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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第98話 『パーヴェル子爵家』 

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 ◇パーヴェル子爵家◇


 領民が、次々に倒れていた。

 年齢、性別の別なく。


 最初は、ただの風邪だと思われた。

 次に、季節性の熱病だと判断された。

 だが――症状は揃わない。


 高熱、咳、倦怠感。

 皮膚の変色、呼吸の乱れ、原因不明の痛み。


 どれも似ているようで、決定的に違っていた。


「……病気のたぐいであることは確実です。しかし――」


 差し向けた医師団は、口を揃えてこう言った。


『原因不明』


 それ以上の言葉は、誰にも出せなかった。


 原因が分からない。

 病名も分からない。

 治療法も分からない。


 ただ、倒れる者だけが増えていく。


「封鎖だ! とにかく広げるな!」


 若き当主は叫んだ。

 だが――


「ふざけるな! 商売にならん!」


 商人たちから突き上げを食らい。


「封鎖の理由を明示せよ」

「さもなくば封鎖を解け」


 王都からは催促と警告が届く。


 何も分からないまま、ただ“封鎖だけ”が続いていく。


「父上……どうすれば……」


 唐突に当主となった嫡男は、机に突っ伏した。


 先代は隠居したまま動けない。

 ――隠居の理由が理由だけに。


 周辺貴族との繋がりも薄い。

 領民の代表とも、まだ信頼関係が築けていない。


 王都にも助けは求められなかった。

 ただでさえ不祥事を起こしている。


 当主の隠居という形で片が付いたのは温情だ。

 次はない。


 下手を打てば廃爵。

 よくて降爵。


「……動けない……」


 若き当主は、ただ呟いた。


 動かねばならないのに、動くための“根拠”がない。

 何をすればいいかがわからない。


 動けば責められ、 動かなければ崩れる。


 領民は倒れ続けた。


 そして――


 混乱も続いていく。

 誰も“理由”を説明できなかった。


 医師も、役人も、子爵家の者たちも。


 症状は揃わず、病名もつかず、治療も効かない。


 ただ、倒れる者だけが増え続けていた。


「……いったい何が起きている……?」


 若き当主は、答えのない問いを呟くしかなかった。


 そんななか、子爵にはさらなる追い打ちとなる話が舞い込んでくる。


「メリマルゴール男爵家の嫡男が戻ってくる?」


 若き当主は、思わず声を荒げた。


 代官の捕縛後も、男爵家の者たちが駐留していたのは知っている。

 本音を言えば、さっさと帰ってほしかった。


 こちらから接触して、『四男への加害』について賠償請求でもされたら――

 それこそ家が終わる。


 だから、丁重に無視するしかなかった。


 見て見ぬふり。

 触らぬ神に祟りなし。

 ただただ、そっとしておいた。


 それが、先日ようやく帰ったと聞いて胸を撫で下ろしたばかりだというのに。


「戻ってくる……? な、何のためにだ?!」


 予想はついている。

 だが、それを口にしたくなくて、執事に問いを投げた。


 執事長は、淡々と答えた。


「調査……でしょうな」


 若き当主の顔から血の気が引いた。


「ちょ、調査……? なぜ今……!」


「代官の件が片付いたとはいえ、領内で“原因不明の病”が広がっている。王都も動き始めております。男爵家としても、無関心ではいられますまい」


「だ、だが……! 我が家は今、それどころでは……!」


「それどころではないからこそ、でございます」


 執事長の声は静かだった。


「――“弱った家”ほど、外から見れば“危うい”」


 若き当主は息を呑んだ。


「ま、まさか……男爵家は、我が家を……!」


「敵視しているわけではございません。しかし、代官の不祥事、封鎖の混乱、領民の死没……どれも“調査されて当然”の事態です」


 執事長は、淡々と続けた。


「そして、男爵家の嫡男は――“剣の腕も、頭の回転も早い”と聞きます」


 若き当主は、机の端を掴んだ。


「……どうすれば……どうすればいい……?」


 執事長は、静かに頭を下げた。


「――まずは、隠せるものを隠すことです」


「な、何を……?」


「それを決めるのが、当主の役目でございます」


 若き当主は、言葉を失った。


 外では領民が倒れ続け、

 内では家臣が混乱し、

 王都からは催促が届き、

 そして今――


 **“男爵家の嫡男が戻ってくる”。**


 逃げ場は、どこにもなかった。


 ◇医師団◇


「……分からん。まったく分からん……」


 診療所の奥で、老医師が頭を抱えていた。


「熱の出方が違う。咳の質も違う。皮膚の変色は……あれは病の症状ではない」


 若い医師が震える声で言う。


「ですが、毒物の反応も出ませんでした。解毒薬も……」


「効かん。まるで“原因そのもの”が見えん」


 老医師は、机に散らばる診断書を睨みつけた。


「感染症なら、もっと広がり方に規則性があるはずだ。だがこれは……近い者が倒れるわけでも、接触者が倒れるわけでもない」


「では、何が……?」


「分からんと言っておる!」


 怒鳴ったあと、老医師は深く息を吐いた。


「……分からんのだ。病として説明できる材料が、何一つ揃わん」


 若い医師は唇を噛んだ。


「封鎖は……正しいのでしょうか」


「正しいかどうかも分からん。だが、他に手がない」


 老医師は、窓の外を見た。


 倒れたまま動かない男を、家族が必死に抱えている。

 ついに出た死者を、運んでいるのだ。


 疫病発生時にはよくある光景だ。

 死体を一つ所に積み上げ、焼き尽くす。


 ただ、その前に、死んだ者には最後の務めを果たしてもらわなければならない。

 病気の究明と、治療法研究のための解剖協力だ。


「……このままでは、町が死ぬぞ」


 老医師は立ち上がり、気を引き締めた。

 感染のリスクを知りながら、解剖に臨むのだ。


「亡くなったのは老人だったな……何をしていた人だ?」

「分かりません。家族も“昔は色々やっていた”としか」


「職業は?」

「記録がありません。最近は小さな畑で野菜を作っていたそうですが……」


「役に立たんな……先の代官の罪は、領民の未来まで曇らせる」

 老医師は、やるせなく首を振って嘆いた。



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