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18,本音 メルレインside

アレイの過去の描写が少し出てきます。

暴力に関係してくるので苦手な方は注意してください。

 お兄様から孤児院専門学校化を任せられて1ヶ月が過ぎた。


 当初の予定通り、午前中は基礎知識の教育、午後は専門的なことを学ぶ。

 需要が高い寝具、消耗品だが貴族の間でしか流通していない石鹸などの量産を行っている。羽毛は人間にとって危険性が高いもので、しかもあまり人気がなかった魔物の羽を使うので乱獲防止の法律を同時に作った。


 石鹸はシュノシュワ家が花の産地なのでそこから少しずつ分けてもらっている。

 ヴィンセント様は羽毛布団の方についてくれているので私は石鹸の方に集中できる。


 お兄様はガラス工房に国王陛下、王太子殿下の案内やディーク様の指導、全体の指揮、監督、入国審査の仕事と婚約者のアナ(愛称呼びゲット)との時間作り、と忙しそうに走り回っているからせめて少しくらい手伝えないかと思ったが仕事内容は私の頭で理解できるものではなかった。


 でも、無理矢理働かされていたあの時より楽しそうに毎日働いているから成果を出したい。


 未だに目にくっきりと隈をつくり、食事も睡眠もできずに日に日に衰弱していく体で評価のされない仕事をしていたお兄様を思い出す。

 もうジーク家の者ではないのにずっと縛られ続けている。明日死ぬのではないかという恐怖と戦わなければいけなかった日々を夢でみて飛び起きる毎日。何の役にも立てないという焦り。


 「メル、今日の分は終わったよ。そっちはどう?」

 帰って来たらしいヴィンセント様が微笑む。だから私は精一杯の笑顔を作った。

 「はい、大丈夫ですよ。ヴィンセント様」


 頑張ったつもりだったがヴィンセント様は微妙な顔をした。

 「メル、君は何を怖がっているの?私は人の気持ちに疎い方だと思う。でもメルが何かを怖がっていることだけはわかる。婚約者なんだ。いずれ夫婦になるんだ。今不安に思っていることを知りたい」


 いつもの甘い表情ではなかった。真剣な瞳に吸い込まれそうになる。

 この分では隠したとしてもいつかバレる。

 「実は…」

 私は全て話した。


 働き詰めのお兄様を見ると昔のことを思い出すこと。

 事業の始めで忙しいのはわかっているが、それでも怖いということ。

 今度こそ過労死してしまうのではないかと思っていること。


 私が全部隠さずに話すと少しの間があってヴィンセント様がゆっくりと口を開いた。

 「そっか。メルは昔みたいにレイが睡眠不足の中働いていて壊れちゃうのが怖いんだね。あ、そうだ。ちょっとついて来て。良いもの見せてあげる」


 ヴィンセント様は私の手を優しく引いて屋敷にあるお兄様の執務室に入った。

 「アナ?と、お兄様…!」

 部屋にいたのはソファに腰掛けるアナと膝枕状態で横になっているお兄様。


 状況が読めない私にヴィンセント様がそっと耳打ちする。

 「過労死を心配したアナスタシアさんが昼寝の時間を設けたみたいなんだよ。あとね、こっち」

 お兄様の机の端に置かれているノートを開いて見せてくれた。

 「これって…スケジュール帳?」


 丁寧な文字で書かれたそれは間違いなくお兄様のものだ。

 「そう。メルが心配すると思ったレイが1日の予定を分刻みで予め決めておいているんだ。それで、何かアクシデントがない限り必ず守る。睡眠時間は平均5時間、昼寝で1時間、食事時間や仕事の割り振りまで細かく。ほんと、メルはレイに大切にされているんだね」


 どうして私は知らなかったのだろう。

 昔より血色が良くなった肌、隈をつくらなくなった目、平均には届かないが少しずつ伸びつつある身長、全部規則正しい生活あってこそだ。


 「メルが知らないのも無理はない。レイはこうでもしないといけない自分がカッコ悪いと思っていたからメルに隠していた。まさかここまでになるとは思っていなかったんだろうね」


 ヴィンセント様が言い終わった時、打ち合わせでもしたのかというくらいのタイミングでお兄様が目を覚ました。

 「アナ、おはよう。…!ちょっとヴィン!何でメルにそれ見せてるの⁉︎」

 お兄様が慌ててノートを取り返す。寝起きでなぜそこまで動けるのだろうか。


 「お兄様、私は怖かったのです。お兄様がいつかは死んでしまうのではないかと。あの時みたいに沢山働いていて、でも楽しそうにしているのはわかります。


だからこそ、楽しいからこそ無理をするかもしれないと。凄く怖くて何度も夢で見たのです。元気そうにしていたお兄様が急に冷たくなっている夢を、毎日のように見て飛び起きるんです。スケジュール管理をするのは別にカッコ悪くなんかないです!お兄様はいつでも私の大好きで、自慢の家族です!だからー」


 言ってほしいと言いかけた私は暖かいものに包まれていた。


 「ごめん。僕はメルがそんな風になるなんて思っていなかった。メルはいつだって僕のことを心配してくれていたのに。僕が無理をしていた時期をよく知っているメルが今の僕に対して何とも思わないはずない。わかっていたはずなのに気づけなかった。心配かけて、ごめんなさい」


 あの時より厚みのある胸、太くなった腕。低かったのに私の背をいつの間にか越していたこと。

 全部が私を安心させてくれた。


 「それが聞けただけで十分嬉しいです。でも、本当は言って欲しかったです。1番近くにいたから急にお兄様が遠い存在になってしまったと思って少し、寂しかったのです」


 お兄様の評価が上がるたびに開いていく私との距離。嬉しいと感じつつも寂しかったのだ。ずっと一緒にいたからこそ。


 「うん。ごめんね。それと、ありがとう。休憩を取りつつ仕事をしているから、会いたくなったらいつでも来て。ヴィンも一緒で良いからさ」

 「はい…!」


 やっと言えた。


 お兄様の腕から解放された私の頭をヴィンセント様が優しく撫でてくれた。

 アナにも頭を下げて謝罪するところは本当にお兄様らしいと思う。


 そして私は少しだけお兄様と遠く感じていた距離をもとに戻すことができたのだ。

読んでいただきありがとうございます。

次話投稿は明日になります。

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