表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/124

第95話 『決着』

2/2

  


 ◇クアルト◇


 世界が細くなる。

 風が線になって、視界の端が消えていく。


 プリムが、そこにいた。


「いけぇっ!」


 紙の羽が悲鳴を上げる。

 役目を終えたドローンが、失速する、その直前。

 思い切り蹴りつけて、飛び出した。


 速度のまま剣を抜き、兄へと突き出す。


 クアルト——『僕』――の最高の一撃!


 前世知識――価値観——に縛られている『オレ』では、どうしてもたどり着けない『剣の極み』。

 そこにたどり着けるのは、『この世界に生きる、ひたむきな少年』の特権だ。


 その重さの乗った剣が、追いつくでも、並び立つでもなく、支えるために——

 ——今、奮われる。


 ◇プリム◇


「——来い!」


 風が爆ぜた。


 クアルトの剣が迫る。

 迷いも、恐れも、ためらいもない。

 ただまっすぐに、自分へ向かってくる。


 七歳の腕とは思えない重さ。

 刃が空気を裂き、熱を帯びていた。


「いいぞ……!」


 プリムは踏み込んだ。

 剣を抜き放ち、真正面から受け止める。


 衝撃が走る。

 足元の土が砕け、風が渦を巻いた。


 弟の一撃は、

 かつての自分が振るったどの剣よりも——重かった。


 七歳で、この重さを出せるのか――


 しらず、笑みが浮かぶ。


 強くなったな――



 ガキィンッ!


 ◇クアルト◇


「……え?」


 気づいたときには、兄さんの剣が、『僕』の喉元にあった。


「見えなかったんですけど?!」

 速い。速すぎる。


「兄さんって……こんな早かった……?」

 ここまでの模擬戦なんてしたことはない。

 それは、もちろんだ。


 だけど、手合わせしたことがなかったわけではない。

 年に数回だけど、機会はあった。


『嫡男の力量を示す、そんな理由もあるんたぢろぅな』——ってのは『オレ』さんの言葉だ。


 最後の手合わせの時に見た剣筋の、二倍は速いぞ!?


「年の離れた弟に、本気を出しはしないさ」


 兄さんが、爽やかに肩をすくめた。

 晴れやかな笑み。

 余裕しかない。


「げ。手加減されてた?!」 

『僕』がショックを受けている。


 でも、まぁ、『そりゃそうだろ』と『オレ』は納得した。

 体格も違う、経験も、技も。

 それで、互角に打ち合うことなんてできるはずがないのだ。


「むぅ! 勝てなかったかぁ――」

 空を見上げて、『僕』は力を抜いた。


 破壊されることなく残った『ラミネートペーパーゴーレム』たちが『九体』飛んでいる。


 もしも——あの九体を先に突撃――体当たり――させていたら?


 それは、口にしない。

 一騎打ちに持ち込ませた、『兄の強さ』。

 一騎打ちに持ち込みたくなった、『弟の弱さ』、だ。




「……ふたりとも、そこまでだ」


 低く、よく通る声だった。

 戦場の熱が、すっと引いていく。


 男爵が歩いてきた。

 ゆっくりと、しかし迷いのない足取りで。


「父上……」


 プリムが剣を収める。

 クアルトも慌てて姿勢を正した。


 男爵は、まずプリムを見た。

 その目は厳しくも、どこか誇らしげだった。


「プリム。よく抑えたな」


 次に、クアルトへ視線を移す。


「そして……クアルト」


 呼ばれた名前に、『僕』がびくっと肩を揺らす。


「お前は気づいていないだろうが――」


 男爵は一拍置いた。

 風が止まったように感じた。


「これは“後継の話”でもあるのだ」


 クアルトは瞬きをした。

『僕』は言葉を失い。

『オレ』は、一歩引いた。


「兄が本気を出さなかった理由も」

 プリムに頷きかける。


「お前が本気で挑んだ理由も」

 クアルトの頭に手を置いた。


 男爵はふたりを見比べる。


「すべては、家を継ぐ者としての資質を……私に示していた」


 プリムがわずかに息を呑む。

 クアルトは、ただ口を開けたまま固まっていた。


 え―?

 それはもうないはずじゃないのー?


 問いかけられるが、『オレ』としては答えに窮する。

 今日の『クアルト』の活躍は、『後継候補に入れません』というには大きすぎるものだ。

 自分が男爵なら、絶対に放置しない。


「……後継、って……ぼくが?」


『僕』の声は震えていた。


 男爵は静かに頷いた。


「まだ決まってはいない。だが――」


 その目は、まっすぐにクアルトを射抜いていた。


「今日の一撃は、“候補”として十分すぎるほどの価値があった」


 やっぱり、そうなるよな。

 だけど――


「それは――意味ないですよ」


 この展開だけは避けたい。

 クアルトはメリマルゴール男爵家の後継になってはならないのだ。

 絶対に。


 だから、踏み込む。

 幸い、都合のいいネタがある。


「意味がない?」

 父と兄が、眉を顰める。


『オレ』はちらり、と視線を投げる。

 周囲の人々が、皆距離を取っていることを確認した。

 副ギルド長が気を利かせてくれたようだ。


 イーアンとセティも、そちら側で弥次馬に溶け込んでいる。


 声が届く距離にいるのはアンナとアーネスト、そして――


「レーデルフィーヌ!」


 呼ばれた名に、少女がびくっと肩を揺らした。


「……クアルト様?」

 ここで、『私』?


 そんな顔で、男爵家の輪の中に入ってくる。


「この人は?」


 文官姿で、剣を腰に佩いている。

 不審に思った男爵が、目を細めた。


「——名乗って。裏の肩書でね」

「っ?!」


 レーデルフィーヌの瞳が揺れた。

 一瞬、こちらを見て、次に男爵を見て……そして覚悟を決めた。


 少女は、静かに膝をついた。


「レーデルフィーヌ・アーレン。王弟殿下直属、第三文官……兼、護衛任務従事者です」


 空気が、凍った。


 プリムが目を見開く。

 男爵の表情が、わずかに険しくなる。


「王弟……直属?」


「はい」


 レーデルフィーヌは、まっすぐに男爵を見上げた。

 その姿は、さっきまでの“迷子のような少女”ではなかった。


「本来なら、身分を明かすつもりはありませんでした。ですが……クアルト様のご判断であれば」


 男爵が、低く問う。


「……目的は?」


 レーデルフィーヌは、迷わず答えた。


「クアルト様の保護と監視。そして……“将来性の確認”です」


 プリムが息を呑んだ。

 男爵の目が細くなる。


「将来性、とは?」


「王弟殿下は、クアルト様にとある『密命』をお与えになろうと考えています。その使命に耐えられるかどうかを見極めるのが私の役目です」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ