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『時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話』  作者: 葉月奈津・男
第二部、『帰路』

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第94話 『ペネトレーション』

1/2

  


 ◇クアルト◇


 プリムが戦力再編のタイミングを計り始めたのが、感じ取れた。

 細かく指揮を執っていたのが、一つ一つの間が開き始めている。

 感覚的な話だ、そんな気がする――程度の。


 でも——

 多分、間違いない——



 ——いまだ——



「全体、前へ! だよ!」

『僕』が声を張り上げた。

 未成熟な喉が、高く澄んだ声を出す。


 最後の砦。

 馬車を動かした。


 左右に分かれ、まっすぐにプリム陣営へと突き進む。



『ポーセリンゴーレム』が、馬車の屋根で舞っている。

 扇がひらひら揺れた。


 ◇プリム◇


「来たか!」

 予想していた展開。

 見え透いていた『進撃』だ。


「正面からは受けるな! 左右から車輪を狙え!」

 チャリオットとの戦いでの対応策である。


 正しい対応。

 間違いのない動き。


 間違いなく『正解』だ。


 なのに——


「——なるほど、な」

 プリムが唇を噛んだ。


 馬車の正面には立つな、横へ付け。

 左右に付ければ最善。


 そんな意味の指示だった。

 これが、裏目に出る。


「誘いか!」

 これすらも!


 馬車は二列に並んで突き進んでくる。

 その二列の間が狭い。

 人の入り込める余地がないほどに。


 だから、二台を挟んで左右に展開する形になった。

 明らかに、攻勢が薄くなる。


「しつこい!」

 いったい、何重の『誘い』をかけてくるのか。


 ◇クアルト◇


 突貫していった馬車が、側面を削られている。

 さすが、我が家の誇る精強なる騎士団だ。


 ちょっとうれしい。


 だけど――


「勝たせてもらうよー!」

 『僕』は勝つつもりでいる。


 『狙い』は悪くない。

 悪くないと『オレ』も思う。


 だけど――


 いや。

 ——任せよう。


 『オレ』が邪魔するのは筋が通らない。 


 ◇プリム◇


 馬車は削れている。

 屋根で踊っていた『人形』も、副長が撃破した。

 もちろん、『布』は全滅させている。

 残りのゴーレムはわずかだ。


 だけど――


「油断はしないぞ」

 気は緩めない。


 プリムは正面を見据えていた。


 ◇クアルト◇


「さて、と」

『準備』の済んだクアルトが、前を見る。


 突き進んでいく馬車と馬車。

 その間のわずかな隙間の向こう。

 長兄プリムの姿があった。


 大型のゴーレムはほぼ出払っている。

 残っているのは宝飾系の小型ゴーレムぐらいだ。


 その全てを、クアルトは外へ出していた。

 ただでさえ小さい。

 攻撃されて砕かれるなんて嫌だ。

 戦場になんて出せるものじゃなかった。


「驚いてくれるかなぁ?」

『僕』が楽しそうだ。


『オレ』は胃が痛いよ。


 ◇プリム◇ 


「さて、この状態が、おまえの『お膳立て』だとして、真の狙いはどこにある?」


 周囲を見渡して、プリムはわずかに首を傾げた。

 確かに、押されている。


 度重なる『誘い』の攻撃で、陣形は荒れ果てた。

 団員も削られて厚みを失いつつある。


 それでも、クアルトは手駒をほぼ使い果たそうとしているように見えた。


 何も考えずに押し込んだだけ?

 考えてみるが、疑問を思い浮かべたところで振り払った。

 それは、ありえない。


 メリマルゴール男爵家の人間として。

 あり得ない。


 ならば?


「ふふっ」


 笑いがこぼれた。


「メリマルゴール男爵家の者……か」


 晴れやかな笑みで、プリムは剣の柄に手を掛けた。


 ◇クアルト◇


 ゴーレムがどんどん減っている。

 だけど、それでいい。


 それは必要な代償。

 正当な手順。


 すべての『指し手』は、このためにある。

 このためにあった。


 風景が風に溶けていく。

 馬車の壁が『左右』を流れていった。


「いっくよ―!」

 風圧に負けないよう声を張り上げる。


 最終局面が近づいていた。


 ◇プリム◇


「あはっ!」

 プリムは、思わず笑った。


 クアルトが近づいてくる。

 尋常ではない速度で。


「あれは――紙か?」


 奇妙な形。

 虫だろうか?


 十字に交叉した支柱。

 その中で、羽? が回っている。


 そんなものに足を乗せ、クアルトが飛んでいた。

 まっすぐ、自分だけを見て。


 キングは一コマずつしか動けない。

 そんな常識は知らないとばかりの高速移動。


 さしずめ、あの『紙』はクイーンだろうか。


「望むところだ」


 キング同士の直接対決。


 風が熱を帯びていた。


 面白い。


「こい! クアルト!」


 ◇クアルト◇


 プリムが、どんどん大きくなってくる。

 剣の柄に手を置き、いつでも抜けるように構えているようだ。


 だけど——


「この速度なら!」


 行ける、はず!


 スピードに乗って近づき、その速度のまま剣を抜く。

 普段、手にすることはほとんどないけど、ちゃんと使い込んだ愛剣がある。

 鍛冶師の親方に特注したオーダーメイド。

 手にしっかり馴染んでいる。


 へまはしない!


 ◇プリム◇


「減速しない……か」


 移動だけで、対峙するときは止めるのかと思ったが、そうではないようだ。

 あの速度を活かせるということになる。


 意外ではない。

 自分にはできるから。


 同じ兄弟だ。

『適性』は違っても、同じ訓練はしてきたはず。


 自分なら……。

 そう、『九歳の自分になら』、できる。


「お前は、七歳で使いこなせるのか?」


 すごいじゃないか。

『だけど』——、負けないぞ。


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