10,ただいま
今回出て来る「ラインスター」はアレイとメルレインが「ジーク」になる前の苗字になります。
「お、アレル王国に入ったな」
3日ほど馬車を走らせてやっと見慣れた街並みが見えてくる。
少し積もった雪。
冬の寒い日でも暑苦しいのは街の屈強な男達の雄叫びが原因だろう。それもそのはず、長年隣国にいて民からの支持も熱かったラインスター(僕らの苗字)の兄妹が帰ってきたのだから。幼馴染で腐れ縁の王子が大々的に発表したそうでね。
馬車のカーテンを開けて手を振る。まだ自分達のことを覚えていてくれる人がいるのは単純に嬉しい。
メルも嬉しそうに反対側の窓から手を振っていた。
そこから5時間もすると、辺境伯領地に着いた。王都に1番近いのがラインスター辺境伯なのだ。街というか町というか。
とにかく田舎なのが少し目立つ。
王都から5時間かかる場所ならそれくらいが妥当だろう。
そこから更に15分ほどかけてようやく伯爵邸にたどり着いた。
「おかえりなさいませ。アレイ様、メルレイン様。我ら一同、心よりお待ちしておりました」
「ああ、ただいま。名前は把握済みか?」
僕は後ろにいる荷物と称して連れてきた人達に視線を向けた。
「もちろんでございます。メルレイン様のご婚約者のヴィンセント様、アレイ様のご婚約者のアナスタシア様、シュノシュワ侯爵家当主様、奥様、ディア様にディーク様ですね。アレイ様とメルレイン様は執務室で旦那様がお呼びですので他の方々は客間の方へご案内します」
凄いな。流石です侍女長。5日前に手紙を出したばかりだというのに。
「では、お2人はこちらへどうぞ」
僕達は素直に従い、執務室に向かった。
「お祖父様、アレイです」
ノックをするとすぐに入室許可が出た。久しぶりの執務室。あの頃と変わらない。ただ、アンティークの家具が傷んできたように感じる。それもそうだろうな。10年経ったんだから。
「レイ、メル、よく戻ってきてくれた。婚約破棄後のレイには申し訳ないが民も喜んでいるし、私もまた顔が見たいと思っていたのだ。また、2人とも一緒に暮らしてくれるだろうか」
孫に甘々なお祖父様が縋るように僕らを見ている。
「そんなの、当然ですよ。僕達は家族ですから」
「私も同じです。叔父一家は家族ではありませんでした。また皆で一緒に暮らしましょう」
メルも言い切るとお祖父様は少しだけ涙ぐんだ。
その後は僕だけ執務室に残り、今後のことを話し合った。
馬車の中で言ったことをそのまま提案したら今までになかったアイディアだったそうで、孤児院の方に運営の打診をしてくれるとのこと。そして、ガラス細工に関しては僕とディークが使う用の工房を用意してくれることになった。プリザーブドフラワーは僕とアナスタシアの方に任せてくれるそうだ。
アレル王国は1年に4回花祭りというものがあり、今年分の花祭りは既に終わってしまっているが歓迎のお礼にと思い、豪雪地帯らしく高く積もった雪を見下ろして氷魔法を発動させる。すると、足下に青っぽい複雑な魔法陣が現れる。
その瞬間、積もっていた雪が氷となり、太陽の光を反射して町を明るく照らした。今はまだ冬だけど、冬が終われば春になるということで桃やチューリップ、りんごなど、春に見頃を迎える植物たちの彫刻を形作る。
氷の色も僕の魔力の質が特殊だから色とりどりですごく綺麗だ。
彫刻と下が見えた道路を見て気付いた領民達が一斉に歓声を上げる。アストレア王国では一度も見ることが出来なかった光景。
ここならいつでも見られる。僕の居場所はここだから。
だからこそ、アストレア王国に対して経済競争も妥協しない。
精霊の力も出し惜しみしない。
僕が帰る場所はもう失ったりしない。
それと余談だが、あの彫刻騒ぎを聞きつけた人達が客間を飛び出したのは言うまでもないだろう。
読んでいただきありがとうございます。
次話投稿は明日になります。




