第28話 【兵士を連れて】
「やっと着いたな...」
俺は超電磁砲によって砕け散ったレンガの破片の上で膝に両手を当てて、そう言った。
階段を降りるのにかかった時間は2.30分程度。何故こんなに深くまで階段を作ったかは、キメラというボスモンスターがそれだけ恐ろしいと言うことだ。周りを見渡してみると、暗闇の中にボス部屋と思われる扉が一つあるだけだった。
「もぅ、もぅ無理…」
「私も…」
女子勢二人は階段から降りると座り込んでそういった。
「大丈夫…そうにないな。ひとまず休憩でもするか。」
「かたじけない、カナタ殿…。」
王子もそう言うと壁に寄りかかり、座り込んだ。
誰もHPは減っていないが、このWGOの法則、痛覚はほぼ再現されている。それと共に、疲労、体力等も現実世界と変わらない様になっている。仮想世界(VR)ではない、拡張世界(AR)だからこそ、より現実に近い形で楽しめるようになっているのだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にか10分が経過していた。
「そろそろやるか。流石にもう大丈夫だろ。」
と、3人に提案する。もちろん答えは「Yes」だった。俺はボス部屋の扉を両手で押した。ゆっくりと開かれたボス部屋の中は真っ暗で、何も見えなかった。
「何にも見えないな。」
「カナタ、あの時ゴーレムに使っていた技を使ってくれ。多分あれなら百発百中で敵に命中するはずだ。」
「なんでその事をツバキが知ってるんだ?」
「あんな技を使えるプレイヤーってカナタだけだろ、どう考えても。雷属性の技だったし。」
「まぁな。」
俺は剣をレンガとレンガの隙間に刺し込み、『終焉電光』と呟く。すると、昨日使った感覚と同じように、剣が発光し、手元が少しビリっときて、一瞬だけ目の前が真っ白になった。
すると、何故か部屋中が明るくなった。だが、そこに居たのは...
「こいつがキメラ!?明らかにデカすぎるだろ!」
簡単に例えるのなら体育館程の大きさのモンスターが居た。見た目はライオンと羊の混合したようなモンスター。足は6足で、色は茶色と黒色が混ざり合っていた。そして、何故か翼が生えている。
「HPゲージは6本中2本は減っているようだな。」
それにしてもデカすぎる。GYOでいうところのレイドボス並の強さだろう。この人数だと下手すればやられるかもしれない。久しぶりに戦略を立てないといけないな。それにしても不吉な予感が...。
「カナタ殿、我が時間を作る。だからその間に思いきりキメラに攻撃してくれ。」
と言うと、王子は走り出し、剣を構え、一つの足に向かって思いきり斬りかかる。
「あ、待て!王子!今は危険だ!」
しかし、王子は振り返らずそのまま攻撃している。その瞬間、キメラの麻痺が解け、王子の攻撃していた足を振りかぶり、王子を蹴った。そして、キメラは大きく吠え、蹴られた王子は吹っ飛ばされ、カナタの目の前に転がってきた。
「お、おい!王子!大丈夫か?!返事をしてくれ!王子...。そうだ、恵美、ヒールだ!」
「うん、わかった!」
エミリンは手を王子にかざし、ヒールを念じた。
「な、なんとか間に合った...みたいだな。」
みるみるHPが回復していく。が、王子は一言も喋らない。だが、胸に耳を当ててみると確かに心臓は動いていた。王子は多分気絶しているだけだった。AIは一回死んでしまうともう生き返らない。これも風井さん情報だ。
「恵美、キメラを止めることはできるか?」
「うん、なんとかやってみせるよ。」
俺は「ありがとう」といい、アイテム欄から転移結晶グレードを王子に持たせて、行き先を城内に設定し、
「転移!」
と叫び、第一王都の城内へ転移した。ちなみに転移結晶グレードとは行き先を街単位ではなく、場所を特定して転移することが出来る転移結晶だ。値段は一つ、1千万である。そこには驚いた表情の兵士達がいた。
「誰か王子を寝室で寝かせてやってくれ。大丈夫、気を失っているだけだ。」
「「「「「「ツルギ王子ぃ!」」」」」」
すると、一斉に王子に駆け寄ってきた。
「王子大丈夫ですか!」
「しっかりしてください!」
「王子ぃぃーーーーーー!」
「だから大丈夫だって、心臓は動いてるし、息もしている。」
慌てた様子の兵士達をなんとか落ち着かせた。すると、いい考えを思いついた。
「お前ら!王子にこんな事をした奴に復讐したくないか?!」
兵士達は少しざわついていた。その中で、普通の兵士よりも重装備の強そうな兵士は片手を胸に当て、目をつぶりこう言った。
「あ、あぁ。我々は王、そしてツルギ王子に忠誠を誓った身。だが、王子が勝てない相手なら、我々にはどうすることもできないかもしれない。でも...いやだからこそ!」
「おう!シュバルツさんの言う通りだ!」
シュバルツさん...か、多分この兵士達のリーダー的存在なのかな。盛り上がってきたな。さて、そろそろトドメをさすかな。えっと...
「お、王子は気を失う前に言っておられた!『どうか...敵を...討ってくれ......』とな!」
もちろん嘘である。
「だから今こそ!忠誠を誓った、お前ら、第一王都の兵士達の力を合わせて奴を!王子の敵を討つのだ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」」
「じゃあ、俺に捕まってくれ!」
約20人の兵士達を連れ、俺は転移結晶グレードを持った右手を上げ叫んだ。
「俺のパーティの元へ!」
何故反応しないんだ?.........あそっか...。パーティ解除してたの忘れてた...。だから終焉雷光で倒せなかったのか。まぁ、いい。
「じゃあ、第10風扉ボス、【キメラ】の元へ!」
すると、青い光が俺と兵士達を覆い、キメラのいるボス部屋に転移した。
「恵美、ツバキ、大丈夫か?!」
「えぇ、なんとか。」
「私も大丈夫だ。」
2人はキメラの足を凍らせていた。だが、足は6脚もあるため、凍らせるのが追いついていないようだった。
「お前ら、スキル...じゃなくて魔法使えるか?」
「はい。ですが、魔法というのは天から授かった力。それなりに個人差はあります。 」
「わかった。じゃあ、氷魔法が使える奴らはエミリンと一緒にキメラの足止めを、それ以外は俺と一緒に攻撃してくれ。ただし、キメラの攻撃に当たると即死だから気をつけるようにな。」
「「「「了解!」」」」
返事を聞くと俺は剣を抜くと同時に地面を思いきり蹴りあげ、キメラに斬りかかった。




