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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第97話 『報告』 

2/2

 


 ◇プリム◇


 クアトルの帰宅。

 そして、プリムの帰宅。


 家族と使用人に軽い挨拶を済ませた後のこと——


「……父上。報告があります」


 プリムは父の執務室を訪れていた。


 執務室は静かだった。

 窓から差し込む夕陽が、机の上の書類を赤く染めている。


 男爵は手を止め、ゆっくりと顔を上げた。

 事前に伝えられていたことでもある。


「ペクンの町で……“疫病が流行り始めているようだ”という噂があります」


「噂、か」


「はい。ですが――」


 プリムは一拍置いた。


「噂では済まない状況です」


 男爵の目が細くなる。


「……詳しく話せ」


 プリムは頷き、淡々と続けた。


「症状は一定していません。高熱、咳、倦怠感……中には皮膚の変色を訴える者もいるようです。しかし、どれも“決定的な共通点”がない」


「病名は?」


「不明です。医師たちも判断できず……“原因不明の病”としか言いようがない、と」


 男爵は深く息を吐いた。


「封鎖は?」


「続いています。むしろ……厳しくなっているようです。一度、商人たちの要請で緩まりましたが、反動なのか 住民の出入りは完全に止まり、外部の商人も拒まれているとのこと」


「……混乱しているな」


「はい。町の中で何が起きているのか、誰も把握できていません」


 プリムは拳を握った。


「ただの疫病なら、ここまで隠す必要はないはずです。ですが……“何かを隠している”としか思えません」


 男爵は目を閉じた。


「パーヴェル子爵家は、何をしている……」


「それが……」


 プリムは言葉を選んだ。


「子爵家内部も混乱しているようです。当主交代の影響か、指示系統が乱れ、封鎖の理由すら統一されていない」


「……最悪だな」


「はい。ですが――」


 プリムは父を見た。


「これは、ただの“領地の問題”ではありません。王弟殿下も、すでに動いているようです」


 男爵の目が鋭く光った。


「……王弟が?」


「はい。クアルトの件だけではないように思えます。ペクンの封鎖と、この“原因不明の病”。殿下は、何かを掴んでいる――もしくは、疑念を持っている可能性があります」


 静寂が落ちた。


 男爵は、ゆっくりと椅子にもたれた。


「王家が動くかもしれない『疫病』、か」


 それが、隣の領地で発生している。

 領地を治める身としては無視できない。


 男爵は、机の上に置かれた地図へ視線を落とした。

 ペクンの位置に指を置き、ゆっくりと円を描く。


「……距離が近すぎる」


「はい。もし本当に疫病であれば、我が領にも影響が出ます」


 プリムの声は落ち着いていたが、その奥に緊張があった。


「だが、ただの疫病ではない可能性が高い、か」


「はい。症状の不一致、封鎖の厳格化、情報の遮断……どれも“病”というより、“何かを隠している”動きです」


 男爵は目を閉じた。


「パーヴェル子爵家は、何を恐れている……」


「それが分かりません。ですが――」


 プリムは言葉を区切り、父を見た。


「王弟殿下が動いている以上、これは“領地の問題”では済まないでしょう」


 男爵の眉がわずかに動いた。


「……クアルトの件と、繋がっていると?」


「可能性はあります。殿下は、クアルトに“密命”を与えようとしている。その密命が、ペクンの封鎖と無関係ではないかもしれない」


『密命』の内容は聞けない。

 そんなものがあることすら、本来は知るべきではない。


 だから、父と子は警戒せざるを得ない。


「王弟の件は考えるだけ無駄か」

 何もできはしない、と男爵は割り切る。


「そうですね。ですが、パーヴェル子爵家の動きと、領民たちの動きは注視せねばなりません。何かを隠している――。そうでなければ……さらに最悪な事態と言える」


 隠しているのなら、『理由』があり、統制可能だ。

 しかし、なにもない。

 隠せる事実すら把握していないとしたら……誰も、何もできない。


 パーヴェル子爵家の混乱。

 その理由に、大きな意味が出る。


 静寂が落ちた。


 夕陽が沈み、執務室に影が伸びる。


 男爵は、ゆっくりと立ち上がった。


「……プリム」


「はい」


「お前は、明朝もう一度ペクンへ向かえ。封鎖の状況、子爵家の動き、医師たちの反応……可能な限り、すべてを調べてこい」


 プリムは深く頷いた。


「承知しました」


 男爵は窓の外を見た。

 夜の帳が降り始め、遠くの空が赤く染まっている。


「……これは、嵐の前触れだ」


 その声は、誰に向けたものでもなかった。


 男爵の言葉に、プリムは静かに頷いた。


「……嵐、ですか」


「そうだ。まだ風は吹いていない。だが――」


 男爵は、地図の上に置いた指をゆっくりと持ち上げた。


「ペクンで起きていることは、いずれ必ずこちらへ届く」


 その声音は、確信に満ちていた。


 プリムは背筋を伸ばした。


「明朝、出立します」


「頼む。……そして、気をつけろ」


 父の言葉は短かったが、重かった。


 執務室を出た瞬間、

 廊下の空気がひどく冷たく感じられた。


 ――何かが、動き始めている。


 プリムはそう確信した。



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