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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第96話 『決断』 

1/2

 


「密命、だと?!」

 驚愕に震わせながらも、男爵は声を抑えた。

 他人に知られていいはずがないし、内容を聞くなど、それこそ家が滅びる。


「いったい――」

 見開かれた目がクアルトを見た。


「なんか、ね。王弟殿下が、自分のとこで働かないかって誘ってくれたんだ」

 よくわかんないけど、目を付けられちゃったとクアルトは舌を出す。


「っ!」

「まさか?!」

 兄と父の血の気が引いていく。


 王弟直属で、働く。

 それは、正規には存在しない役職に就くことを意味する。


 男爵だろうが侯爵だろうが、爵位を持つ貴族のできることではない。


「だから、意味がない――と?」

 苦みのある口調だ。


 家族を、末の息子を奪われる。

 後継にする、兄弟間で争わせることになろうとも。

 王弟に引き渡すなどありえない。


 男爵の中で、悲壮な決意が固まりそうになっていた。


「なんか『密命』ってかっこいいよね!」

 何もわかっていない、子供の顔で『僕』が笑う。


 だけど――


「僕には、それが合ってる気がするよ」

 静かに言い添えて、空を見上げる。


『ラミネートペーパーゴーレム』が。

 段ボールドローンが、輪を描いていた。


「……合っている、とは?」


 男爵の声は低かった。

 怒りではない。

 “理解できない”という戸惑いが混じっていた。


 クアルトは、空を見たまま答えた。


「ぼく、剣より……こっちのほうが好きなんだ」


『僕』の声は、まっすぐだった。

『オレ』は、胸の奥がざわつくのを感じた。


「好きで、得意で……やってて楽しくて。それで、誰かの役に立てるなら……」


 クアルトは、ゆっくりと父を見た。


「ぼくは、それでいいと思うんだ」


 プリムが息を呑んだ。

 男爵は、言葉を失っていた。


「剣は……兄さんのものだよ」


 その一言は、

 “敗北”ではなく 、“敬意”だった。


 プリムの目が揺れた。


「ぼくは、兄さんみたいにはなれない。でも……ぼくにしかできないことがあるなら、そっちをやりたい」


『僕』の言葉は幼い。

 だけど――

『オレ』は、その幼さが正しいと分かっていた。


 レーデルフィーヌが、そっと口を開いた。


「……それが、王弟殿下のご判断です」


 男爵が、ゆっくりと彼女を見る。


「クアルト様には、クアルト様にしかできないことがある。王弟殿下はそうお考えのようです。私も、そう思います」


 プリムが目を伏せた。

 その肩が、わずかに震えた。


 男爵は、深く息を吐いた。


「……なるほど」


 その声は、怒りでも、拒絶でもなかった。


「だから“意味がない”と言ったのか」


 クアルトは、こくりと頷いた。


「うん。ぼくは……ここにいちゃいけないんだ」


 静寂が落ちた。


 プリムが、顔を上げた。


「……クアルト」


 その声は、兄としてのものだった。


「お前は……本当に、それでいいのか?」


 クアルトは、迷わず答えた。


「うん。ぼくは……ぼくの道を行くよ」


 風が吹いた。

 空を舞う紙のゴーレムたちが、光を反射した。


 その光は、“少年の未来”を照らしているように見えた。


 ◇


 クアルトは、帰宅した。


「ただいまー!」


 まるで、友人宅に一晩お泊りしてきたような、そんな気楽さで声を上げる。


 いつぞやのように、使用人総出の出迎えがあった。

 母の抱擁と、兄たちの笑顔もある。


『これ』を守るために、『クアルト』は外へ出るべきなのだ。

『オレ』は、そっと呟く。

 家を守る、とはそういうことだ。


 そうなんだね。


『僕』が静かに受け入れた。


 ・

 ・

 ・


「あー、帰ってきたー!」

 自分の部屋に転がり込み、ベッドにだいの字になって息をつく。


 馬車の中も、パスチャーゴーレムの『ホーム』も広くしたけれど、やっぱり慣れ親しんだ部屋は落ち着く。

 天井の木目も、窓から入る風の匂いも、全部“いつもの”だ。


「なんか一気にゴーレム増えたよなー」

 ぽつりと呟く。


 疲れていたから、破壊されたまま放置してきたが、明日には再度作り上げられる。

『クアトルの騎士団』はすぐにでも復活するだろう。


 初めてこの部屋でペーパーゴーレムを作ったときは、魔力の増減に一喜一憂していた。

 ちょっと動いただけで魔力が底をつき、ベッドに倒れ込んでいたあの頃。


 今は――無頓着になっている。

 維持できる数よりずっと少ない数で推移しているから、魔力が減っていく感覚すら薄い。


「……慣れって怖いな」

 天井を見上げながら、クアルトは小さく笑った。


 頭上では、海亀ゴーレムがふわりと浮かんでいる。

 先頭には使えなかったゴーレムの一体だ。

 花びらがひとひら落ちて、クアルトの胸の上に乗った。


「お前も、もうすっかり家族みたいなもんだよな」

 そう呟くと、海亀はゆっくりと首を傾けた。


 部屋は静かで、穏やかで、“何も起きない日常”が戻ってきたように見えた。


 ――見えただけだった。



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