第94話 『ペネトレーション』
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◇クアルト◇
プリムが戦力再編のタイミングを計り始めたのが、感じ取れた。
細かく指揮を執っていたのが、一つ一つの間が開き始めている。
感覚的な話だ、そんな気がする――程度の。
でも——
多分、間違いない——
——いまだ——
「全体、前へ! だよ!」
『僕』が声を張り上げた。
未成熟な喉が、高く澄んだ声を出す。
最後の砦。
馬車を動かした。
左右に分かれ、まっすぐにプリム陣営へと突き進む。
『ポーセリンゴーレム』が、馬車の屋根で舞っている。
扇がひらひら揺れた。
◇プリム◇
「来たか!」
予想していた展開。
見え透いていた『進撃』だ。
「正面からは受けるな! 左右から車輪を狙え!」
チャリオットとの戦いでの対応策である。
正しい対応。
間違いのない動き。
間違いなく『正解』だ。
なのに——
「——なるほど、な」
プリムが唇を噛んだ。
馬車の正面には立つな、横へ付け。
左右に付ければ最善。
そんな意味の指示だった。
これが、裏目に出る。
「誘いか!」
これすらも!
馬車は二列に並んで突き進んでくる。
その二列の間が狭い。
人の入り込める余地がないほどに。
だから、二台を挟んで左右に展開する形になった。
明らかに、攻勢が薄くなる。
「しつこい!」
いったい、何重の『誘い』をかけてくるのか。
◇クアルト◇
突貫していった馬車が、側面を削られている。
さすが、我が家の誇る精強なる騎士団だ。
ちょっとうれしい。
だけど――
「勝たせてもらうよー!」
『僕』は勝つつもりでいる。
『狙い』は悪くない。
悪くないと『オレ』も思う。
だけど――
いや。
——任せよう。
『オレ』が邪魔するのは筋が通らない。
◇プリム◇
馬車は削れている。
屋根で踊っていた『人形』も、副長が撃破した。
もちろん、『布』は全滅させている。
残りのゴーレムはわずかだ。
だけど――
「油断はしないぞ」
気は緩めない。
プリムは正面を見据えていた。
◇クアルト◇
「さて、と」
『準備』の済んだクアルトが、前を見る。
突き進んでいく馬車と馬車。
その間のわずかな隙間の向こう。
長兄プリムの姿があった。
大型のゴーレムはほぼ出払っている。
残っているのは宝飾系の小型ゴーレムぐらいだ。
その全てを、クアルトは外へ出していた。
ただでさえ小さい。
攻撃されて砕かれるなんて嫌だ。
戦場になんて出せるものじゃなかった。
「驚いてくれるかなぁ?」
『僕』が楽しそうだ。
『オレ』は胃が痛いよ。
◇プリム◇
「さて、この状態が、おまえの『お膳立て』だとして、真の狙いはどこにある?」
周囲を見渡して、プリムはわずかに首を傾げた。
確かに、押されている。
度重なる『誘い』の攻撃で、陣形は荒れ果てた。
団員も削られて厚みを失いつつある。
それでも、クアルトは手駒をほぼ使い果たそうとしているように見えた。
何も考えずに押し込んだだけ?
考えてみるが、疑問を思い浮かべたところで振り払った。
それは、ありえない。
メリマルゴール男爵家の人間として。
あり得ない。
ならば?
「ふふっ」
笑いがこぼれた。
「メリマルゴール男爵家の者……か」
晴れやかな笑みで、プリムは剣の柄に手を掛けた。
◇クアルト◇
ゴーレムがどんどん減っている。
だけど、それでいい。
それは必要な代償。
正当な手順。
すべての『指し手』は、このためにある。
このためにあった。
風景が風に溶けていく。
馬車の壁が『左右』を流れていった。
「いっくよ―!」
風圧に負けないよう声を張り上げる。
最終局面が近づいていた。
◇プリム◇
「あはっ!」
プリムは、思わず笑った。
クアルトが近づいてくる。
尋常ではない速度で。
「あれは――紙か?」
奇妙な形。
虫だろうか?
十字に交叉した支柱。
その中で、羽? が回っている。
そんなものに足を乗せ、クアルトが飛んでいた。
まっすぐ、自分だけを見て。
キングは一コマずつしか動けない。
そんな常識は知らないとばかりの高速移動。
さしずめ、あの『紙』はクイーンだろうか。
「望むところだ」
キング同士の直接対決。
風が熱を帯びていた。
面白い。
「こい! クアルト!」
◇クアルト◇
プリムが、どんどん大きくなってくる。
剣の柄に手を置き、いつでも抜けるように構えているようだ。
だけど——
「この速度なら!」
行ける、はず!
スピードに乗って近づき、その速度のまま剣を抜く。
普段、手にすることはほとんどないけど、ちゃんと使い込んだ愛剣がある。
鍛冶師の親方に特注したオーダーメイド。
手にしっかり馴染んでいる。
へまはしない!
◇プリム◇
「減速しない……か」
移動だけで、対峙するときは止めるのかと思ったが、そうではないようだ。
あの速度を活かせるということになる。
意外ではない。
自分にはできるから。
同じ兄弟だ。
『適性』は違っても、同じ訓練はしてきたはず。
自分なら……。
そう、『九歳の自分になら』、できる。
「お前は、七歳で使いこなせるのか?」
すごいじゃないか。
『だけど』——、負けないぞ。




