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27,初めてのこと ヴィンセントside

前回のメルレインsideの続きになります。ヴィンセントsideですが暴力描写あります。苦手な方、想像力が豊かな方、お気をつけ下さい。

 宣戦布告を受けてからレイは風のような早さでアストレア王国を戦闘不能の状態に持っていった。


 しかし、すぐに帰って来る訳ではない。


 アストレア王国以外の国との交流をすると決めていたため今、クリストフ殿下が次期国王として戦後処理、レイが次期宰相有力候補として他国との交渉を行っているため1週間以上が経過した今も帰って来ていない。


 レイの婚約者のアナスタシアと弟子のディーク兄様は少しでも気を紛らわすために生産を続け、ディア兄様は王宮騎士団長として忙しいため帰って来ることができない。そして、私の婚約者のメルは相当不安なのか1日中ぼーっとしていて中々話しかける雰囲気ではない。


 「少し部屋で寝て来ます。5時くらいにまた来ますから」


 遂にメルは睡眠不足に陥ってしまい、昼寝に踏み切った。


 「うん、わかった。疲れてるだろうしゆっくり休んで」


 私はそう答えるしか出来なかった。


 レイがメルに対して相当な愛を持って接しているのは知っている。


 メルがそのことに対して疑問を持たず、愛を返していることもよく知っている。


 でも私はどうだろう。


 メルが私を恋愛的な意味で好いているのは普段の言動からわかる。それでも絶大な信頼を置いて頼るのは私ではなくレイであることが多い。一緒にいた年数が私よりも長いし、ジーク伯爵が叔父一家になってから虐待されていたことも聞いた。2人きりでずっと支え合わないといけないことからも仕方がないとはわかっている。


 それでも少しは頼ってほしい。我儘だとは承知だが婚約者以外の男(兄だけど)との距離感が私の知っているものとは違う。


 兄に対しての恋愛感情がないとわかっているはずなのに。


 自室に戻り、扉に背中を預けて膝を抱える。

 ふっと顔を上げると机の上にメルが孤児院の子達と作ったというテーブルクロスやコースター、ディーク兄様がレイに教えてもらって作ったというグラスが丁寧に置かれていた。


 「痛い…」


 会えば会うほど、話せば話すほどメルが好きになる。自分だけのものにしてしまいたいという汚れた感情を向けてしまうこともある。


 私はこの時、人を好きになることの痛みや苦しみを改めて味わった。すれ違いを起こしていたときも不安だったし焦っていたけど今回はそれの比じゃないくらいに胸が痛む。それだけ私の中でメルがなくてはならない存在で、いない世界など考えられないと思うほど重いものだったということだ。


 私が漏らしたその言葉はカーテンを閉め切った部屋に吸い込まれるようにして消えてしまった。


 気がつくと私は膝を抱えたまま眠ってしまっていた。時計を見るともう5時を過ぎている。メルを待たせてしまうのは避けたい。


 急いで集合場所に行ったがまだ来ていなかった。待てせていなくて良かったと思うと同時に何かあったのではないかという恐怖から私はメルの部屋に向かった。


 扉を軽くノックして声をかける。


 「メル、いる?いるなら返事をしてほしい」

 待っても返事は帰ってこない。心配になった私はマナー違反だと言われるような行動に出た。


 ゆっくり扉を開くとメルはまだ寝ていた。

 しかし、安心したのも束の間。


 「いかないで」


 はっきりとそう聞こえた。誰が聞いてもレイのことを言っているとわかる。つま先から冷えていくような感覚に襲われた。


 「メル、起きて、メル、メル!」

 気がついたらメルの肩を揺すり、必死に声をかけていた。


 メルの瞼がゆっくりと開き、涙が溢れる。

 「ヴィンセント様は、どうしてここに…?」

 不思議そうに聞かれたので経緯を説明する。


 帰って来たのは勝手に部屋に入ってきたことに対する叱責ではなく予想外の返答。


 「昔の夢を見ていました」


 表情がこわばっていくのを感じた。メルは何かを決意したような顔をした後、過去のことについて話し始めた。


 レイが拷問器具の実験台にされ、毎日痛む傷に顔を歪めながら領主代行をやっていたこと、仕事の成果を横取りされて正当な評価を得られなかっただけでなく、お荷物で役立たずだと影で言われていたこと、苦しんでいる兄に対して何も出来なくて自分のことが大嫌いになったこと。


 言葉を失った。


 レイが時折瞳の奥に見せる苦しそうな色も、入浴や着替えを1人ですると譲らなかったこと、その時「人に見せられるものではない」と言っていたから痩せすぎているからなのかと思っていたが、魔物の爪で引き裂かれた傷や鞭ので打たれた傷を見せないためのものだった。


 メルが話し終わった時、私は涙が止まらなかった。

 何も知らなかった。それで勝手に不安になって。かっこ悪い。


 泣き顔を見られまいとメルの顔に当てていた手が剥がされて全身が暖かいものに包まれた。暫くしてそれが抱きしめられていると気づく。


 驚きから肩がびくりと跳ねたが抱きしめられたのは初めてのことだったので震える腕をメルの背中に回した。


 将来夫となる男としてメルに頼られるような人間になりたいと心に決めた。


 因みにその翌日にレイは帰宅して見事に前日したことがバレてしまったが意外にも怒られることはなく、逆に隠していてごめんと頭を下げられたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

暴力描写がほとんどない次話投稿は明日になります。


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