれどれ……」と一枚つまみ、一口食べて――ピタッと動きを止めました。
(……オイオイ、嘘だろ。この軽さは何だ? ……硬いのが当たり前と思っていたが、なんで指で押すだけでホロリと崩れるんだ?イヤ……、違う、チビ仕様にしたからなのか……)
ガツは普段齧り付く、石のようなビスケットを思い出し、苦み潰した顔で繊細な口溶けのクッキーをもう一枚手に取ります。
(……ヴィクトールの奴、気づきもしねぇ。セバスもだな。この侯爵家、食文化の常識まで壊してやがった。この『サクサク』という食感だけで、王都の貴族連中は全員ひれ伏させられるぞ……)
横ではシクが、モクモクと目を喜ばせながら、すでに三枚目に手を伸ばしていました。
普段は感情の起伏がほとんどないシクが、これほど夢中になる味です。
ガツは思わず肩の力を抜いて、深く溜息をつきます。
──今さらジタバタしても仕方ない。
たぶんこれから世話になる料理も、レオンの影がチラつくのでしょう。
ならば切り替えて、ガツは美味い料理にありつけそうだと期待する事にしました。
どうやらレオンの『やらかし』にはじんわり型もあり、ヴァリエール侯爵家の料理事情を、じわりじわりと発展させているようです。
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