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26,悪夢 メルレインside

2人の過去の話です。今までのとは比にならないくらいの明らかな暴力描写があります。番外編に近いので苦手な方は明後日くらいに投稿される話まで飛ばしても内容はわかるかと思います。

 「メル、もう遅いし寝な。残りの仕事は僕がやっておくから。防音結界とブラインド結界、あとは暖房結界を張るから。おやすみ、メル」


 お兄様が優しい声で私に言った。

 とても眠れないと思っていたが、お兄様に頭を撫でられると急に眠気が襲ってくる。


 お兄様はいつもくっきり隈を作って領主の代行をしていた。でも、周りは眠気と闘ってした仕事を一切評価せず、お荷物で役立たずだと言い続けた。そして遊び呆けるジーク一家が有能だと評価された。本当は全部全部お兄様が行った仕事なのに。


 今のジーク伯爵は罪人だと言われる人間の拷問をしていた。その実験はいつもお荷物で役立たずのお兄様がやらされていた。


 お兄様は竜の加護を受けていたから寿命が来るまで絶対に死なない体。だから実験には丁度良い人材だった。


 鞭で打たれることを始めとして他にも沢山あった。


 死なないとはいえ痛みを感じない訳ではない。火傷をつくり、お腹に傷を負い、それでも尚領主代行をしていた。


 「お兄様、止めて下さい。私が代わりにやりますからゆっくりしていて下さい」


 泣きそうになった。


 「心配要らないよ。僕は死なない体だから」


 また頭を撫でられる。

 するとまた眠くなって私の意識は暗闇に飲み込まれていった。それが睡眠誘発剤の役目をするお兄様の能力だと気づいたのはもっと後だった。


 結界の中に入れられてお兄様が戻るまで領主代行をしてお兄様が戻ると眠らされる。


 私の体を思いやってした行動だというのはわかっている。それでも私はもっと頼って欲しかった。


 女性の傷は恥だという貴族社会では体の傷は婚姻に関わってくる。私がヴィンセント様のことが好きだと知っているお兄様は婚約が解消されないように気を遣っているのだ、と。


 でも、毎日毎日痛む傷と闘いながら領主代行をするお兄様を見るたびに私の中にもどんどん傷ができているのを感じていた。


 お兄様を解放して欲しいと願うことしか出来ない自分が大嫌いになった。

 それにお兄様の婚約者のマリアベル王女殿下が浮気をしているのもお兄様は知っていた。自分の体の傷が原因だということも。


 どうしてお兄様がこんなに苦しまないといけないのだろう。


 どうして国にも家にも尽くしているお兄様をここまで雑に扱えるのだろう。


 どうしてお兄様が、お兄様ばかり虐げられるのだろう。


 「お兄様、もう行かないで。私の側にいて下さい。もう、お兄様が理不尽に傷つけられるところを見たくない。お兄様ばかり苦しんで私が何もできないのが嫌なんです。お願いします」


 ある日、お兄様に訴えた。

 私のことを大切にしてくれるお兄様ならこの願いは聞いてくれると思った。そして私の願いは打ち砕かれた。


 「それはできない。僕しかいない。死なずに実験できるのは僕しかいないから。ごめんね」


 その言葉は私の胸にグサリと刺さり、明らかな傷となって私は絶望感に襲われた。

 また結界を張られ、私は閉じ込められた。


 「っ…ぅぅ…」


 涙が溢れる。抑える努力はしたが、嗚咽が漏れる。

 お兄様に突き放されたことが何よりもショックだった。


 自分の願いは間違っていたのだろうか。


 何もわからない。


 もう、これ以上は止めてほしい。そう願うことすら許されないのだろうか。



 「メル、起きて、メル、メル!」


 ゆっくりと目を開く。

 どうやら昔の夢を見ていたようだ。

 頬が涙でぐっしょりと濡れていた。


 「ヴィンセント様は、どうしてここに…?」


 人の部屋に勝手に入ってはいけないはずだが。


 「時間になっても来ないから見に来たんだよ。ノックしたけど返事がなかったから何かあったかと思って…」


 何かあったといえば何かあったけどここまで心配させているなんて思いもしなかった。


 昔の夢を見ていたと話すとヴィンセント様の表情は険しくなった。私達の全てを知っているわけではないのに何も言わずに聞いてくれるだろうという安心感から内容を話した。全て実際にあったことだとも。


 終わった後、ヴィンセント様は何も言わなかった。恐怖から下を向いていた私が顔を上げるとヴィンセント様に視界を塞がれた。そこまで強くないから直ぐに抜け出せるがヴィンセント様が今どんな状態かわかったから黙ってされるがままになっていた。


 「ごめん、ほんとごめん。もう少しだけ待ってほしい」


 その声だけでも泣いているのがわかる。自分の兄の師匠であり、王女に嫌味を言うほどの度胸も持っていてこの国の王族にも信頼されているお兄様の過去。

 

 ヴィンセント様には想像も出来ないような話だろう。お兄様が誰かいる場所での着替えや入浴を拒絶する理由も今知ったのだろう。


 私は視界を遮っていた手を退けてヴィンセント様の震える体をぎゅっと抱きしめた。トラウマが消えたわけじゃない。未だに悪夢に魘される。それでもヴィンセント様みたいな人と一緒にいればいつかは過去の話だと割り切れるようになるかもしれない。


 私の行動に一瞬びくりとしたヴィンセント様も私の背中に腕を回してくれた。

読んでいただきありがとうございます。

次話投稿は明日になります。

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